第113話 王妃の記録書──封じられた真実
そこには、フローラ王妃の柔らかな文字が残っていた。
「この力は、王家の血に宿る“花の系統”。代々、王妃にだけ継がれるもの。」
ロザリンは息を呑む。
(……お母様の……力……)
ロウは静かに言った。
「王妃様の筆跡……間違いありません」
ロザリンは続きを読んだ。
「私は……この力を“兵器”にされることを恐れた。」
「宰相ヴァルガは、王家の魔力を“形にする”研究を進めている。その目的は……
王を超える権力。」
ロザリンの胸が痛む。
ロウはそっとロザリンの手を包んだ。
「姫様……続きを」
ロザリンは深く息を吸い、ページをめくった。
次のページは、王妃の筆跡ではなかった。
鋭く、冷たい文字。宰相ヴァルガのものだ。
「花の魔力は“感情”を媒介に増幅する。」
「王妃の力は未完成。真に完成するのは“次代”の器。」
「王妃の娘──ロザリン。その魔力は、王妃を超える。」
ロザリンの指が震えた。
「……私……狙われていた……」
ロウはロザリンの肩に手を置き、静かに言った。
「姫様……宰相は……姫様の力を利用しようとしていたのでしょう」
ロザリンは唇を噛んだ。
最後のページには、再び王妃の筆跡があった。
その文字は、まるで震える手で書かれたようにかすかに揺れていた。
震える指で、王妃の筆跡を追った。
「ヴァルガに奪われる前に、私は自らの花の力を封じました。」
ロザリンは息を呑む。
「この力を奪われれば、あの男は国をも支配する。王家も、国も、あなたも守れない。」
「だから私は……自分の力を“隠す”ことを選んだのです。」
ロザリンの胸が痛む。
王妃の最後の言葉が続いた。
「ロザリン……
あなたは“花を咲かせる者”。
私よりも強い器。」
「あなたの力は、奪われるためのものではない。守るためにある。」
ロザリンの目に涙が溢れた。
ロウはそっとロザリンの背に手を添えた。
「姫様。王妃様は……その力を“あなたに託した”のです」
ロザリンは涙を拭い、ゆっくりと顔を上げた。
「……ロウ……
私……もう奪わせたくない。
お母様が守ったものを……私の未来も……
誰にも触れさせない」
ロウはそっとロザリンの手を包み込んだ。
「……その想いを……
どうか僕にも分けてください。
姫様が進むなら……僕は、必ず隣にいます」
ロウは一瞬だけ目を閉じ、
そして静かにロザリンを見つめた。
「……姫様……
その想い……僕が守ります。」
ロザリンの胸が、きゅっと熱くなる。
目を伏せ、その手の温度に小さく息を吸った。
二人の間に、王妃の残した花の光が静かに揺れていた。




