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要人集結:青龍王国

 それから数日後。


 白虎皇城の正門前には、青龍王国の一行を迎えるため、すでに白虎へ集まっていた要人たちが並んでいた。


 冥利(みょうり)をはじめとする白虎皇族のほか、朱雀の翔義(しょうぎ)や玄武の理斗(りと)、深仙(みせん)や渚(なぎさ)の姿もある。明羽(めいう)も緋乃(ひの)を伴い、その列に加わっていた。


 明羽の隣では、深仙が先ほどから何度も門の向こうを見ていた。


「深仙様」


「はい……」


「もうすぐですね」


 深仙は小さく頷いた。


「兄様に……会うのは……久しぶりですから」


 普段と変わらない眠たげな声だったが、いつもよりほんの少しだけ弾んでいる。


「楽しみですね」


「とても……楽しみです」


 以前、深仙と茶を飲んだときにも、彼女は兄に会いたいと話していた。その兄――青龍王国王太子、蒼宮(そうぐう)青嵐(せいらん)が、今日この白虎へやって来る。


「参られたようです」


 隣から聞こえた緋乃の声に、明羽は正門の先へ目を向けた。


 遠くでは、青龍王国の紋章を掲げた青い旗が揺れている。規則正しい馬蹄の音が次第に大きくなり、一行の姿もはっきりと見えてきた。


 先頭は旗を掲げた騎兵。その後ろに青嵐と三人の将軍、さらに青龍の兵たちが続く。


 その中には、一人だけ青龍の装いとは異なる、白を基調とした旅装の少女がいた。長い白銀色の髪を高い位置で一つに結い上げ、軽やかに馬を操っている。


 やがて、その少女が白虎皇城の方へ顔を向けた。


「あっ!」


 ぱっと表情を明るくしたかと思うと、手綱を操り、一行から飛び出す。


「麗華(れいか)様!」


 後方から、麗華付きの白虎の従者が慌てた声を上げる。


 呼び声にも速度を落とさず、少女は白銀色の髪を風になびかせながら、正門へ向かって一気に駆けてきた。


「速いですね……」


 明羽が思わず呟く。


「……とても」


 深仙も、駆けてくる少女の姿を見つめている。


 正門前まで来た少女は鮮やかに馬を止め、その背から軽やかに飛び降りると、大きく息を吸い込んだ。


「すぅっ――白虎だー!」


 少女の声が正門前に響き渡った。


 満面の笑みで両腕を大きく広げる姿に、明羽は思わず目を瞬く。


「父上!」


 少女はすぐに冥利を見つけ、勢いよく手を振った。


 帝政白虎皇女、白牙(びゃくが)麗華(れいか)。現在は青龍王国に人質として預けられている。


「ただいま戻りました!」


「戻ったか」


「うん!」


「……後ろを見てみろ」


「後ろ?」


 麗華が振り返ると、青龍一行はまだ少し離れたところにいる。


「……あ」


「先走ったな」


「ちょっとだけ」


「随分な『ちょっと』だな」


 呆れた口調とは裏腹に、久しぶりに娘を見る冥利の表情はどこか柔らかい。


 ほどなくして青龍一行も正門前へ到着した。


 馬蹄の音が止まり、青嵐と三人の将軍が馬を降りる。ようやく追いついた麗華付きの白虎の従者も、馬から降りるなり彼女のもとへ駆け寄った。


「麗華様、勝手に先へ行かれては困ります!」


「ごめん!」


 従者はまだ何か言いたげだったが、その前に静かな声が飛んだ。


「麗華姫」


 その声に、麗華の動きがぴたりと止まる。


 すぐ近くに立つ青嵐は、何も言わず麗華を見ていた。


「……ごめんなさい」


「ああ」


 それだけだった。


 青嵐は麗華から視線を外し、そのまま冥利の前へ進み出る。


「青龍王国王太子、蒼宮青嵐です。武闘会への招きに応じ、参りました」


「よく来た」


 冥利は青嵐と、その後ろに並ぶ三人の将軍を見渡した。


「長旅ご苦労だった。まずは旅装を解くといい。詳しい話は後ほどにしよう」


「感謝します」


 青嵐が一礼し、三人の将軍もそれに続いた。


 これで、武闘会に集う四国の顔ぶれがすべて揃った。


 迎えの列が崩れると、麗華は真っ先に霞(かすみ)のもとへ駆けていった。


「母上!」


「麗華」


「久しぶり!」


「ええ。元気そうですね」


「うん! 元気だよ! 青龍のみんなも親切だし、ご飯も美味しいし! ……あ、でも虫が少し多いかも」


「虫?」


「うん。白虎じゃ見ないようなのも結構いるんだよ。でも、もう慣れた!」


「そうですか」


 霞が小さく頷いた。


 そのとき、麗華が少し離れたところにいる景虎(かげとら)を見つけた。


「あっ、景虎兄上!」


「うるせぇ」


「いきなりそれ!?」


「相変わらずやかましいな、お前」


「久しぶりに会ったのに、もう少しくらい喜んでよ!」


「十分元気そうだろ」


「そういう問題じゃない!」


 麗華は不満そうにしながらも、今度は征吾(せいご)へ顔を向ける。


「征吾兄上も久しぶり!」


「ええ。お元気そうで何よりです」


「ほら! こういうの! 景虎兄上も見習ってよ!」


「知るか」


「もう!」


 ふと隣を見ると、深仙はすでに待ち望んでいた兄の前に立っていた。


「兄様……」


 青嵐が妹を見る。


「深仙」


「お久しぶり……です」


「ああ」


「お元気……でしたか?」


「問題ない」


「そう……ですか」


 深仙は頷いた。


「私……凄く会いたかったです」


「そうか」


「はい……」


 青嵐はそれだけ答えて黙った。


 ほんの少し寂しそうに深仙が目を伏せる。青嵐は僅かな間を置いてから、短く付け加えた。


「僕もだ」


「…………!」


 深仙の目が大きく開く。


「兄様……」


「何だ?」


「もう一度……お願いします」


「断る」


「兄様……」


 深仙が残念そうに肩を落とす。


「よかったですね、深仙様」


「はい……」


 深仙は小さく頷き、そのまま明羽を青嵐へ紹介する。


「兄様……こちらは、朱雀の明羽姫です」


 青嵐が明羽を見る。


「……朱雀の姫君」


「はい。青嵐殿下」


「明羽姫とは……以前、お茶をご一緒しました」


「そうなのか」


「はい……とても……楽しかったです」


「私も、とても楽しい時間でした」


「……そうか」


 そのとき、少し離れたところから青龍の将軍の一人が声を掛けた。


「青嵐王太子殿下」


 青嵐がそちらを見る。


「何だ」


「少々、ご確認いただきたいことがございます」


「分かった」


 青嵐は明羽へ一度向き直る。


「すまない。失礼する」


「はい」


 一言断ると、青嵐はそのまま将軍のもとへ向かっていった。



 ◇



 しばらくして。


 明羽は、どこか嬉しそうな深仙と並んで話していた。そこへ明るい声が割って入る。


「ねえ、二人とも!」


 振り向けば、家族との再会を一通り終えた麗華がこちらへ歩いてくるところだった。


「えっと、朱雀と青龍のお姫様だよね?」


「はい。鳳院(ほういん)明羽(めいう)と申します」


「蒼宮(そうぐう)深仙(みせん)です……」


「やっぱり! ボクは白牙(びゃくが)麗華(れいか)。よろしく!」


「よろしくお願いいたします、麗華様」


「よろしく……お願いします」


「人質交換の日に二人とも見たの、覚えてるよ。ほんの少しだったけど」


「まあ。覚えていてくださったのですか?」


「うん! 二人とも、すっごく綺麗なお姫様だなって思ったから!」


「ありがとうございます」


「ありがとう……ございます」


 明羽と深仙がそれぞれ礼を言う。


「ねぇ! 明羽って呼んでもいい?」


「ええ。でしたら、私も麗華さんとお呼びしてよろしいでしょうか?」


「もちろん!」


 麗華は深仙にも顔を向ける。


「深仙姫も、深仙って呼んでいい?」


「はい……では、私も……麗華さんと」


「うん! いいよ!」


「麗華さんのことは、蘭(らん)様や霞様からも伺っております」


「本当? 何て?」


「とても明るくて、少しお転婆な方だと」


「それ絶対、母上が言ったでしょ!」


 麗華が霞の方を見る。離れたところにいた霞は何も言わず、穏やかな顔でこちらを見ていた。


「ほら!」


「ですが、本当にお元気な方ですね」


「明羽まで!」


「私も……そう思います」


「深仙まで!?」


 麗華に見つめられ、明羽と深仙は顔を見合わせた。先に明羽が笑い、少し遅れて深仙の口元も緩む。


「もう。二人して何なのさ」


「褒めているのですよ?」


「私も……褒めています」


「……それならいいけど。あ、そういえば、一年目が終わったら明羽も別の国へ行くんだよね?」


「はい。そうなりますね」


「深仙もだよね?」


「はい……」


 深仙が小さく頷く。


「じゃあ、それぞれの国に帰る前にいっぱい話そうよ!」


「ふふ。ぜひ」


「私も……ぜひ……」


「決まり!」


 そこへ、少し離れた場所から霞の声が届いた。


「麗華」


「はーい!」


 麗華は明羽と深仙へ向き直る。


「じゃあ、またあとでね!」


「はい」


「また……あとで……」


 麗華は手を振りながら霞のもとへ戻っていった。


 明羽はその背をしばらく見送った。


 武闘会まで、あと二日。

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