↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤ずきん姫とオオカミ騎士~姫に触れられるのは、ただひとりのオオカミだけ~  作者: 月乃雫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
131/162

第131話 保管庫の帳簿─抜け落ちた一夜

王城の西棟──文書管理局の奥にある“保管庫”。


分厚い石壁に囲まれ、昼でも薄暗いその部屋は、王城の歴史そのものが眠る場所だった。




団長は扉を押し開け、静かに中へ入った。


棚には、年代ごとに分類された帳簿が整然と並んでいる。




(……ここに、当時の記録があるはずだ)




団長は迷いなく、“王妃フローラが亡くなった頃”の帳簿が収められた棚へ向かった。




指先で背表紙をなぞり、一冊を抜き取る。


重い。長い年月を吸い込んだ紙の重さだった。




団長は机に帳簿を置き、ゆっくりと開いた。


ページをめくるたび、紙が乾いた音を立てる。




地下通路の出入り記録──宰相の側近、研究員、騎士、侍従……当時の名が淡々と並んでいる。




しかし、団長の指があるページで止まった。




「……ない」




その一言は、保管庫の静けさを切り裂くように低かった。


副官がいれば息を呑んでいただろう。




団長はページをめくり直す。


前日──記録あり。翌日──記録あり。




だが、“王妃が亡くなった夜”の記録だけが、丸ごと抜け落ちている。




ページそのものが存在しない。


破られた跡もない。切り取られた跡もない。


最初から“なかった”かのように、その一夜だけが消えている。




団長は帳簿を閉じ、深く息を吐いた。




「……やはり、消したか」




その声には怒りではなく、確信があった。




団長は棚に戻り、同じ時期の別の帳簿──“荷物搬入記録”を手に取った。


ページを開く。


そこにも、同じ“空白”があった。




王妃が亡くなった夜だけ、搬入記録が存在しない。


団長は目を細めた。




「……二つの帳簿で同じ“空白”。偶然ではない」




さらにもう一冊──“警備交代記録”。




そこにも、同じ“空白”。


団長は静かに呟いた。




「宰相ヴァルガ……お前は“その夜”を、王城の記録から消した」




松明の火が揺れ、帳簿の影が机に落ちる。


団長は帳簿を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。




「だが──消したという事実そのものが、お前の罪だ」




保管庫の扉を押し開けると、冷たい空気が流れ込んだ。


団長は歩きながら、低く呟いた。




「侍医が消えた夜。王妃が亡くなった夜。記録が消された夜。……すべて同じ“ひとつの夜”だ」




その夜に何があったのか。


宰相ヴァルガは何をしたのか。


侍医は何を見たのか。




すべての答えが、その“抜け落ちた一夜”にある。


団長は拳を握りしめた。




「必ず辿り着く……あの夜の真実に」




王城の空気は、さらに重く、さらに鋭く張り詰めていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。