第115話 初めて咲いた花
中庭の静けさの中で、ロザリンは胸元に手を当てたまま、しばらく動けずにいた。
胸の奥で、何かがゆっくりと目を覚ますように脈打っている。
「……ロウ……さっきから……胸が、熱いの」
ロウはロザリンの横顔を見つめ、すぐにその異変を察した。
「姫様。無理に抑えようとしないでください。その力は……自然に流れるものです」
ロザリンは小さく頷いたが、胸の奥の熱はさらに強くなる。
まるで──何かが“外へ出たがっている” ように。
次の瞬間。
ロザリンの胸元から、淡い光がふっと漏れた。
「……っ」
ロザリンは思わず胸を押さえる。
ロウはすぐに支えた。
「姫様、大丈夫ですか」
ロザリンは息を整えながら頷いた。
「痛くは……ないの。
でも……苦しくもないのに
……胸が……溢れそうで……」
光は脈打つように強まり、ロザリンの足元へと流れ落ちた。
石畳の上に落ちた光が、ゆっくりと広がっていく。
ロウは息を呑んだ。
「……これは……」
光は円を描くように広がり、その中心から──
白い蕾がひとつ、ゆっくりと立ち上がった。
ロザリンは目を見開いた。
「……花……?」
蕾は震えるように揺れ、ロザリンの胸の鼓動に合わせるように、淡く光を放つ。
ロウは静かに言った。
「姫様の魔力が……初めて“形”を取ったのです」
ロザリンはそっと手を伸ばした。
指先が触れた瞬間──蕾はふわりと開いた。
白い花弁が、光の粒を散らしながら咲き誇る。
「……綺麗……こんな……優しい光……」
ロザリンの声は震えていた。
ロウはその横顔を見つめ、胸の奥が静かに熱くなるのを感じた。
「姫様……これは……あなたの力そのものです」
中庭に咲いた光の花は、王城全体に影響を及ぼした。
廊下のランプが一斉に揺れ、侍女たちが驚きの声を上げる。
「また……光が……!」
「中庭の方から………」
「これ……姫様の……?」
ざわめきが広がる。
研究室の奥で、ヴァルガ宰相は魔力計の針が跳ね上がるのを見て、薄く笑った。
「……花の系統……完全に目覚めたか」
机の上の魔力計は、淡い桃色の光を示していた。
「王妃の娘……“器”が動き出した……これで確信した」
その声は、冷たく、静かで、
底知れない欲望を孕んでいた。
ロザリンは咲いた花を見つめ、ゆっくりと立ち上がった。
「……ロウ。私……この力を……ちゃんと使えるようになりたい」
ロウはその瞳に宿る強さに、静かに息を吸った。
「……姫様。その願い……僕が支えます。どんな形でも」
ロザリンは微笑んだ。
中庭の花が、ふわりと光を放った。
それはまるで──ロザリンの“初めての一歩”を祝福するようだった。




