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「ちゃんとしなきゃ」と息を止めているあなたを、100%全肯定する深夜アパートの話  作者: チャラン・ポラン


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5話前編:『深夜一時、コンビニの前で頑なに涙を堪えて座り込むセーラー服の少女に、ただミルクティーを置く夜』

深夜一時を回った、静まり返る街。

夜勤のシフトを終えたサトシとジュンは、並んで家路についていた。街灯の下、お互いの足音がアスファルトに規則正しく響く。


駅前のコンビニの自動ドアをくぐろうとした時、ジュンが小さく声を漏らして足を止めた。入り口の脇、冷たいコンクリートのタイルの上に、セーラー服姿の高校生くらいの少女が一人で座り込んでいた。手元には、液晶の明かりが虚しく明滅するスマホが握りしめられている。目が真っ赤になるまで泣いた痕跡があるのに、今は頑なに涙を堪え、冷え切った夜の空気を睨みつけていた。


サトシは瞬時にその異変に気づいたが、あえて踏み込もうとはしなかった。ポケットに手を突っ込んだまま、静かに視線だけで相棒に促す。

「……ジュン」

「うん」

短いやり取り。ここで動くべきなのは自分だと、ジュンには分かっていた。


ジュンは少女へ近づくが、真正面からは行かない。一度コンビニの中へ入り、温かい缶のミルクティーを二本買った。

少女の元へ戻ると、隣にぴったりと座るような真似はしない。あえて、少女の手がようやく届くくらいの、“少し離れた場所”に静かに腰を下ろした。


コツン、と軽い音を立てて、タイルの上に一本の缶を置く。

「今日、寒いね」

それだけだった。

少女はビクッと小さく肩を震わせたが、じっと缶を見つめたまま無言を貫いた。ジュンはそれ以上、何も尋ねなかった。スマホも見ない。顔も覗き込まない。ただ、冷たい夜風の中で、自分の体温のすぐ近くに「いてもいい場所(避難所)」があるということ。それを、ジュンはそこにただ、置いておくだけだった。


静寂がどれくらい続いただろう。ぽつり、と掠れた声がこぼれ落ちた。

「……お母さんと、喧嘩して」

「ひどいこと言っちゃって、家を飛び出してきたんです。でも、行く場所なんてどこにもなくて……。携帯、彼氏に何回も連絡したけど、ずっと未読のままで。友達に『泊まらせて』って言うのも、なんか格好悪くて、できなくて」

一気に吐き出した少女の声は、震えていた。

「帰りたくない、わけじゃないんです。……でも、どの面下げて帰ればいいか、もう分かんなくなっちゃって」


帰りたくないのではない。どう帰ればいいのかが、分からない。

その言葉を聞いても、ジュンは一切の説教をしなかった。「親が心配してるよ」とも、「早く帰りなさい」とも言わない。ただ、手元でぬるくなりかけた缶を両手で包み込みながら、優しく頷いた。

「そっか」

その一言だけ。大人からの正論も、説教もない。「否定されない空気」が、少女の強張っていた心を、凍土が解けるように少しずつ解凍していった。


「……ねえ」

これまで、少し離れた街灯の柱に背を預けていたサトシが、ゆっくりと歩み寄ってきた。彼は少女を見下ろすわけでもなく、静かに口を開いた。

「家出ってさ、本当に帰りたくないわけじゃないんだよね。……あれってさ、ただの“帰る理由探し”だったりするよね。誰かに『帰ってこい』って言われたいだけの、さ」


その言葉が、少女の心の奥底でせき止められていた決壊を、完璧に押し流した。

少女の瞳から、それまで頑なに堪えていた大粒の涙が、堰を切ったようにボロボロと溢れ落ちた。セーラー服の袖で何度も何度も顔を拭うけれど、涙は一向に止まらない。


サトシはそれ以上言わなかった。ジュンが静かに立ち上がり、泣きじゃくる少女の目線に合わせて微笑んだ。

「……行こっか。送るよ」

少女は涙を拭いながら、小さく、小さく頷いた。少女の名前はアキラ。静かに人を救う、ジュンの夜が更けていく。

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