立ちはだかる者
「よそ見してんじゃねぇぞ」
「隙だらけなんだよ」
巨大な七尾の狐となったガレスの咆吼が轟くなか、獣化したレウスとヨハンが一気に間合いを詰めて右の前足、左の前足に爪撃をお見舞いする。
甲高い音が響き渡るが、ガレスの両足は少し傷を負っただけのようだ。
「こいつ、生意気な」
「人の時よりも硬い。屍人【ゾンビ】じゃなかったのか」
レウスとヨハンが目を瞬くなか、ガレスはその場で素早く体を回転させ、七つの尻尾を扇状にし、二人を薙ぎ払うように吹き飛ばした。
「ぐぉおおおおお」
「うぁあああああ」
レウスとヨハンが床を勢いよく転がっていくなか、ガレスは回転の勢いそのままに跳躍し、空中でヨハンに狙いを定め、鋭利な爪が生えた右の前足で追撃を仕掛けていく。
そうはさせないと、僕は咄嗟に強烈な水槍を放った。
「グッォオオオオオ」
空中で横腹に水槍が命中したガレスはそのまま吹き飛び、体勢を崩して床に落ちて転がった。
ガレスと水槍の衝突で発生した水しぶきが、小雨のように広間に降り注ぐ。
「ヨハン、レウス。大丈夫」
「あぁ、大丈夫だ」
「すまない、リッド。助かったよ」
二人は僕の呼びかけに応じながらその場で立ち上がった。
一方のガレスも「グゥウウウウ」と牙を露わにし、こちらを睨みながら体勢を立て直している。
その姿に理性というものは感じられず、獣そのものだ。
「グゥオオオオオオオ」
再び、ガレスが咆吼を放った。
どうやら、もう言葉まで失ったらしい。
「串刺しになっちゃえ」
どこからともなくフェイの声が響き渡った次の瞬間、頭上から大きな黒い魔槍がガレスに十何本と降り注ぎ、その巨体を貫いた。
「ガァアアアアアア」
「図体が大きければ良いってことじゃない。大きいほど的になるんだから」
いつの間にか高い位置に飛び上がっていたフェイは鋭い眼光を放ち、苦悶の表情を浮かべるガレスを見据えていた。
フェイの言葉にはどこか実感めいたものがある。
僕が彼の牢宮攻略をした時のことを思い返しているのかもしれない。
「まだ終わりじゃないよ、爆発」
彼がそう言って指を鳴らした直後、ガレスの体を貫いていた黒い魔槍が次々と爆発し、爆音が轟き、爆風が吹き荒れた。
「へへ、どんなもんだい」
ドヤ顔を浮かべて鼻先をこするフェイ。
一連の出来事を横目に僕、レウス、ヨハンは戦いの流れを仕切り直すべく急いで集合した。
人型のガレスと化け狐のガレスでは、それぞれに求められる役目と立ち回りが大きく変わってくるからだ。
「フェイの攻撃。どれぐらい効いたと思う?」
爆煙を見ながら僕が切り出すと、レウスとヨハンは首を横に振った。
「人の形をしていた時のガレスとは全く違う。生半可な攻撃では剛毛に弾かれるぞ」
「レウスの言うとおりだ。僕の爪が通らなかったし、あそこまで強化されたガレスがあの爆発で倒せるとは思えないよ」
「やっぱりそうだよね」
僕が相槌を打ったその時、爆煙の中からぬっと化け狐姿のガレスが「グゥルルル……」と唸りながら姿を現した。
黒い魔槍が貫き爆発した箇所は酷い傷になっている。
いや、酷いどころかあれは致命傷と言っても良いぐらいかもしれない。
「……ガレスの剛毛は魔法に弱かったのか」
ヨハンが首を捻るなか、レウスが「いや……」と切り出して僕達の頭上に浮かぶフェイを見やった。
「俺達の攻撃は通じなかった。あいつの発動した魔法の威力が相当なものだった、そう考えるべきだろう。リッド、あの妖精は一体何者だ?」
レウスは鋭い眼光を放つが、僕は「えっと……」と決まりが悪くなって頬を掻いた。
バルディアに出現した牢宮、その牢宮核の化身とはさすがに言えない。
「僕の義弟、かな」
「……答えになってねぇぞ」
レウスが眉を顰めたその時、ガレスが咆吼を発して全身から禍々しい黒い光を放ち始めた。
次いで周囲の水晶から魔力の煌めきが生じ、ガレスの体を覆っていく。




