第112話 花の余韻と、静かな決意
ロウは立ち上がり、記録書をそっと閉じた。
「姫様……
この記録書……まだ“続き”があります」
ロザリンは目を瞬いた。
「……続き……?」
ロウは頷く。
「王妃様の残滓が残っていた理由……
宰相が何をしようとしていたのか……
そして──
姫様の力が、なぜ狙われているのか」
ロザリンは息を呑む。
ロウは静かに言った。
「……すべて、この先に書かれているかもしれません」
ロザリンは記録書を見つめ、ゆっくりと頷いた。
「……読まなきゃ……お母様が残したものを……ちゃんと受け取らなきゃ……」
ロウは優しく微笑んだ。
「姫様……一緒に読みましょう。
……あなたが一人で背負う必要はありません」
ロザリンの胸に、静かに温かいものが広がった。
震える指で、記録書の次のページをめくった。
焦げた紙の端から、淡い花の魔力がふわりと立ちのぼる。
ロウはロザリンの隣に座り、彼女が読みやすいようにそっと本を支えた。
「姫様……ゆっくりで大丈夫です」
ロザリンは小さく頷き、王妃の筆跡を追った。
そこには、フローラ王妃の柔らかな文字が残っていた。
「この力は、王家の血に宿る“花の系統”。代々、王妃にだけ継がれるもの。」
ロザリンは息を呑む。
(……お母様の……力……)
ロウは静かに言った。
「王妃様の筆跡……間違いありません」
ロザリンは続きを読んだ。
「私は……この力を“兵器”にされることを恐れた。」
「宰相ヴァルガは、王家の魔力を“形にする”研究を進めている。その目的は……王を超える権力。」
ロザリンの胸が痛む。
「……宰相は……お母様の力を……」
ロウはそっとロザリンの手を包んだ。
「姫様……続きを」
ロザリンは深く息を吸い、ページをめくった。
次のページは、王妃の筆跡ではなかった。
鋭く、冷たい文字。宰相ヴァルガのものだ。
「花の魔力は“感情”を媒介に増幅する。」
「王妃の力は未完成。真に完成するのは“次代”の器。」
「王妃の娘──ロザリン。その魔力は、王妃を超える。」
ロザリンの指が震えた。
「……私……狙われていた……最初から……」
ロウはロザリンの肩に手を置き、静かに言った。
「姫様……宰相は、
姫様の力を利用しようとしていたのでしょう」
ロザリンは唇を噛んだ。
最後のページには、再び王妃の筆跡があった。
その文字は、まるで震える手で書かれたようにかすかに揺れていた。
ロザリンは震える指で、記録書の次のページをめくった。
焦げた紙の端から、淡い花の魔力がふわりと立ちのぼる。
こうして二人は、フローラ王妃の残した記録の“続き”へと手を伸ばす。
それは──
王妃の真実へと続く扉だった。




