第120話 初代の姫
ロザリンは胸元を押さえたまま、
深く息を吸った。
ロウはすぐ隣で、ロザリンの手をそっと支えている。
「姫様……大丈夫です。戻ってこられたら、すぐここにいます」
その声に背中を押されるように、ロザリンは目を閉じた。
霧の中に立つ少女は、ゆっくりと振り返った。
その瞳は、もう隠す気配を持っていなかった。
ロザリンに近づき、そっと手を伸ばした。
ロザリンの胸元──クイーンローズの位置に触れる。
その瞬間、霧が静かに震えた。
「ロザリン……わたしはリアナ。
クイーンローズ—この花を最初に宿し、最初にその力を使った、一番最初の姫」
ロザリンの胸が震える。
(……初代……クイーンローズの……?)
リアナは続けた。
「あなたの力は、わたしが最初に灯した光の“系譜”。代々受け継がれ、あなたに届いた」
ロザリンは息を呑む。
(……私の力の“根源”……それがリアナ……)
リアナはロザリンの胸元に触れた。
「わたしが命を落としたあと、花は“次の継承者”を探した。それはあなたの“遠い祖先”。そこから何代も受け継がれ、あなたに至った」
ロザリンの瞳が揺れる。
霧が揺れ、リアナの姿が光に包まれた。
王妃フローラの声が重なる。
『ロザリン……それが“前の命”の意味……あなたの力の源……クイーンローズの“起点”……』
霧が薄れ、世界が遠ざかる。
ロザリンは霧の世界から戻り、胸元にそっと手を添えた。
ロウはすぐに気づいた。ロザリンの指先が、ほんの少しだけ力を失っている。
「……姫様」
ロザリンはゆっくり息を整え、静かに言った。
「リアナは……クイーンローズの初代姫様だったわ」
ロウの瞳がわずかに揺れる。
「……初代……」
ロザリンは目を伏せた。
「驚いたけれど……怖いわけじゃないの。ただ……どうして“私に”なのか……それが……少し」
ロウはその言葉の“少し”に気づいた。
「……戸惑われているのですね」
ロザリンは小さく頷いた。
「……姫様が、戸惑われるのは分かります。……それは“当然”のことです」
静かで、深い。ロザリンを安心させる言葉を選ぶ。
「姫様は……受け取るべきものを、受け取れる方です。」
ロウはロザリンの手を包み直した。
「……姫様がその真実を知ったのは……姫様だからでしょう。
……選ばれた継承者だからこそ……“初代”が姿を見せたのでしょうね」
ロザリンの瞳が揺れた。
ロウは最後に、静かに、しかし強く言った。
「姫様。私は……姫様がどれほど揺らいでも、その揺らぎごと受け止めます。“側にいる”のではなく──“支えるためにいる”。それが、私です」
ロザリンは、ようやく呼吸を整えた。




