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赤ずきん姫とオオカミ騎士~姫に触れられるのは、ただひとりのオオカミだけ~  作者: 月乃雫


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111/163

第111話 フローラ王妃の残滓

ロウが差し出した古い記録書。


表紙には、花の魔力が触れたとき特有の“淡い痕”が残っていた。




ロザリンは指先でそっと触れた。




その瞬間──


研究室のような部屋の映像が、ロザリンに流れ込んだ。




──不穏な部屋。


──石のような壁。


──棚に並ぶ薬瓶、金属。




淡い花の光が漂う。


ロザリンは息を呑む。




(……ここは……どこ……?


見たことのない……部屋……)




その中心に、淡い金の髪を揺らす女性が立っていた。


フローラ王妃。




ロザリンの胸が震える。




(……お母様……)




身体が揺らぐ。


ロウがすぐに抱きとめる。




ロウの腕が、ロザリンの身体をそっと支える。




「……あの男に……


触れさせては……いけない……」




王妃の声は、花の光に溶けるように淡い。




「……どうか……


この子の未来だけは……奪わせないで……」




ロザリンの指が震えた。


ロウはその震えを感じ取り、ロザリンの手を包み込んだ。




王妃は両手を前に差し出し、花の光をひとつに集めていく。




──ぎゅう、と光が収束する。


その光は、まるで“誰にも触れさせないように”


抱きしめるように閉じられた。




「……この力は……


あの子のために……残しておきたいの……」




ロザリンの呼吸が乱れた瞬間、


ロウは迷いなくロザリンを抱き寄せた。




「姫様。


……戻ってきてください。私はここにいます」




耳元で落ちるような低い声。


その温度が、ロザリンの心を繋ぎ止める。




「……ロザリン……


どうか……あなたが笑える未来を……」




花の光が、王妃の身体を包み込む。


──ぱらぱら、と花弁が散る。




光が消え、ロザリンは息を吸い込んだ。




「……っ……は……」




ロウはそのまま抱きしめた。




「姫様……大丈夫ですか……?


……よかった……」




ロザリンは震える声で言った。




「……見えたの……お母様が……


石のような壁……棚に薬瓶や金属……


……どこかの部屋で……


力を……封じていた……


でも……どこなのかは……分からない……」




ロウは静かに頷いた。




「姫様……


その部屋……宰相の研究室と一致します」




ロザリンは目を見開く。




「……あれが……宰相の……?」




ロザリンは震える声で言った。




「お母様が……あの場所で……」




ロウはロザリンの頬に触れ




「……王妃様の想いが、


姫様に届いたのでしょう……」




ロザリンは涙をこぼした。




「……お母様は……


私を守ろうとしていた……


最後まで……」




ロウはロザリンの背を、ゆっくりと撫でた。




その手つきは、慰めでも、義務でもない。




ただ──


“あなたが苦しむなら、支えたい”という


静かな愛情そのものだった。




「姫様……


泣かないで……僕がいます」




ロザリンはロウの胸元に額を預け、


小さく震えながら言った。




「……ロウ……


あなたが……そばにいてくれて……


本当に……よかった……」




ロウは静かに答えた。




「姫様をお守りすることが……


私の誇りです。……どんな時も」




二人の間に、花の光の余韻だけが


静かに漂っていた。

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