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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第十章

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決着への一閃

「あは、あはは、あっはははは。とうとう決着がついたな、リッド。僕の勝ちだ」


僕の体が膝から崩れ落ちていく姿を見て、ヨハンが勝ち誇った顔で口元を歪めた。


彼が両手に持つ旋棍を下ろして構えを解いたその時、彼の頬を一筋の雫が伝っていく。


「どうして、こんなものが流れてくるんだ。僕が勝ったのに、嬉しいはずなのに」


ヨハンが困惑して流れる涙を腕の裾で拭うなか、「ヨハン。まだ、決着は付いてないぞ」と僕は叫んだ。すると、舞台上で倒れていた僕の体が魔力の煌めきとなって霧散する。


「まさか、これはリッドの魔力体か。本物はどこだ、何処にいる」


彼はハッとして周囲を見渡すが、混乱しているようで僕の姿を見つけられないようだ。


以前の君なら、魔力体と入れ替わった僕が上空へ飛び上がったことにすぐ気付いただろうに。


「こっちだ、ヨハン」


「こっち……」


呼びかけに反応して彼が空を見上げると同時に、僕は空で足場にしていた魔障壁を蹴って跳躍する。


間合いを一気に詰め、魔力付与を施して深紅の焔が揺らめく魔刀で勢いそのままに刺突を繰り出した。


「烈風閃・焔」


虚を突かれたヨハンは咄嗟に両手に持つ旋棍を交差させ、その刃で僕の刺突を受け止める。


魔刀と旋棍が衝突した瞬間、剣戟の甲高い音が雷鳴の如く響き、魔波が衝撃波となって吹き荒れ、砂煙が舞い上がった。


「魔力体を捨て駒にするとはな。あれは魔力を大量に消費するんじゃなかったのか」


「その通りさ。でも、だからこそ騙されただろ。魔力体には、ああいう使い方もあるんだ」


忌々しそうにヨハンが吐き捨てるも、僕はにやりと笑い返した。


魔力体は魔力で術者の分身体を生み出す魔法だ。


ただし、使用する魔力量は数ある魔法の中でも圧倒的に多い。


分身体を回収できればその魔力は術者の元に返って来るけど、魔力体が破壊されれば、その魔力はたちまち霧散して消滅する。


考えなしに使用すれば、たちまち術者の魔力が枯渇して危機的状況に追い込まれるだろう。


獣王戦の会場からここに至るまで、僕が魔力体を使わなかったのはそうした危険性があったからだ。


だけど、そのおかげでヨハンの虚を突けた。このまま終わらせる。


僕は烈火の出力を更に上げて、魔刀を押し込んでいく。体を覆い揺らめく深紅の焔が勢いを増し、どんどん燃え上がる。


一方、ヨハンの体から立ち上がって揺らめく黄緑色と漆黒の魔力も勢いが増して押し返してくる。


僕とヨハンは武器越しに睨み合って視線を交わし、互いに咆吼を発した。


負けられない、負けたくない……そうした感情に呼応してか、僕達が発する魔力の勢いは留まるところを知らず、生じた魔波で狂風が吹き荒れ、武舞台上に小さな竜巻が起き、稲妻が彼方此方で迸っていく。


そしてその時、ヨハンの体から立ち上がる黄緑と漆黒の魔力に乱れが生じた。


思った通りだと、僕は心の中でほくそ笑んだ。


おそらく、翡翠晶は寄生したヨハンの潜在能力を無理矢理に引き出している。


だとすれば、翡翠晶それ自体が持つ魔力は潜在能力を引き出すことに多くを割り当てているはずだ。


なら、拮抗した力の衝突で魔力が際限なく消費される状況になればどうなるのか。


宿主である術者を護るため、あるいは自身を守るため、翡翠晶は宿主支配に使用していた魔力を力の衝突へ消費せざるを得ない。


つまり、支配が弱まって魔力の流れに乱れが生じる。


それは通常であれば、ほんの少しの綻びかもしれないが、この場において、こと僕にとっては大きな綻びだった。


「ヨハン。これで終わりにするぞ」


僕はそう呼びかけ、最後の一押しで烈火と魔刀に施している魔力付与の出力を一気に上げていった。


「な、なんだ。リッドの、この熱さは。それにこの胸のざわめきはなんなんだ」


急激に押し込まれ、困惑するヨハン。僕は目付きを鋭くし、彼の目を真っ直ぐに見据えた。


「本当の君が抗って、戦っているんだ。心が叫んでいるのに、気付かぬふりをするな。ヨハン、君はホルスト・パドグリーの手下か」


呼びかけた直後、ぴしりとヨハンが持つ旋棍の刃に亀裂が入った。


「否、君は獣王セクメトスとタバルの子にして、ズベーラの王子ヨハン・ベスティア。そして、僕の好敵手【ライバル】だ」


「僕は、僕は母上と父上……」


彼が目を泳がせたその時、魔刀の切っ先を受けていた旋棍の刃が砕け散る。


僕はそのまま魔刀をヨハンの胸元にある翡翠晶に突き立てた。


「ヨハン、自分を取り戻せ」


「リッド、僕は……」


次の瞬間、翡翠晶から黒い魔力の光が溢れ出てきた。すると『僕はずっとひとりぼっちなんだ』と、唐突にヨハンの声が脳裏に聞こえてきた。


もしかして、この黒い魔力の光を通じて彼の心が伝わってきているのか。


『母上も父上も仕事仕事だし、何より僕には心を許せる友達がいなかった。だって、近寄ってくる子達は皆揃って、僕じゃなくて母上と父上を見ていたんだ。あの時だって……』


あの時……? ヨハンの声に続き、脳裏に今より幼い彼と猫人族の子供達が遊んでいる姿が映し出されていった。


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