第123話 触れた手の温度
ロザリンは、ロウの胸に顔を寄せたまま、しばらく動けなかった。
ロウの腕の温度が、まだ自分を包んでいる。
その温かさが、胸の奥にゆっくりと染み込んでいく。
やがてロウが、そっとロザリンの髪を撫でた。
「……姫様。大丈夫ですか」
その声は、いつもより柔らかくて、胸の奥に落ちていくようだった。
ロザリンはゆっくりと顔を上げた。
ロウの瞳がまっすぐに自分を見ている。
その視線に胸がまた熱くなる。
「……ロウ。あなたの言葉……全部、嬉しかったわ」
ロウは少しだけ目を伏せた。
「僕も……姫様の願いを聞けて……本当に、嬉しかったんです」
ロザリンは、そっとロウの胸元を掴んだ。
「……ロウ。あなたは……変わったわね」
ロウは瞬きをした。
「変わった……でしょうか」
「ええ。前より……ずっと、私を見てくれる」
ロウはその言葉に少しだけ息を呑んだ。
そして、ロザリンの手を包み込むように握り直した。
「姫様が……僕を呼んでくれたからです。あの願いが……僕を動かしたんです」
ロザリンの胸が、静かに震えた。
ロウは続けた。
「姫様の想いに……応えたい。その気持ちが……僕を強くします」
ロザリンは、その言葉を胸に抱きしめるようにロウの手を握り返した。
その瞬間──
”ふっ”と、空気が揺れた。
ロザリンが小さく息を呑む。
ロウもすぐに気づいた。周囲の魔力が、ほんのわずかに震えたのだ。
「……魔力の流れが……変わりました」
ロザリンはロウの腕に触れたまま、周囲を見渡した。
風が止まり、空気が静かに沈む。
ロウは、ロザリンを庇うように一歩前へ出た。
「姫様。下がってください」
ロザリンは首を振った。
「いいえ。あなたのそばにいるわ」
ロウは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに微笑んだ。
「……分かりました」
二人が並んだ瞬間──空気の揺れはすっと消えた。
まるで、二人の距離が近づいたことに世界が反応したかのように。
ロザリンは、胸に手を当てた。
「……ロウ、今の……何かしら」
ロウがロザリンの横顔を見つめた。
「分かりません。でも……姫様の願いが僕を呼んだように……何かが、姫様を呼んでいるのかもしれません」
ロザリンはその言葉に小さく息を呑んだ。
ロウが手をそっと握った。
「姫様、何があっても……僕がそばにいます」
ロザリンは、その言葉に静かに頷いた。
二人は、触れた手の温度を確かめるようにしばらくそのまま寄り添っていた。




