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第4章 跪きプロポーズ──あなたがわたしのモフモフ(エレナ視点)

◆ 感動するエレナ



顔が赤くなるのが自分でも分かりましたわ。



恥ずかしくて、でもそれ以上に嬉しくて



たまらなかったのです。



気が付くと…わたくし笑っておりました。



このような場所で見せる、初めての、心からの笑みでしたわ。



すると、一気に会場がどよめきましたの。



わたくしがこんな笑顔を見せるのは



確かに初めてのことでしたから。



皆様、わたくしが笑うことができたのかと



驚かれたのかもしれませんわね。



「ああ、その笑顔が、もう一度見たかったのです。



わたしが好きになったあなたの笑顔です」



ルイス様が微笑みながら跪いて、正式にプロポーズしてくださいました。




「エレナ嬢。わたしと結婚してくださいますか?」




◆ エレナの返答




「ええ。喜んでお受けいたしますわ」



わたくしは、ルイス様のプロポーズを承諾いたしましたの。



喜びで胸が震えて。



感動で胸が苦しくなるほどでしたわ。



ルイス様とわたくしが視線を合わせて微笑みあったその瞬間。



わ~!と会場が大歓声に包まれましたの。



そして──わたくしの運命は静かに動き始めたのですわ。



◆ モフモフの約束



笑顔のルイス様が、わたくしの手を取り



こう申して下さいました。


「ありがとうございます。あなたが思う存分モフモフ



できるよう、最善を尽くします」



「本当ですの?わたくし…思う存分



モフモフできますの?」



突然降ってきた夢のような展開でしたわ。



わたくしのモフモフ好きを理解し、共感し、



なおかつ思う存分モフモフできるように



最善を尽くしてくれる男性。



モフモフの理想を詰め込んだ唯一の人。



貴族令嬢としてふさわしい振る舞いではないと



誰にも打ち明けられなかったわたくしの秘密。



モフモフの生き物を見ても触れるのを我慢していた日々。




もう、我慢しなくて良いのだわ。




本当の姿のわたくしを見て、この方は…。



わたくしを好きだと言ってくださった。



気づけば、頬を涙が流れておりました。



照れ隠しに微笑むと、ルイス様が困った



ように微笑みましたの。




◆ 抱擁と国王陛下の登場



「そんなに可愛くされると…本当に自制が…ああ、まいった」



小声で呟きながらそっとルイス様が



わたしをそっと抱きしめてくださいました。



側近から騒ぎを聞きつけた国王陛下が会場に



お見えになって、抱き合っているわたくし達を見て



腰を抜かしておりました。



まあ、無理もございませんが。



◆ 会場の余韻と静かなざわめき



ルイス様からの前代未聞のプロポーズ。



その余韻がまだ胸の奥で震えている中、 ダンスホールは



静かなざわめきに包まれておりました。



誰もが息を呑んでわたくし達を見つめていましたわ。



「まさか、あの冷徹と噂のエレナ嬢が……



「第二王子にあんなふうに求婚されるなんて……」



「しかも“モフモフになった”って……どういう意味だ……?」



ざわめきの中に、わたくしの元婚約者──



フレデリク様の青ざめた顔が見えました。




◆ 国王陛下の呼び出し



「エレナ・ジョルモア侯爵令嬢。こちらへ」



国王陛下が静かにわたくしを呼ばれました。



その声は穏やかでしたが、 どこか深い怒りを



押し殺しているように感じられましたわ。



陛下はわたくしに優しく言われました。



「エレナ嬢。今まですまなかった。



おまえの努力はワシが一番よくしっている。



どうか、ルイス様と幸せになってほしい」



その言葉だけでわたくしは胸が



熱くなりましたわ。




◆ フレデリクの絶望



一方のフレデリク様は、 陛下から



厳しい叱責を受けておりました。



「おまえは……国を背負う者としての自覚がなさすぎる」



「婚約破棄を公の場で勝手に宣言するなど前代未聞だ」



「そのうえ、帝国第二王子の求婚を招くとは……!」



フレデリク様は震えながら俯いていました。



その横で、フランソワ男爵令嬢は



「わたしは悪くないわ!」 と泣き叫んでおりましたけれど。



誰も相手にしておりませんでしたわ。




◆ 両国友好の宣言



「国王陛下。この度はお招き



いただき誠にありがとうございました。



おかげさまで最愛の女性と出会うことができました。



陛下のご希望通り、この国の女性を娶ります。



これ以上ない、両国友好の証です。



それでは所用がございますので、私共はこれにて失礼致します」



にっこりと満面の微笑みを浮かべるルイス様。



わたくしとルイス様は、手を取り合って、その場を後に致しましたの。



◆ 婚姻準備と家族の喜び



わたくしが屋敷に戻ると、 侍女たちが慌ただしく動き始めました。



「エレナ様、先程、帝国から正式な使者が……!」



「第二王子殿下が、明朝ご挨拶に来られるそうです!」



明朝ですって!?



ルイス殿下、お仕事が早すぎますわ!



確かにあのダンス会場を出てすぐに、ルイス様は



側近の方とお話されておりましたが…。



これほどまでに早急に事が運ぶとは…



想定外でございました。



さすが、ギルモア帝国というところでしょうか。



侍女と一緒になって、バタバタと屋敷を走り回る



お母様。



わたくしが屋敷に入るなり、お母様が



わたくしの肩をつかんで、飛び掛かるような



勢いで聞いてきましたの。



「エレナ!一体どういうことなの?



婚約破棄って?



結婚の約束って?



今日、あなたがしたのは…。



一体どっちなの!?」




「両方ですわ。お母様」




倒れそうになったお母様をタイミングよく


帰ってきたお父様が、素早く支えてくださいました。



「エレナ。説明してくれるかい?」



お父様が、静かな声で言いました。



わたくしは、



はい。と微笑みました。



わたくしとこの父親は、案外



似た所がございますのよ。




わたくしから話を聞いたお二人は



フレデリク様に対して大変お怒りでした。



どちらもフレデリク様の事は快く思ってい



なかった事もあって、婚約破棄されて



むしろほっとされていましたわ。



その一方で、ルイス様との結婚は



大変喜んで下さいました。




◆ ルイス様の正式な迎え



翌朝。



帝国の紋章を掲げた豪奢な馬車が屋敷の前に止まりました。



ルイス様が降り立ち、 わたくしの前に跪かれました。



「エレナ嬢。 あなたを迎えに参りました。


どうか、わたしと共に帝国へ」



その瞳は、 わたくしだけを映しておりました。



それからルイス様は、しばらく



わたくしの屋敷で過ごされましたの。



固い挨拶を交わしたあと、両親と共に



まだ緊張しながら屋敷の中を



案内している時でした。



ルイス様は、目を輝かせながら



屋敷を見回しておりましたわ。



「ここでエレナ嬢は育ったのですね。素晴らしい。



それだけでこの屋敷には計り知れない価値があります。



それなのに…おかしいな。



ここを国の重要文化財に指定していないのは



何か特別な理由があるのですか?」



「まあ、ご冗談を!」



お母様は大笑いしましたが…。



ルイス様は至って真面目なのです。



なにが面白かったのか分からないご様子で、



不思議そうなお顔をされています。



わたくしは、恥ずかしくなってルイス様に言いました。



「ルイス様。お止めください。恥ずかしいですわ」



「わたしは大真面目なのですが…エレナ嬢の実家ですよ!



 厳重に保護し、後世に残すべきでは…」



慌てるルイス様をみて、お父様の目がフッと緩みました。



あれは、機嫌の良い時の微笑みかたです。



「いいえ。ルイス様。



どんな家でもいつかは朽ちて



土に還りますわ。



それが自然の摂理ですもの。



でもわたくしは、それでいいと思いますの。



ここで過ごした思い出は、



わたくしの心の中で、永遠に生き続けますもの」



ルイス様が暖かな眼差しで、わたくしを見つめています。



「エレナ嬢…あなたは本当に素晴らしい人だ。



わたしは気づきました。家ではなく、あなた



こそがこの国の宝だと…」



「まあ…ルイス様ったら…」



思わず見つめ合ってしましましたわ。



ルイス様の漆黒の瞳が、わたくしを捉えますの。



「きれいな瞳だわ…」



わたくし、思わず見とれてしまって。



いつのまにか…二人だけの世界に入り込んでおりました。



その時、お父様の咳払いと、お母様のクスクスした



笑い声でふと、我に返りましたの。



「あっ!ごめんなさい。わたくし…」



やってしましました。両親の前で甘い



雰囲気を醸し出してしまいました。



ルイス様と目を合わせて照れ笑いの後



おかしくて声を上げて笑ってしまいましたわ。



それを見ていたお母様が言いましたの。



「あなたのそんな笑顔、もうずいぶん長い事



見ていなかった気がするわ」




それを聞いたお父様が、涙ぐみながら言いましたの。



「うん。わたしも…そう思っていたよ。



いい人に…巡り合えたね。よかったな。エレナ」



二人があまりにも、嬉しそうに笑うものですから



わたくしは二人にだきついて、



家族三人揃って泣いてしましましたわ。



つらい事もたくさんありましたけど、



優しい両親に恵まれて、



こうしてルイス様とも出会えた。



わたくし、本当はものすごく幸せ者だったのねと、



神様に感謝致しましたの。



◆ 帝国への出発



帝国への出発が決まり、慌ただしく準備が始まりました。



出発までの数日間、ルイス様は我が家に通ってきてくださいました。



我が家としましては、この結婚はまたとない



幸運でございました。



けれど、ルイス様のご家族にとっては、そうとも限らないわけです。



わたくしは、浮気されて婚約破棄された身の上ですから。



傷物と思われても仕方がないのです。



他国の王家に嫁ぐのなら、なおさらですわ。



思い切ってルイス様に不安を打ち明けると



ルイス様はキッパリと言って下さいました。



「それは心配ない!エレナは何も悪くないし、



エレナを見れば、ひと目で気に入るはずだからね。



むしろ俺が心配なのは…エレナの方だよ。



兄上はとても優秀な人だけど…


すこし変わっている…というか…」




首をひねりながら、言葉を選ぶルイス様…



ふふふ。



お兄様を思い出しているのかしら?



どこか楽しそうですわ。



「まあ、会えばわかると思う。



どうか仲良くしてもらえると嬉しい。



悪い人ではないよ。少しばかり変だけどね」



◆ 帝国での歓迎



「悪い人ではないよ」と、ルイス様はお兄様の事を



おっしゃいましたけど、わたくしは実のところ、



何を言われても仕方のない覚悟でギルモアへ行きましたの。



ところが、驚くほどルイス様のご家族は皆様、大変暖かく



わたくしを迎え入れて下さいましたの。



ルイス様のお兄様であるダリアン様は見目麗しい上に



大変聡明で、切れ者として有名なお方なのです。



そのダリアン様が初めてお会いした時、



緊張で固まるわたくしの手を握って



涙を流しながら何度も「ありがとう」



と、お礼のお言葉を下さったのです。



もしかして、ルイス様が「少しばかり、変」



とおっしゃっていたのはここでしょうか?



ダリアン様は、ルイス様の事をおそらく、



ものすごく可愛がっておられるのだと思いますの。



一人っ子のわたくしは、とても微笑ましく感じましたわ。



「ちょっ!兄上!断りもなくエレナの手を握るのはお止めください!」



と、割と強めにルイス様から



手を叩かれておりましたけれど、



ダリアン様は気にすることなく



泣き続けておられました。



わたくしも思わずもらい泣きしそうになりましたわ。



本当に嬉しそうにお泣きになるのですもの。



叩かれた手はものすごく痛そうでしたけれど。





◆ 動物愛護の裏事情



「ルイスはね、この容姿だろう?



昔から多くの女性にモテたんだよ。ただねえ…中には少々、



やばい…いや、バイオレンスな女性もいてね。



そのトラウマからか人間の女性には目もくれず、



愛情を注ぐのは動物ばかりだったよ。



正直な所、家族全員、ルイスの結婚は諦めていた所でね。



だからせめて、ルイスが老いたとしても寂しくないよう



にたくさんの動物に囲まれて生活して欲しくてさ。



国を挙げて動物保護に力を入れることにしのさ」




そんなものすごく個人的な理由で動物愛護に力を



入れる事になった事を知って、ズッコケそうに



なりましたけれど、王宮の決定事項には裏事情がつきものですもの。



わたくしには大変ありがたい裏事情でございました。



陛下も、王妃も良い方でほっと致しました。



「まさか…女性嫌いだったあの子に



こんな日が来るとは思わなかったわ」



と感無量のご様子でしたの。



あのルイス様が女性を苦手だという



事に驚きましたけど、ルイス様が



独身でいて下さったのは、わたくしに取って



人生最大の僥倖でございました。




◆ 王宮の混乱とフレデリクの破滅




わたくしが婚約破棄されてからの王宮は



やはり大変混乱したようです。



フレデリク様が行うはずの政務をほぼ



わたくしが一人で行っておりましたので。



政務が滞るのは当然の結果です。



フレデリク様とフランソワ様の蜜月は早々



に終了してしまい、ケンカも絶えないご様子でしたわ。



国王陛下はフレデリク様に、フランソワ様を婚約者に



すると公の場で宣言した責任は取るべきだと仰り、



フランソワ様以外との結婚は認めないと



フレデリク様に宣言されたのです。



国王陛下はフレデリク様を見限って、



フレデリク様の弟であるまだ8歳のフェリス様



を王位継承者にお決めになったのですわ。



その判断にわたくしは心から感謝致しました。



実は、婚約破棄をしてから数日もすると、



わたくしの屋敷へフレデリク様から復縁を願う



手紙が数通届いたのです。




「わたしは騙されたのだ!フランソワには、



わたしの他に何人も男がいた。とんでもない悪女だった。



やはりわたしにはエレナしかいない」云々。




まるで呪詛のように、陰の気に満ちたお手紙でございました。



わたくしが返事を書く代わりにルイス様が



お書きになりましたの。



届いた怒りの書状に震え上がったのか、



それからパタッとわたくしに



届く手紙はなくなりましたけど。



王太子の身分を剥奪されたフレデリク様は、



先日フランソワ様を連れて国の最果てにある



辺境の地を守る辺境伯として、王宮を発たれましたの。



わたくしがギルモア帝国へ旅発つ前日の事でした。



あの日、わたくしとルイス様は国王陛下



に呼ばれ、ルイス様断罪の場に



立ち会うことになりましたの。



国王陛下が、今回の件の責任は必ず



取らせるとおっしゃったお言葉は嘘では



ございませんでした。



◆ 辺境送りの決定



断罪の場でも罵り合うお二人の間にもはや愛がない事は



傍から見ていても明白でした。



ですが、お二人は王宮の監視下の元、



辺境の地で一生添い遂げなければなりません。



わたくしに婚約破棄を宣言された時、



フレデリク様はフランソワ様に告げました。




「誰も愛し合う私たちを引き裂く



事などできないのだから」と。





まさしく願ったり叶ったりではないでしょうか。




もはや本人の意思をもってしても、引き裂けないほど




強い絆で結ばれてしまったのですから。




何とも皮肉な話ではございますが。



◆ モフモフ犬ブルーとの再会



フレデリク様が断罪された後、



わたくしとルイス様は王宮の庭園を歩きました。



その時、ルイス様と出会った時に鉢合わせた



モフモフ犬も一緒でしたの。



あれからルイス様にも手を借りて国中を探しましたけど、



どうしても飼い主を見つけられず、



わたくしが飼うことになったのです。



ルイス様の強力な後押しもあり、トントン拍子に



話が進んだのですわ。



名はブルーと名付けました。



ルイス様の大好きなお色だそうですわ。




モフモフのブルーを抱いて、ルイス様と思い出の



庭園を歩いておりましたので、わたくしは少々…



いえ、相当に浮かれておりましたの。



◆ さようなら、フレデリク様



その時、馬車に乗っておられるフレデリク様と



目が合ったように思いましたが、実のところ、驚くほど



古びた馬車に目が行ってしまって。



あまりよく見ておりませんのよ。



何しろ、一瞬の事でしたもの。



わたくしの気のせいだったのかもしれません。




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