煌めく閃光
『あ、でも、今の僕はちょっと処理能力が落ちてるし、魔力量も以前より多いから少し時間がかかると思うけど』
『大丈夫。ヨハンとレウスが何とかしてくれるさ』
メモリーに頭の中で答えつつ、二人の様子をちらりと見やった。
挑発に激怒したらしいガレスは、ひたすらにヨハンを仕留めるべく追いかけている。
レウスは隙を見つけては一撃を入れ、ヨハンの逃げる時間を稼ぎ、僕の動きを悟られないような立ち回りをしているようだ。
「おい、ヨハン。もっとさっきの感じで挑発し続けろ」
「くそう、こうなったらやけっぱちだ」
ヨハンは逃げ先でガレスに向かって振り返り、にやりと見下すように笑った。
「大きくなっても、僕一人捕まえられないなんて。ガレス、お前はやっぱり大したことないよ。この、ざこざこざぁ~こ」
「ガァアアアアアアア」
『まだ言うか、この小童めがぁああああ』
ガレスの咆吼から伝わってくる感情を言葉にすれば、こんな感じだろうか。
この感情が本当に彼のものなのか、はたまた翡翠晶のものなのか。
その真意は不明だけど。
『まぁ、あの調子なら間に合いそうだね』
『うん。僕達は、僕達がすべきことに集中しよう』
『了解』
メモリーの声が脳裏に響いて間もなく、体の中を駆け巡る魔力の流れに変化を感じた。
彼が僕の中にある魔力の一部を管理下に置いたのだ。
『圧縮魔弾集束破砕砲【あっしゅくまだんしゅうそくはさいほう】、インフィニティキャノン発射準備開始。ルシュムガル内部の材質、牢宮と仮定。土と樹での固定化は不可。水と氷で固定化代用処理』
反動に耐えられるよう足と背中が氷で支えられていくが、いつもより氷の規模が大きい。
『標的のガレス、広間中央の水晶を確実に破壊するため300%出力推奨』
『300%って、普段の三倍じゃないか。ちょっと威力が高すぎるんじゃ……』
『リッドの魔力残量、今後の継戦能力も鑑みれば機会【チャンス】は一度のみだ。出し惜しみはすべきじゃないよ』
メモリーの口調がいつもと違って断定的だ。
助言も尤もだし、ここは確実性を重視するべきかもしれない。
『……了解、牢宮核の魔力も使って』
『承認、牢宮核からも魔力供給。接続安定、魔力混合率、力率共に90%以上、異常なし。全魔弾直結完了、正常加圧中。出力調整及び制御を術者リッドに一任、安定化確認、魔弾混合回転開始』
展開していた全属性の魔弾が縦回転を始め、僕は魔力調整と制御に集中していく。
通常の三倍の出力ということもあって、体の中を駆け巡る魔力量と勢いは凄まじい。
どうにか制御はできるけど、少しでも集中が途切れたら体が爆散しそうだ。
例えるならコップに水を注ぎ込み、表面張力でぎりぎり溢れずに保っている……そんなところだろうか。
メモリー、これをわかってて三倍を提案してきたな。
『魔弾混合率25、30、35……』
通常ならすでに発動するぐらいの魔力量が溜まっているけど、さすがに三倍ともなればもう少し時間がかかる。
魔弾混合回転の速度が上がっていき、僕の周囲で魔力が雷のように迸り、生ずる魔波がどんどん激しさを増していく。
『魔弾混合率45、50、55……』
「う、ぐぅ……」
手が焼け付くように熱く、すでに生じた反動が全身にのしかかってくる。
固定化の氷が無ければ、足の踏ん張りがきかずにもう吹き飛ばされていたことだろう。
でも、ここまで大規模となれば、新たな懸念が生まれる。
ちらりと横目で見やれば、その懸念は現実のものとなっていた。
化狐のガレスが、僕から発せられる膨大な魔力を察知し、ヨハンを追いかけるのを止め、こちらを訝しみ、凝視していたのだ。
「グルゥゥルル、ガァアアアアアアアア」
危険をすぐさま察知したらしい。
ガレスは咆吼を発し、僕へと突進を開始する。
だけど、獣化しているレウスとヨハンがすぐさま反応し、ガレスに向かって跳躍した。
「行かせねぇよ」
「行かせるか」
レウスは青白い炎を纏った拳。
ヨハンは緑の魔力を纏った爪撃。
二人は、ガレスの横腹へ同時かつ同箇所に重い一撃を入れた。
空気を雷鳴が切り裂き、魔波が吹き荒れる。
「ゴガァアアアアアア」
ガレスは悲痛な叫びを上げて吹き飛ばされ、そのまま床を転がっていく。
『魔弾混合率75、80、85……』
「グァア、グルゥルル……」
ガレスは唸りながら体を起こしていく。やや距離はあるが、正面に僕がいることに気付き、目付きを鋭くし、瞳に憎悪の炎を灯した。
「ガァアアアアアアアア」
『魔弾混合率90、95、100。射てるよ、リッド』
ガレスの咆吼を上げるなか、メモリーの声が脳裏に響く。
「ヨハン、レウス。伏せて」
僕が呼びかけると、二人はハッとしてガレスと僕から距離を取った。
その動きを視界に捉えた瞬間、僕は体の中を駆け巡る魔力を両手から放出するべく引き金を引き、撃鉄を落とした。
「いっけぇええええええええ」
僕の両手から閃光が煌めき、雷鳴が轟き、魔波が吹き荒れ、地響きが起き、極太の光線がガレスに向かって放たれ、真っ直ぐに飛んでいく。
だけど、ガレスは動じず、むしろにやりと笑った。
ガレスがこれまでに見せた身のこなしからして、僕との距離を考えれば、極太の光線であっても躱せる自信があるからだろう。
当たらなければ、どんなに威力がある魔法でも無意味だ。
でも、その対策を僕がしない訳がない。
ガレスは光線を躱すべく身構えるが、刹那、ハッとして歯ぎしりをし、忌々しそうにこちらを睨む。
気付いたね、その通りだよ。
もしお前が躱せば、この光線は燃料庫中央にある水晶に直撃する。
この部屋の番人で、水晶を守る役目を与えられている以上、避けることはできないだろ。
レウスとヨハンが、お前を射線軸に吹き飛ばしたのも作戦のうちだ。
「ウォオオオオオオオオオオ」
ガレスは遠吠えのような咆吼を上げながら七本の尻尾を立て、自身の正面に巨大な魔障壁を展開した。
次の瞬間、極太の光線がその魔障壁と激突。
広間に甲高い衝撃音が轟き、響き渡って狂風が吹き荒れた。




