『誰かが拾った』前編
商店街が夕暮れ色の光に染まり始める頃。
惣菜屋の前でバットやトングを片付けていたアカネは、店先にぽつんと立ち尽くしている小さな影に気づいた。小学二年生くらい、マナより少し小さな女の子だった。
首からキャラクターものの小さなポシェットを下げたその子は、今にも決壊しそうなほど目を潤ませ、地面をじっと見つめている。
「どうしたの? 迷子?」
アカネが目線を合わせて優しく声をかけると、女の子は小さな肩を震わせ、ひっく、と鼻を鳴らした。
「……おばあちゃんに、もらった、お守り……なくしたの……」
詳しく話を聞けば、それは亡くなったおばあちゃんが作ってくれた、世界に一つだけの大切なお守りなのだという。そして、今日はおばあちゃんの命日。だからこそ、失くしてしまったことが余計につらくて、申し訳なくて、胸を痛めていたのだ。
「そっか……よし、お姉ちゃんも一緒に探してあげる。だから泣かないで?」
アカネはまだ半分残っていた片付けの手を止め、店の鍵を閉めた。今日ばかりは売上なんてどうでもよかった。目の前で泣きそうな女の子の手をぎゅっと握り、二人の捜索劇が始まった。
まずは女の子が今日歩いたというルートを忠実に辿る。
商店街のアーケードの下、夕方で賑わう公園のベンチの周り、薄暗くなり始めた神社の境内、それから途中で立ち寄ったというコンビニのゴミ箱の横まで。
「ないね……」
「……うん」
どこを探しても、お守りの赤い布地は見つからなかった。
どんどん日が暮れていき、商店街の街灯がひとつ、またひとつと灯り始める。時間が経てば経つほど、見つかる確率は下がっていく。それはアカネにもよく分かっていた。
神社の境内に戻ってきた頃、女の子はとうとう堪えきれずにその場にしゃがみ込み、大粒の涙をポロポロと溢した。
「ごめんなさい……私のせいで、お姉ちゃんのお仕事の邪魔しちゃって……お守りも、見つからない……」
小さな小さな背中が、罪悪感でいっぱいに震えている。
アカネも内心、ものすごく焦っていた。冷や汗が背中を伝う。けれど、ここで自分が諦めたら、この子の心には一生消えない傷が残ってしまう。
「大丈夫」
アカネは女の子の前にしゃがみ込み、泥のついた小さな手をもう一度強く握り直した。
「絶対に大丈夫。お姉ちゃんが、神様にお願いしてでも見つけてあげるから。ね?」
根拠なんてどこにもない。それでも、言うしかなかった。
「もう一回だけ、あっちの植え込みを見てみよう」
アカネは女の子を元気づけながら、神社の石段の下へと向かった。
すっかり暗くなった視界の中、スマートフォンのライトで生垣の隙間を照らす。
その時、緑の葉の奥に、ほんの少しだけ鮮やかな「赤」が浮かび上がった。
「あった……! マナちゃん、あったよ!!」
アカネの手が植え込みの奥へ伸び、小さな、手縫いのお守りを引っ張り出した。
「あ……お守り……!」
女の子の顔に、一瞬で光が戻った。お守りを胸に抱きしめ、今度は嬉しさのあまり大声を上げて泣き出す。泣きながら、何度も何度も「ありがとう」とひまわりのように笑うその姿を見て、アカネは体の力が抜けるほどの深い安堵に包まれた。
「本当によかった……」
夜の境内に、二人の温かな笑い声が静かに響いていた。




