ちょっと待って! なんで名前を知ってるの?
王城の門に近付くと、
「チャールズ様、その方は……」
門番が私を見て、槍を交差させて行く手を塞いだ。
その瞬間、今まで愛嬌たっぷりだったチャールズ様の笑顔が消えた。
「ねぇ……誰に向かって、そんな態度してるの? 兄上にバレたら、即刻クビだよ?」
怖い顔で門番にそう呟いた。
私は慌てて、
「待って! ほら、突然現れた人間を、簡単にはお城に入れられないよ。彼らは、自分たちの役割を全うしているだけなんだから」
そう言うと、
「結衣は相変わらず優しいにゃ」
と、にぱっと笑った。
その時、門番が、
「今……なんと仰いました?」
青ざめた顔でチャールズ様に訊ねた。
「結衣にゃ。彼女は、冴木結衣にゃ」
そう答えた瞬間、ザッと道が開いた。
「え……?」
私は、その様子にビビった。
(なに? 怖い怖い。私の名前、呪われた魔女とか言われて広まってるんじゃないでしょうね!)
ビクビクしている私に、
「カシアン陛下は、ただいま執務中です」
そう告げると、門番はチャールズ様に頭を下げ、私には最敬礼をした。
「え? ちょっと……何がどうなってるの?
それに、なんで私の名前を知ってるの?」
フルネームで名前を呼ばれ、私はこの世界に来て初めて、得体の知れない恐怖を覚えた。
「結衣のことは、なんでも知ってるにゃ。
あ! 人間界の飼い主って長いから、結衣で良いよにゃ?」
小首をコテンと傾げ、可愛い笑顔を浮かべるチャールズ様に、思わず心臓を鷲掴みにされた気分よ。
(くっそ~! あざと系男子め!)
そんなことを考えていると、チャールズ様は私と繋いでいる手をブンブンと大きく振りながら、赤い絨毯が敷き詰められた王城の中を歩いていく。
辺りを見回すと、高級そうな調度品が並んでいた。
すれ違うメイドさんたちは、私とチャールズ様に気付くと立ち止まり、最敬礼をして見送ってくれる。
ぶっちゃけ……庶民の私は、落ち着かない。
しばらく歩いた先にある部屋の前で、チャールズ様が立ち止まった。
「兄上は今、執務中にゃから、ここで待つにゃ」
そう言われて、落ち着いた雰囲気の調度品が飾られた、貴賓室のような部屋に通された。
部屋のテーブルには、既に美味しそうなお菓子が並んでいる。
飾られたバラからは甘い香りが漂い、西洋風の大きな窓の外には、城下の街並みが広がっていた。




