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十年先も、また君と  作者: 深/深木
君と過ごした日々
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閑話

「――――結局、シンは最後まで私を突き放すことも、非難する事も無かった。本人に直接聞いた訳では無いが、離れたくない、共に生きたいと言ってくれたシンに、縋っていいのだと赦された気がした。それはとても身勝手な解釈だ。………………しかし、あの日、私は、離れたくないと改めてそう願ってしまった。そして、最後までシンと共に在ろうと決めたのだ。どれだけの人を踏みつけることになっても、それがどんな結果を生むことになったとしても、シンの側に居ると、そう決めた」


 シュネー祭の夜の出来事を、想いを、そう締めくくり、俺は口を閉じた。

 語り終えた俺の言葉を吟味しているのか、それともただ単にかける言葉が見つからないのか、四人の王子は暗い表情で俺を見ている。

 そんな悲痛とも取れる彼らの表情が、賑やかな祝宴の中ではとても場違いだ。


 まぁ、彼らをそんな重々しい空気にさせたのは俺なのだが。バオム王子とフォルゼン王子は心配そうに俺の様子を窺い、ヴィント王子は口元を手で隠し、考え込むような体勢で黙り込んでいる。ロート王子にいたっては、俺に何か言いたいことがあるが言葉にならないようで、口をハクハクと動かしては、今にも泣き出しそうな表情で口をきつく結ぶという動作を繰り返していた。


 周囲の者達とは対照的な彼らの様子に、苦笑いが浮かぶ。

 全てとまではいかないが解決し、終わったことである。呪いが消えた今、俺の心を閉めていた罪悪感や葛藤、後悔や諦観は全て無用なものになったのだから。

 これから先の未来、シンと共にいることに難癖をつける者はいるだろう。陛下が今後どのような選択をされるかは分らないが、俺の王太子という立場があと十数年は揺るがない以上、ズィルバー家と特に親しくするのをよく思わない貴族は少なく無い。一国の王太子にはそれだけの権力がある。しかしそんな者達はこれからゆっくり、シンと共に黙らせていけばいい。生き急ぐ必要はもう何処にも無いのだから。


「………………ブラキオ殿下」


 これからの未来に広がる選択肢に心を弾ませていると、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

 囁くような小さい声だったが、確かに聞こえたその声に反応して顔を向ければ、声の主と目があった。揺れる赤い瞳は不安げに、しかし、しっかりと俺を見つめ返す。呼ぶ、というには弱弱しい声で俺の名を呼んだのはロート王子だった。

 どうかしたかと目で言葉の先を促せば、彼は一瞬きゅっと口を結んだ後、覚悟を決めたように口を開いた。


「…………私なんかが、あのリーネを頂いてよかったのだろうか? 知らなかったとは言え、そんな大切な物を軽々しく強請ってしまって、本当に申し訳ない」


 そう告げると同時に、ロート王子は頭を下げた。ロート王子のその行動に、他の王子達が息を飲み、次いで俺に視線を移した。そんな彼らの視線を感じながら俺は、慌ててロート王子に頭を上げさせる。どのような理由があろうとも、各国の上層部が集まるこの場で、この行動は大変まずい。


「頭を上げてくれ、ロート王子! その程度の事で、王子がこのような場で頭を下げるなどあってはならない!」


 周囲の者達には聞こえないように言い聞かせ、多少無理やり頭を上げさせる。慌てて周囲を見渡し、見ていた者がいないか確認する。人々は談笑し、護衛の騎士達も何処か楽しそうな表情を浮かべ、この華やかな祝いの席を楽しんでいる。変わらない周囲の様子に、ロート王子の一連の行動を見ていた者はいないようだった。同様に周囲を探っていた、フォルゼン王子とヴィント王子と目を合わせれば、二人の目にも問題は無かったらしく、小さく頷かれた。

 そんな二人の返答を見て、ほっと胸を撫で降ろす。後々、グルートの王子がヴァッサーの王太子に頭を下げていた、といってロート王子が付け入られるような事があっては困る。王子が他国の者に頭を下げたというだけで、変な噂を流布し、『頭を下げた』という事実を元に言いがかりを吹っかける者は何処にでもいるのだから。

 下手をしたら漬け込まれる切欠を作る所だったロート王子を注意しようと彼を見れば、彼は真剣な表情を浮かべて俺を見ていた。


「『その程度』では無いです、ブラキオ殿下。あの、あのリーネの実は、決してそんな軽いものではないはずです」


 普段の物言いとは打って変わり、口調を改めたロート王子は後悔を滲ませた声でそう言った。その声は今にも泣き出してしまいそうなほど震えていたが、それでも俺を真っ直ぐに見つめ、はっきり告げる彼の瞳には強い光が灯っている。


「シュテルン殿が、貴方を想って買ったリーネの実は、とても尊く、大切なもの。誰が何と言おうとも、貴方にとっては間違いなく至宝であるはずです。………………決して、私が軽々しく強請り、頂いてもいいものではなかった」


 そう言って唇を噛みしめたロート王子はもう一度頭を下げようとした。それを隣にいたバオム王子とフォルゼン王子が慌てて止めていた。

 そんなロート王子を見て、頬が緩む。まだまだ幼く、感情的な面はあるものの、こうやって相手の心を慮り、真摯に向き合おうとする所は彼の美徳だ。こういった所がシンに似通っていて、その揺らがぬ真っ直ぐさが眩しく、羨ましい。


「…………そう思ってくれるロート王子だからこそ、あのリーネの実を差し上げたのだ」


 俺の言葉に俯いていたロート王子は、勢いよく俺を見た。

 

「確かにあの実はとても大切な物だが、手元に一つあれば十分だ。あのリーネの実が無くともシンから貰ったものは確かに俺の中にある。――――それに、私がいいと感じたから、差し上げたのだ。ロート王子が気に病む必要は何処にも無い」


 「だから大丈夫だ」と微笑めば、ロート王子が僅かに目を見開き、ぐっと息を詰めたのが分かった。何かを堪えるような表情を浮かべたロート王子を好ましく思う。多分、いいと言われたが大切な物ならば返すべきではと悩んでいるのだろう。しかしな、ロート王子。王族同士で贈られたものを一度受け取って置きながら、やっぱり送り返すというのは見ようによっては失礼な行為だぞ。相手によっては、贈ったものが不服だったと受け取られかねない行為だ。その辺りの事も今度しっかり教えてやろう。

 俺は未だに思い悩むロート王子を見てそう思った。真面目な彼は王族としては優し過ぎる。しかし、その真っ直ぐな優しさを好む者がグルートには沢山いる。ロート王子の未熟な部分は彼らがきっと補ってくれるだろう。


「気にする必要は無いが、出来るだけ大切にしてくれると、嬉しい」


 俺の言葉にクシャッと顔を歪めたロート王子は、僅かに逡巡した後「大切に致します」と言って、側に居て己を止めてくれたバオム王子とフォルゼン王子に礼を言っていた。その様子を見て、フォルゼン王子とヴィント王子もほっとしたように息を吐いた。彼らも俺と同じように、ロート王子とバオム王子を弟のように可愛がっているからな。

 少し元気を失くしたロート王子をバオム王子が慰める。その様子を見守りながら、フォルゼン王子とヴィント王子と共に静かに笑い合った。


かなり間が空きましたが、更新させていただきます。

かなりゆっくりとした更新になりますが、完結させたいなぁと思っております。

お暇な時にでも、覗いていただければ幸いです。

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