第124話 朝の光の中のふたり
窓の外が白み始め、柔らかな朝の光が床に落ちていた。
ロザリンは昨夜ロウに抱きしめられた温もりを胸に残したまま、ゆっくりと目を開けた。
胸の奥にはまだ、ロウの言葉の余韻が静かに残っている。
ロウはすぐそばにいて、ロザリンが目を覚ましたのを確かめるように静かに微笑んだ。
「……おはようございます、姫様」
その声に、ロザリンの胸がまた静かに熱くなる。
ロザリンが顔を上げると、ロウはその表情を丁寧に読み取るように目を細めた。
「昨夜より……少しお顔の色が良くなられましたね」
ロザリンは微笑んだ。
「ロウ……ありがとう」
ロウはロザリンの表情を見つめ、静かに息を整えてから口を開いた。
「姫様……宰相ヴァルガの件を……団長に報告してきます。政略結婚を止めるためにも……早めに動いた方がいいので」ロザリンの胸が静かに震えた。
昨夜、あれほど近くにいたロウが今から自分のそばを離れる。
ほんの短い時間だと分かっていても──胸の奥がきゅっと縮む。
ロザリンの指先が、布をほんの少しだけ掴んだ。
ロウはその小さな動きを見逃さなかった。
静かに、そっと声を落とす。
「……すぐ戻ります。姫様をひとりにするつもりはありません」
その一言で、ロザリンの胸の揺れが静かにほどけていく。
ロザリンは息を整え、ゆっくりと頷いた。
「……ええ。行ってきて、ロウ」
ロウは軽く頭を下げ、部屋の中央へ歩み寄った。
「念のため……結界を張っていきますね」
床に触れた瞬間、淡い銀色の光が円を描き、朝の光と重なりながら部屋に広がった。
静かで、澄んだ光。
外の気配が遠ざかり、部屋は守られた聖域のように静まった。
ロザリンはその光を見つめ、ふっと微笑んだ。
「ありがとう、ロウ」
ロウも柔らかく微笑み返した。
「はい……姫様は……ここでゆっくりしていてください」
その声は、“すぐ戻る”と自然に伝わる温度だった。
ロウは扉に向かい振り返り、ロザリンの瞳をまっすぐ見つめた。
「姫様………行ってきます」
ロザリンの胸が静かに震えた。
「ええ。気をつけてね」
ロウは扉に向き直ったあと手をかけたまま、ふと動きを止めた。
振り返らなくても、ロザリンが自分を見つめているのが分かる。
「……すぐ戻ります、姫様」
その声は、恋人にだけ向けられる柔らかさだった。
ロザリンの胸が静かに震える。
「待ってるわ、ロウ」
ロウは小さく息を吸い、その言葉を胸に刻むように頷いた。
そして扉を静かに閉める。
朝の廊下へ出たロウの背中には、ロザリンの視線の温度がまだそっと寄り添っていた。




