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五十路転生 −転生先は更年期障害が呪いとされている世界だったので、現代漢方薬の知識を持ち込むことを女神に許されました−  作者: ねねこ


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18 女神不在の大ピンチ

「ええと、つまり、カルーシャ様は今いらっしゃらない、と?」

「ええ」

「……まずい」

 トレギスが眉を寄せて汗を拭く。

「え?何か問題が?」

「まもなく帝国より、我が国へ使節団が到着します。あと数日といったところでしょうか」

「はい、聞いています。それが何か、カルーシャに関係あるのですか?」

 マーガレットも困ったように続ける。

「ええ、大いにあります。今回の使節団の目的ですが……事前に書簡が届いていまして……」

 一度言葉を切り、ユイを見る。

「女神カルーシャ様がこの国へ降臨されたという噂の真偽を確かめ、もしカルーシャ様の降臨が本当であれば、直接謁見したい――それが先方の正式な申し入れなのです」

「え……?」

「だから、今カルーシャ様がおられないのは非常にまずい」

「ええと……じゃあ、カルーシャはいないってことにすればいいのでは?」

「それは無理です、ユイ」

「どうしてですか?」

「我が国からは、確かに降臨されていますと返答の書簡を渡してしまっています」


 うわぁ……絶体絶命じゃん……。


「ユイ様、カルーシャ様に呼びかけなどはできませんか?」

「よ、呼びかけ……。ええと……」


 カルーシャ!聞こえたら返事して!!



 ユイは全力で念じた。

 ――返事はない。

「……駄目です」

「そうですか……」

 部屋に重苦しい沈黙が落ちる。

「よりによって炭酸水を取りに行ったタイミングで……」

「何ですか、それは?」

 マーガレットの疑問にシーラが説明する。

「何やらしゅわしゅわする刺激のある飲み物らしいです」

「それを取りに行かれたのですか?」

「はい。いつ帰ってくるか、とは私も聞いていません」

「……使節団の到着までは、あと3日というところでしょうか。それまでにカルーシャ様が戻ってきてくれるのを祈るしかないですね……」


 炭酸水一本で国際問題になるなんて、前世でも聞いたことないよ……。




 それから3日、カルーシャが帰ってくる気配はなく、国境まで使節団が到着したという早馬からの報告が王宮に届いた。

「国境に着いたのなら明後日には王都についてしまう」

 というトレギスの呟きは胃痛つきだった。

「カルーシャ様がお戻りになるまで、我々は時間を稼がねばなりません」


 確かに。

 いると言ってしまった以上、やっぱりいないは言えるわけがない。

 

「まずは使節団を丁重にもてなし、カルーシャ様との謁見は後日に、と話を持っていく必要があります」

「確かに」

「カルーシャ様の加護のある食材は幸いたっぷりとあります。まず、これを使っておもてなしの席となるパーティを行います」

 それからトレギスはぎゅう、と胃を抑えてからユイに向き直る。

「そのためには、ユイ様のお力を借りたい」

「ええ!?私!?なんで!?」

「帝国も知っているのです。この国にはカルーシャ様の強い加護を受けた聖女がいると。だからカルーシャ様は他のどこでもなく、この国に降臨されたのだと」

「うわぁ……やめてよ、そういうの。私、聖女じゃないから」

「ですが帝国はそう思っていません。カルーシャ様の加護はこの世界の者には誰にでも与えられるものですが、特に強い加護を与えられるのは王族だけなのです。それ以外は、カルーシャ様の神殿関係者でもあり得ないのです。でもあなたという存在はそれを超えてしまった。それはこの世界では聖女と定義されます」

「……私、前世を覚えてるだけのただの村娘なんだけど……」


 逃げたい、逃げ出したい。

 前世は会社員、今世は村娘。そんな私に国際会議レベルの仕事を振らないでほしい。


「では明後日までにユイ様にやっていただきたいことを……」

「決定なの!?」

「はい。レオルド、任せていいか?」

「分かりました、父上。最低限になりますが……」

「構わない。最低限でいい。必要なフォローはお前がユイ様の隣りに立て」

「畏まりました。では、ユイ様。時間がありません。まず、ドレスの仕立て……は間に合いませんので、城の衣装室へ行きましょう」

「は?ドレス?ってなんで?」

「その恰好で、使節団の前に立つおつもりですか?」


 ユイの恰好は、村から持ってきた普段の生活服だ。


「え?ダメ?」

「ダメに決まっているでしょう!」

 レオルドは額を押さえ、大きくため息をついた。

「父上、まず衣装室へ行きます。その後、礼儀作法、挨拶、歩き方、着席の仕方、食事の作法、そして最低限の舞踏を」

「そんなの全部やるの!?」

「もちろん、すべて完璧に身につけていただく必要はありません。ですが、特に歓迎の宴では舞踏だけは避けられませんので、そこを重点的に」

「ぶとう?」

「踊りのことです」

「……え?」

「歓迎の宴で使節団の使者から踊りを求められる可能性があります」

「えええぇぇぇっ!?」

「時間がありません」

「待って!私、小学校のフォークダンスくらいしか踊ったことない!」

「……何ですか、それは」

「私にも分からない!」


 いや、無理。絶対そんなの無理。


 と、涙目になるユイの手をレオルドが取る。

「ご安心を。ユイ様は、使節団に自己紹介と挨拶、それから最低限の礼儀作法を守ったうえで笑顔でいてくだされば、他の外交は父上と陛下、そして我が国の外交官が行います」

「……」

「パーティでは、普段の食事とは違う、豪華な食事が並びますよ」

「え……?」

「それこそ、最近ではユイ様のレシピやカルーシャ様の加護の材料のおかげで、王宮の料理の素晴らしさがさらに上がっています。それらを片っ端から並べることになっています」

「……デザートは?」

「スライム素材を使った新しいデザートがどんどん開発されています」

「……分かった、やる」


 ご飯に釣られた。

 だって、仕方ない。

 人間は食欲には勝てないのだ。



 そのまま、マーガレットたちに一礼すると、レオルドはユイを城の衣装室へと連れて行った。

 すでに話は通っていたらしく、待ち構えていた女官たちがユイが部屋に入った瞬間、一斉に動き出す。

「失礼いたします、ユイ様」

「え、ちょ……っ?」


 ものの数十秒で普段着は脱がされ、気が付けば淡い黄色のドレスを着せられていた。


「肩を二寸詰めます」

「腰も少し」

「裾はこのくらいで」

「袖口も少し余ってるので詰めましょう」

「袖口にこの飾りボタンを縫い付けてくれる?」

 肩、袖、腰へとお針子たちが群がり、針が目にも止まらぬ速さで動く。

 サイズの合わなかったドレスは、あっという間にユイの体にぴたりと合う一着へと変わっていった。


(……プロだ)


 と、感心していたユイに、女官が次々と首飾りを合わせていく。


 最初に出てきたのは、大粒の宝石がこれでもかと並んだ首飾りだった。

 首に当てられ、思わず

「重っ」

 と、大きな声で本音が漏れる。

「これは違いますね」

 女官は即座に首を振った。

「ユイ様はお肌が白く、お顔立ちも柔らかいので、大きな宝石よりも、小粒の石を散らした繊細なものがお似合いです。……こちらにいたしましょう。耳飾りも小さめの石のものを合わせます」

「へぇ……そんなのまで分かるんだ」

「それが私どもの仕事です」

 そのまま、鏡台の前に座らされ、首飾りと耳飾りをつけられ、髪を結われ、化粧をされ、ユイは目の前の鏡に映っている自分の顔を見て、思わずこぼした。


「……誰、これ?」

「ユイ様ですよ。誰か、廊下にいるレオルド様を呼んで!」

 女官の一人が廊下に出て、部屋の前で待っていたレオルドを衣装室へ招き入れる。

「……ユイ様、ですか?」


 レオルドはしばらく微動だにしなかった。


 何で固まってるのよ、失礼ね!

ストックが尽きてしまったため、ストックを書く時間のために、明日から更新時間を【夜20:00】に変更させていただきます。

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