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赤ずきん姫とオオカミ騎士~姫に触れられるのは、ただひとりのオオカミだけ~  作者: 月乃雫


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132/162

第132話 矛盾の連鎖─ロウの前に現れる“もう一つの影”

保管庫を出た団長は、帳簿を抱えたまま廊下を歩いていた。


冷たい石床に、足音が乾いた調子で響く。




(……三つの帳簿で同じ“空白”。これは偶然ではない)




地下通路の出入り記録。荷物搬入記録。警備交代記録。


すべて“王妃が亡くなった夜”だけが消えている。




団長は歩きながら、頭の中で線を繋いでいく。




(侍医が消えた夜。王妃様が亡くなった夜。記録が消された夜。……すべて同じ、夜)




そして──


(その夜、宰相ヴァルガは“地下通路”を使った)




確信が、静かに胸の奥で形を成す。


団長は足を止め、窓の外の庭園を見下ろした。




(ロウにも……そろそろ話すべきか)




だが、まだ“決定的な一手”が足りない。




(もう一つ。もう一つだけ裏を取る必要がある)




団長は踵を返し、文書管理局の奥へ向かった。




同じ頃―


ロウはロザリンの部屋の前で、静かに立っていた。


姫の部屋の前は、いつもと変わらぬ静けさ。




だが──ロウの胸の奥には、言葉にならない違和感があった。




(……空気が変わってきている)




団長が動いている。宰相の周囲に“何か”がある。


ロウは詳細を知らない。


だが、姫様に危険が迫る時は、必ず空気が変わる。


それだけは、長年の経験で分かっていた。




その時だった―


廊下の向こうで、“誰か”がロウを見ていた。


侍従でもない。騎士でもない。宰相派の文官でもない。


見覚えのない男。




ロウが視線を向けると、男はすっと目を逸らし、廊下の角へ消えた。


ロウは一歩踏み出した。




(……まただ)




昨日も、同じような“影”を見た。


姫様の周囲に、見知らぬ者が現れるのは──宰相が動く前触れ。


ロウは剣の柄にそっと触れた。




(団長が何を掴んだのかは知らない。だが──姫様を狙う影が動き始めている)




ロウはロザリンの部屋の扉に手を置き、静かに息を吸った。




「……姫様。どうか、無事で」




その声は誰にも届かない。


だが、ロウの決意だけは揺らぎがなかった。




文書管理局の奥にある、“未整理資料室”。


団長は扉を押し開けた。


薄暗い部屋の中には、分類されていない古い書類が山のように積まれている。




(……ここに、“あの夜”の痕跡が残っているはずだ)




団長は松明を掲げ、一歩踏み込んだ。


その瞬間──背後で、廊下の空気がわずかに揺れた。


団長は振り返る。


誰もいない。


だが、確かに“誰か”がこちらを見ていた。




(……宰相派か)




団長は低く呟いた。




「ロウ……お前に話す時が近いようだ」




松明の火が揺れ、団長の影が長く伸びる。

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