立ちはだかる者3
ガレスは口に捕らえたであろう獲物を噛み砕くべく、大口を勢いよく閉じた。
牙を噛みしめる音が周囲に響き渡る。
彼は口をもごもごと動かすと何かを察し、眼光を放ちながら鼻先をひくつかせ始めた。
「……よかった。何とか間に合ったみたいだな」
ヨハンは、ほっと胸を撫で下ろすように切り出した。
ちなみに僕は今仰向けで床に倒れていて、彼が上で覆い被さっている。
大口を開いたガレスに魔障壁ごと飲み込まれそうになった瞬間、ヨハンが横から飛び込んできて助けてくれたのだ。
勢いそのままに押し倒され、現状に至っている。
もし、彼が間に合わなければ、僕はガレスの腹の中だっただろう。
「ありがとう。おかげで助かったよ」
「気にするな。リッドには何度も助けられているし、親友だから助けるのは当然だ」
にこっと目を細め、尖った八重歯を見せるヨハン。
屈託のない笑顔に、思わず見蕩れてしまうほどだ。
「ウォオオオオオオオ」
ガレスの咆吼が再び響いた。
ハッとして見やれば、彼は殺気の籠もった縦筋の入った瞳をこちらに向けている。
僕を逃したこと、ヨハンが邪魔に入ったことを理解し、怒っているようだ。
僕とヨハンが立ち上がって体勢を整えようとしたその時、「お前の相手は、こっちにもいるぞ」と、獣化して青白い炎を纏ったレウスが、ガレスの横腹に拳をめり込ませた。
「グガァアアアアアア」
僕達ばかりを意識して警戒がおろそかになっていたらしい。
不意を突かれたガレスは悲痛な叫びを発して吹き飛び、青白い炎に包まれたまま床を転がっていった。
「あの巨体を拳一つで吹き飛ばすなんてな。レウスの奴、やるじゃないか」
「うん、さすが守護十翼の序列二翼だね」
ヨハンと僕が感心して体勢を整えているなか、「おい、リッドにヨハン」と、レウスが素早くこちらに跳躍してきた。
「二人とも、まだやれるのか」
「当たり前だ。まだまだやれるに決まっているだろ」
「僕もさ。さっきは読み違えて不覚を取ったけど、もう同じ手は喰わないよ」
「そうか。それならいいがな」
レウスが淡々と頷く中、僕は「あ……」と周囲を見渡し、フェイがガレスの尻尾で床に叩きつけられた場所を見やった。
牢宮核の化身である彼は、体を魔力で実体化している存在だ。
物理攻撃で倒されることはないだろうけど、強い衝撃とかで体が粉みじんになってしまえば、さすがに死にはしなくても実体化の維持は困難になるはず。
「フェイ、君は無事なの。いたら返事をして」
大きめの声で呼びかけて間もなく、「ここだよぉ~」と頭上から声が聞こえてきた。
良かった、どうやら無事だったらしい。
そう思って見上げるも、僕は「な……」と目を丸くした。
フェイの両腕が無くなっていたからだ。
「フェイ、その腕……」
「腕……?」
僕は真っ青になるも、彼はきょとんと首を傾げて「あぁ~……」と何でも無いように相槌を打ち、にこりと笑った。
「大丈夫、これぐらいならすぐに治るから。えい」
彼がそう言って間もなく、両腕が光に包まれて元通りになっていく。
呆気に取られるも、僕は胸の奥で『ドクン』と強い鼓動を感じ、思わず咳き込んだ。
牢宮核の魔力が唐突に体の芯から溢れ、フェイに流れたらしい。
「おい、大丈夫か。リッド」
「どうしたんだ。急に咳き込んで」
「ごめん。ちょっと口の中が切れたみたいで、その血が気管にね。もう大丈夫だよ」
心配してくれるレウスとヨハンを横目に、僕はフェイをちらりと一瞥した。
『再生用の魔力。僕を通じて使うなら先に言ってよ。びっくりしたじゃないか』
『あはは、ごめんごめん』
僕とフェイが視線だけでやり取りを行うなか、「……色々と気になることはあるが、それは後回しだ」とレウスが切り出した。
「あの化狐と水晶をどうにかする方法を考えねぇとな」
「……僕とリッドを誘ったんだ。何か策があったんじゃないのか」
ヨハンが眉間に皺を寄せて聞き返した。
なお、今のガレスは体にまとわりついた青白い炎が気に入らないらしく、床を転がってその火を消そうとしている。
実際、火の勢いは弱まっているから、間もなく消えるだろう。
一方、ルシュムガルに魔力供給しているという水晶は広間の中央で怪しい光を放ち続けている。
「……人型のガレスは俺達が力を合わせれば倒せると踏んでいた。しかし、周囲の水晶から魔力を吸収して再生するとなれば、あの巨体を一撃で消し飛ばせる威力を持つ技が必要だろうな。しかし、残念ながら今の俺にその手の技はねぇ」
「なるほど。つまり、後先考えずに行動したわけか」
ヨハンが鼻を鳴らして皮肉るも、レウスは肩を竦めた。
「今の俺には……と言っただろう。業灼剣があれば出来たんだがな。ついさっき、誰かに壊されたんだよ」
彼は目付きを細めてじとりと、僕を見やった。




