有り得ない邂逅
「ほう、お前達はあの男の素性を知っていたか」
僕とヨハンが驚愕した反応を見て、レウスが相槌を打って切り出した。
「知っているどころの話じゃない」
僕はそう答え、広間の中央にある青白い光を放つ結晶を守るように佇むガレスを見据えた。
狐人族の元部族長ガレス・グランドーク。
エルバ、マルバス、アモン、ラファ、シトリーの実父にして、エルバとマルバスに言われるがまま狐人族の軍拡を進めた人物だ。
挙げ句、バルディア侵攻を決定した当時の最高意思決定者にしてその張本人であり、帝国に属する僕達側から見ればエルバに次ぐ戦犯と評しても差し支えない。
レウスの口調からして、そうした状況を知っててあえて尋ねてきたようだ。
「……ガレスは狭間砦の戦いで父上とアモン達が討ち取ったけど、その遺体は丁重に扱われ、後に各部族長を招待して葬儀も行われたんだ」
ガレスは狭間砦の戦いで父上、アモン、ラガードの剣に胸を貫かれた。
参列こそしていないが、葬儀の詳しい様子を父上とアモンから聞いている。
二人が僕に嘘を付く理由もない。
「あぁ、葬儀には僕も参列した。棺に入っていたのは間違いなくガレス本人だったはずだ。それがどうしてこんなところにいる。まさか、死んだガレスは影武者だったのか」
ヨハンが頷くなか、レウスはにやりと笑った。
「いや、お前達の認識は間違っていねぇさ。あいつは葬儀の後、豪華な棺に入れられて土の中でおねんねしてたんだ。あいつに目を付けられ、密かに回収されるまでは、な」
「な……」
僕とヨハンは目を見開くも、すぐにハッとして頭を振った。
「そんな馬鹿な。じゃあ、あれは翡翠晶の力で生き返ったガレス本人だっていうのか」
「いや、ガレス本人ではあるが生き返ったわけじゃねぇ」
レウスが僕の問い掛けに頭を振ると、ヨハンの顔が真っ青になった。
「じゃ、じゃあ、あれは生屍【ゾンビ】なのか」
「言い得て妙だな。元部族長の力を見込まれ、翡翠晶の力で蘇るかどうかの被検体に選ばれたらしい。だが、翡翠晶の力で動くだけで生き返ったわけじゃない。ホルストに与えられた簡単な命令を忠実に守るだけの人形だよ」
「……なるほどね」
ガレスの遺体を密かに運び出し、刺突跡が残る胸に翡翠晶を埋め込んだ、か。
仕組みさえわかれば大したことはないが、聞いていて気分の良いものではないな。
バルディア侵攻を決断し、その陣頭指揮を執ったガレスは、決して許せる人物ではない。
それでも正面で力なく佇み、濁った目でこちらを窺う彼の様子はあまりにも憐れだ。
相槌を打った僕は「それで……」と、話頭を転じた。
「これからどうするの、レウス」
「決まっているだろ。あいつを倒し、後ろにある青白い光を放つ水晶を破壊する。そうすればルシュムガルを動かす魔力供給が停止するはずだ」
「了解だ。ズベーラの王子として、ガレスを黄泉の国へ返してやる」
ヨハンが獣化を発動し、獅子化して茶色の毛並みに覆われていく。
僕もすかさず烈火を発動し、臨戦態勢を取った。
魔波が広間に吹き荒れるなか、レウスが「焦るな」と前に進んでいく。
ガレスは首を傾げたまま、「……レウス・パドグリー」と呟いた。
「それ以上の接近は許されない。引き返せ、さもなくば排除する」
「やってみろ。やれるものならな」
レウスはそう吐き捨て、一瞬でガレスの懐に入り込んだ。
次いで、青白い炎を纏わせた左拳を腹部にえぐり込ませて体を強制的に浮かせ、右手でガレスの顔を力の限り殴りつけた。
「燃え尽きろ。暴君の槌撃【タイラント・ハンマー】」
次の瞬間、青白い炎による爆発が巻き起こり、広間に衝撃波と爆風が吹き荒れて爆音が轟いた。




