貫く閃光
「グゥオオオオオオオ」
ガレスは必死の形相で歯を食いしばり、極太の光線を前に四つ足で踏ん張っている。
だけど、圧縮魔弾集束破砕砲の勢いに押し負けて力んだまま徐々に後退を始めた。
床には四つ足による爪痕ができ、彼の展開した魔障壁全体に罅が生じていく。
「聞け、ガレス・グランドーク。お前の居場所は、もう現世にはないんだ」
僕の叫びに反応し、ガレスがこちらをじろりと睨んで見据えた。
「お前がバルディアと僕の家族に手を出したことを、決して許しはしない。だけど、せめての餞だ。二度とその死を利用されないよう、僕がお前を荼毘に伏す。黄泉の国……いや、地獄へ帰れ」
そう吐き捨てた瞬間、硝子が割れたような甲高い音が響き渡った。
ガレスが展開していた魔障壁が砕け散ったのだ。
「ガァアアァァアアアア」
たちまち、化狐姿のガレスは光線に飲み込まれた。
『おの、れ。ライ、ナー、リッ、ド。バル、ディアさえ、おま、えたち、さえ、いな、けれ、ば……』
ガレスの全身は光線の中で燃え尽き、翡翠晶も砕け散って魔力の煌めきとなっていく。
霧散した魔力が光線と同化したのか、ガレスの声らしきものが聞こえたような気がした。
今度こそガレスの火葬は済んだはず、後は水晶を破壊するだけだ。
光線はその勢いのまま、広間中央に据えられた水晶に向かっていく。
だが、水晶のわずか手前で光線が何かに衝突した。
「……往生際の悪い水晶だ」
目に飛び込んできた光景に、僕は思わず顔を顰めた。
水晶が自身を覆うように巨大な魔障壁を展開し、直撃を防いだのだ。
でも、まだこちらの攻撃は終わっていない。
『メモリー、出力400%まで上げるんだ』
『400%だって、無理を言っちゃいけない。そんなことしたらリッドの体が持たないよ』
『常に勇敢であれ、Ever Brave【エヴァーブレイブ】さ。それに大丈夫、サンドラにもらったアレを使うから』
メモリーに呼びかけつつ、僕は片手で懐から小瓶を取り出し、その蓋を親指で弾くように外した。
次いで小瓶の中に入っていた小さな丸薬全てを呷り、思いっきりかみ砕く。
とんでもない苦み、えぐみで口の中が大変だが、僕はそれらをごくりと喉を鳴らして飲み込んだ。
いざという時に備えてサンドラに渡されていた、とっておきの魔力回復薬だ。
それにしても、あまりにまずい。
『味はお察しですが、効果は保証しますよ。即効性を求めるならかみ砕いて利用してください』
彼女のにやついた声が思い起こされるが、疲労困憊していた体が軽くなっていく。
魔力が回復した証だ。
「腕が焼き付こうが撃ち続けてやる。圧縮魔弾集束破砕砲、出力四倍だ」
『もう無茶苦茶するんだから。でも、これなら何とかやれるよ』
僕が発した言葉にメモリーが脳裏で反応し、光線の勢いが一気に増した。
全身に強烈な痛みが駆け走り、流れる魔力量の増大によって両腕に身を焼かれるような激痛が走る。
あまりに膨大な魔力に、僕自身の体が耐えきれずに悲鳴を上げているんだ。
でも、この一撃で決着を付ける。
「いっけぇえええええええ」
魔力量が多ければ多いほど両腕に激痛が走るなら、その痛みの分だけ威力が上がるということだ。
瞬く間に光線の輝きが増して更に太く、大きくなっていった。
水晶が展開する魔障壁と光線の衝突はより激しくなって魔波の勢いが増し、衝撃波が吹き荒れ、床に亀裂が生じ、めくれ上がっていく。
「そのまま決めろ、リッド」
「いけぇ、リッド。君の力を見せてくれ」
レウスとヨハンの声が聞こえてきたその時、彼等の声に混じってパキッと小さな異音が聞こえた気がした。
ハッとして前を見やれば、水晶の魔障壁に小さな罅が入っている。
その罅から瞬く間に水晶の展開した魔障壁全体に亀裂が走った瞬間、硝子が砕け散ったような音が空気を震わせた。
光線が魔障壁を貫通したのだ。
水晶は光線の中で溶けるように砕けていき、魔力の煌めきとなって霧散していく。
これで人柱からルシュムガルへの魔力供給は断たれるはずだ。
でも、まだ終わりじゃない。
このまま光線が真っ直ぐに進めば、人柱達を閉じ込めた水晶に直撃して大惨事になってしまうからだ。
だけど、手はもう打ってある。
「フェイ、君の出番だ」
僕が大声で呼びかけると、光線の射線軸となる壁際でフェイが姿を現し、多重魔障壁を展開した。
ただし、通常と違って真っ正面に展開するのではなく、斜めに角度を付けている。
「リッドじゃなかったら、こんな命懸けのお願いは絶対に聞いてあげてないんだからねぇええええええ」
フェイの怒号が広間に響くと同時に、光線は彼が展開した魔障壁に直撃した。
すると、光線の軌道が魔障壁を滑るように変化し、真っ直ぐ天へと伸びていく。
思った通りだ。
今の僕とフェイの魔力性質は、ほぼ同質だ。
僕の光線とフェイが角度を付けた魔障壁がぶつかり合えば、貫通、相殺、爆発ではなく反射する可能性が高い。
そう睨んでいた。
実際、何度か牢宮での鍛錬で似たようなことが起きていたから、その応用だ。
ガレスを焼滅させ、水晶を霧散させた光線は吹き抜けとなっていて青空が見える天井へと伸びていき、ほどなく天井を貫通した。
「ガァアアアアアアアアアア」
突然、どこからともなく地の底から出たような野太い咆吼が轟き、地響きが起きる。
もしかして、この声と揺れは……ちらりとレウスを見やれば、彼はにやりと口元を緩めた。
「ルシュムガルがいてぇとさ。作戦成功だ、これで戦況が大きく動く」
「やったな、リッド。ホルストの奴、きっと今頃大慌てしているぞ」
駆け寄ってきたヨハンが目をきらきらさせるなか、僕は「そうだね。でも……」と相槌を打った。
「これは反撃の狼煙に過ぎないよ」
僕は光線が天井を貫き、露わとなった本物の青空を見上げた。
待っていろ、ホルスト。
何人であろうとも、僕は僕の家族とバルディアに手を出したことを絶対に許しはしない。
もうすぐだ、必ず後悔させてやる。




