『捨て猫と、遠回りな二人』前編
ザーザーと冷たい雨がアスファルトを叩く、平日の午後。
商店街の外れにある薄暗い空き地。その隅に置かれた、今にもふやけて潰れそうな段ボール箱の中から、か細い「みゃあ」という声が聞こえた。
コンビニ帰りのタカシとアカネが覗き込むと、中には手のひらに乗りそうなくらい小さな、びしょ濡れの子猫が震えていた。
「よし、飼う!!」
タカシは一秒の躊躇もなく、即決した。濡れた子猫を大きな手でそっとすくい上げ、自分のスウェットの胸元に大事そうに包み込む。
「飼えません!」
隣でアカネがすかさず、ピシャリと容赦のない現実を突きつけた。
「なんでだよ! 見捨てろって言うのかよアカネ!」
「そうじゃないです! アンタ、自分の部屋の片付けすらまともにできないでしょ! 生き物を飼うのがどれだけ大変か分かってるの!? 結局おばちゃん(タカシの母親)に全部押し付けることになるのが目に見えてます!」
ぐうの音も出ない正論だった。タカシは一瞬だけ言葉に詰まったが、胸の中で小さく震える命の温もりを感じると、頑なに顎を引いた。
「……じゃあ、俺が責任持って、ちゃんと大切に飼ってくれる奴を探す! それなら文句ねぇだろ!」
そこから、タカシの全力の里親探しが始まった。
雨の中、子猫を冷やさないようにスウェットのチャックをきつく締め、タカシは商店街の知り合いの店を片っ端から回りまくった。
八百屋の親父、ケーキ屋の店主、果てはラーメン屋の源蔵大将のところまで。
「頼む! この子飼ってくれ!」
「バカ言え、うちは飲食店だぞ! 帰れ!」
どこに行っても結果は全滅だった。「可愛いんだけど、うちはペット禁止だから」「もう先住猫がいてね……」。みんな困った顔で首を横に振る。
タカシの全力の熱量は、冷たい雨の現実に少しずつ、確実に削られていった。
夕方になり、雨はさらに激しさを増していく。
商店街のアーケードの隅。街灯の下に置かれたベンチに、タカシは力なく腰を下ろした。
スウェットは泥と雨で汚れ、髪からは水滴が滴っている。胸元の猫をそっと覗き込むと、猫はタカシの体温で少し乾いたのか、微かに喉を鳴らしていた。
「どうすりゃいいんだよ……」
自分の無力さに、タカシは初めて深くうつむいた。拾ったはいいものの、自分にはこの小さな命一つ救う力すらない。タカシの大きな肩が、ひどく小さく見えた。
「――まだいたの?」
缶コーヒーのプルタブを開ける乾いた音と一緒に、すぐ近くから低く、聞き慣れた声がした。
タカシが顔を上げると、傘も差さずにフードを被ったサトシが、気怠そうに立っていた。




