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天帝像――荒方台事変  作者: 矢子沼蜻蛉


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4.神託

 やおら木積(こつみ)は目を見開いた。

 上体を起こし、周囲を見回す。


 満天の星空。

 うっすらと光を放つ巨大な石柱が、空に向かって高々と屹立(きつりつ)し、それが何列も何列も、どこまでも並んでいる。

 地面がどうなっているのかは、まるで分からない。見えないのだ。あたかも、一面に闇が敷かれているようだ。

 地の底の方からは、まるで海鳴(うみな)りのような音が聞こえてくる。潮の香りまで漂ってきた。

 立ち上がって辺りを見回すと、自分も石柱も、暗闇の中を浮いているように感じてしまう。


「聞いてやろう。お前は何をしに此処(ここ)へ来た」


 そう問われた。真後ろからだ。

 言葉が聞こえたわけではない。

 そうした意図を持つ思念が、身体全体に流れ込んできたのだ。

 震え上がりながら、恐る恐る、後ろを振り返った。


 そこには、筋骨隆々たる大男が、仁王立ちをしていた。

 彫りが深い威厳のある顔。白い髪と灰色の髭。丈の長い一枚布を袈裟懸けに(まと)い、手にした三叉の槍の石突(いしづき)を地面に突き立てていた。

 一見、頑健矍鑠(がんけんかくしゃく)たる老人だが……人間を超えた存在であろうことは、本能で分かった。


(人じゃないぞ。何だ。じゃあ、何……)


 木積は反射的に服従の形をとった。

 正座し、背筋を伸ばし、両腕を高く上げ、そのまま何度も何度も腰を折って、額と両掌を地につける。

 服従の姿勢を崩さぬまま、必死に申し開きをする。


「気がついたら、此処にいたのでございます。此処がどこやら、なぜ此処にいるのやら、見当もつきませぬ。お許しくださませ、お助けくださいませ。あなた様のお気に障るつもりなど決して――ひぃぃぃぃ!」


 脳天に視線を感じた。

 頭の中を覗かれているような不安に苛まれ、木積は情けない悲鳴を上げた。

 そして、心を押しつぶすような思念が、再び体全体を襲ってきた。


「哀れな奴め。二度と此処に来てはならん。……我が像を作り、磐座(いわくら)に供えるがよい。さすれば、汝は二度と此処へ迷い込むことはなく、また、あの呼び起こしてはならぬ者が現れることもないであろう。さあ、元いた場所に戻るが良い」


 気がつくと、木積は大の字になって地面に倒れていた。

 むくりと上体を起こす。


「神だ。初めて見た。親父より恐ろしいものなんて、いたんだなぁ」


 心からそう思った。

 それが証拠に、玄蕃(げんば)の悪口なら一人になればいくらでも出てくる。

 だが、あの神の悪口は、どんな状況でも口にできそうにない。


 木積は極彩色の岩を睨んだ。


「あの御方の像を作って、磐座に供える。磐座ってこれしかないよな。何だよ、この太鼓と笛は。どこから聞こえてくるんだ。あの御方がいたところじゃ、こんな音、聞こえなかったぞ」


 長居は無用だった。また気を失って、あそこへ迷い込めば、次はない。

 二度と来るなとは、神の厳命である。


 塚から外へ出ても、太鼓と笛の音は、聞こえていた。

 それでも、かすかな耳鳴りほどに弱まっていたのは、せめてもの救いだった。


(こんなとこに来ても、まだ聞こえてきやがる)


 とにかく急ぎ足で集落へ戻った。


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