第119話 クイーンローズの記憶──少女の影
朝の光が差し込む部屋で、ロザリンは胸元にそっと触れた。
クイーンローズは静かだ。
けれど──昨夜の“脈打つ気配”が、まだ胸の奥に残っている。
ロウがそっと声をかけた。
「……姫様。昨夜の記憶……続きを見られますか?」
ロザリンは小さく頷いた。
「ええ……クイーンローズが……“続きを見て”って言ってる気がするの」
ロウはロザリンの手を包み、静かに寄り添った。
「姫様が望まれるなら……私はここにいます」
ロザリンは深く息を吸い、そっと目を閉じた。
その瞬間──胸元の奥で、クイーンローズが静かに脈打つ。
光はない。けれど、世界がふっと遠のく。
ロザリンの意識は、柔らかな花の香りに包まれた。
白い霧の中に、昨日と同じ──少女の後ろ姿が立っている。
ロザリンは息を呑んだ。
(……また……この子……)
少女は振り返らない。
けれど、昨日よりも“輪郭がはっきりしている”。
ロザリンはそっと手を伸ばした。
「……あなたは……誰……?」
少女は答えない。ただ、風に揺れる髪がロザリンの胸を締めつけるほど懐かしい。
その時──少女の肩越しに、王妃フローラの声が重なった。
『ロザリン……この子は……“あなたの始まり”に関わる存在』
ロザリンの胸が熱くなる。
(始まり……?私の……?)
少女の輪郭が、花びらのように淡く揺れた。
『この子は……あなたが生まれる前に……私が“守ろうとしたもの”』
ロザリンは息を呑んだ。
(守ろうとした……?お母様が……?)
少女の髪がふわりと揺れ、その横顔が──ほんの一瞬だけ見えた。
ロザリンの心臓が跳ねる。
(……似てる……私に……
でも……違う……誰……?)
少女はロザリンの方を向きかけた。その瞬間──
ぱんっ
花びらが弾けるような音がして、少女の姿が霧に溶けた。
ロザリンは思わず手を伸ばした。
「待って……!まだ……!」
だが、声は届かない。
ロザリンは大きく息を吸い、戻った。
ロウが支えている。
「姫様……」
ロザリンは胸元を押さえ、震える声で言った。
「ロウ……見えたの……昨日の少女……今日は……横顔が……少しだけ……」
ロウは息を呑んだ。
「どんな……お顔でしたか?」
ロザリンは言葉を探した。
「……私に……少し似ていたの。でも……私じゃない……お母様でもない。
誰か……分からないのに……胸が苦しくなるほど……懐かしかった」
ロウはロザリンの手を包み、静かに言った。
「姫様……その少女は……きっと“姫様にとって大切な存在”なのです」
ロザリンは小さく頷いた。
「……クイーンローズは……まだ何かを隠してる。あの子のこと……もっと知りたい……」
ロウはロザリンの手を握り返した。
「姫様が望まれるなら……私はいつでも隣に」
ロザリンは目を閉じる。
「ロウ……ありがとう……」
胸元のクイーンローズがかすかに温度を返した。
まるで──“少女の正体に近づいた”と告げるように。




