第130話 地下通路─消された夜の痕跡
王城の地下へ続く階段は、昼間でも薄暗く、湿った冷気が肌にまとわりつく。
団長は松明を手に、副官とともにゆっくりと降りていく。
「……ここが、侍医が最後に目撃された場所です」
副官の声は、地下の静けさに吸い込まれるように小さかった。
団長は頷き、壁に埋め込まれた古い鉄扉に目を向けた。
「宰相ヴァルガが管理している区域──“研究棟地下通路”。」
扉には、何年も前のものと思われる封蝋の跡が残っていた。
団長は手袋越しに触れ、低く呟く。
「……封が二度、張り替えられているな」
副官が驚いたように目を見開く。
「二度……?王妃様が亡くなった夜と……その後……ですか?」
「可能性は高い」
副官は震える声で言う。
「団長……侍医は、この扉の向こうへ?」
団長は答えず、扉の鍵穴を覗き込んだ。
「鍵が……“外側から”折られている」
副官の顔色が変わる。
「閉じ込められた……?」
「あるいは──“入れられた”まま、出られなかった」
団長は扉から手を離し、深く息を吐いた。
「宰相ヴァルガは、侍医をここへ連れてきた。王妃様の死の“真相”を知る者を……この地下で消した」
副官は拳を握りしめる。
「……団長。これで、宰相の関与は──」
「まだ“証拠”ではない。だが──“証明できる段階”に入った」
団長は松明を掲げ、扉の向こうの闇を見つめた。
「この地下通路の記録をすべて洗う。
保管庫の帳簿、当時の出入り、荷物の搬入、
宰相の側近の動き──必ず何か残っている」
副官は深く頷いた。
「すぐに取りかかります」
「……いや、自分の目で確かめる」
副官が驚いたように顔を上げる。
「団長ご自身が……?」
「当然だ。宰相ヴァルガが関わっている可能性がある以上、他人任せにはできん」
団長は階段の方へ歩き出した。
「副官、お前はここを封鎖しろ。誰も近づけるな。特に宰相派の者はだ」
「はっ!」
副官が敬礼する。
団長は振り返らずに言った。
「“あの夜”の記録が残っていれば──宰相の悪事に繋がる。もし抜かれていれば……それ自体が証拠だ」
団長はふと足を止めた。
「……侍医の家族が消えた理由も、ここに繋がるはずだ」
副官は息を呑む。
「家族も……“見られた”のかもしれません」
団長は静かに頷いた。
「宰相ヴァルガは、“証人”を残さない男だ」
副官は深く頭を下げ、すぐに階段を駆け上がっていった。
松明の火が揺れ、団長の影が長く伸びる。
団長は、ひとり呟いた。
「宰相ヴァルガ……お前が消した“夜”を、必ず暴く」
王城の空気は、さらに重く、鋭く張り詰めていく。
団長はそのまま階段を上り、保管庫へ向かった。




