第121話 積もった願い
リアナは、ロザリンの前にだけ静かに姿を現した。
どうして自分にだけ──その理由をロザリンは知りたかった。
ロザリンの問いは、声にならなかった。けれどリアナには届いていた。
胸元のクイーンローズが、ふっと温度を帯びた。
『あなたの願いが……わたしの願いと同じ場所に辿り着いたから。その瞬間に、わたしは呼ばれたの』
ロザリンの胸が震える。
リアナは続ける。
『ロウを守りたいという想い。二度とあの痛みに触れないようにという願い。それは、わたしが最後に抱いた願いと似た思いだわ』
ロザリンは息を呑む。
『だから、あなたの前に現れたの。
“選んだ”のではなく……あなたの願いが、わたしをここへ連れてきたの』
リアナの声は、どこまでも優しく、どこまでも強い。
『ロザリン。あなたはもう、わたしの願いを継いでいるわ。クイーンローズも覚醒している。その証として……わたしは姿を見せたの』
ロザリンの表情が、ほんのわずかに揺れた。
その揺れを、ロウは見逃さなかった。
彼はしばらく黙っていた。
ロザリンが落ち着くのを待つように、呼吸を合わせるように。
そして、静かに口を開いた。
「……姫様」
ロザリンはゆっくり顔を上げる。
ロウの瞳は、いつものように深く静かだった。その奥に、言葉にならない“気づき”があった。
「……初代の姫様は、どうして……姫様の前にだけ姿を現したのですか?……」
ロザリンは息を呑んだ。
ロウの声は低く、けれどどこまでも優しかった。
「僕には……見えません。でも……姫様が、何かを受け取ったことだけは分かります」
ロザリンは、胸の奥に落ちたリアナの言葉を思い出す。
──あなたの願いが、わたしを呼んだの。
ロザリンは視線を落とし、小さく息を吸った。
「……ロウ。初代のリアナは……私の願いに応えたの」
ロウの眉がわずかに動く。
ロザリンは続けた。ゆっくり、言葉を選びながら。
「ロウが……私のために、城の地下に行き苦しんでいた。
その後、私は……ずっと願っていたの。“もう二度と、ロウにあんな思いをさせたくない”って」
ロウの呼吸が止まった。
ロザリンは、その願いがどれほど長く胸に沈んでいたかを静かに語った。
「その願いが……初代が当時願っていた事と同じだった。だから……初代は私の前にだけ現れたの」
ロウは、その言葉を胸の奥で受け止めた。
痛みと、温かさと、どうしようもないほどの切なさが混ざった感情が静かに広がっていく。
(……姫様は……そんな願いを……ずっと……)
ロウは、言葉を失ったままロザリンを見つめた。
ロザリンはただ静かに、ロウの瞳を見返した。
「……だから、ロウ。初代は……私にだけ来たのよ」
ロウは、胸の奥が締めつけられるのを感じながらゆっくりと頷いた。
「……姫様」
その声は、少し震えていた。
「……ありがとうございます」
ロザリンは、その言葉の重さを知っていた。
そして二人の間に、言葉より深い静けさが落ちた。




