第9話 休日
1日3本ペースで投稿していきます!
今日は休みだった。
週に一度、ペリーが「今日はお休みください」と言う日がある。公爵邸の料理人には休日があるらしい。前の職場ではなかったものだ。
(休める)
朝、目が覚めた瞬間にそう思った。
厨房に行かなくていい。食材に触らなくていい。誰かの顔色を気にしなくていい。今日は一日、何もしなくていい。
部屋の窓から、空を見た。雲がゆっくり動いている。秋の空は高くて、青かった。
ベッドに戻った。まだ朝の早い時間だ。二度寝できる。前世では考えられなかったことだ。
目を閉じた。
眠れなかった。
(……)
体は疲れていない。昨日よく眠れた。だから眠れないのは当然だ。
仕方なく起き上がって、本を読んだ。
三十分で飽きた。
窓の外を眺めた。
庭師が植え込みの手入れをしている。こんな時間から働いている。
ふと、今日の昼の献立が浮かんだ。
今朝、市場から届いた食材の中に、秋刀魚があった。旬だ。脂が乗っていて、内臓ごと食べると栄養価が高い——前世で、秋になるたびに患者へそう説明していた。あの頃の自分は、秋刀魚を食べる暇もなかった。
(関係ない)
今日は休みだ。昼食は誰かが用意する。私が考えることではない。
でも——ライアス様は、秋刀魚の苦みが苦手かどうか。まだ聞いたことがない。
(なんで考えている)
私は本を閉じた。
時刻は昼前だった。
廊下から、足音が聞こえた気がした。
聞こえなかった。
そうだ。今日は私が厨房にいないから、ライアス様は厨房に来ない。当たり前だ。
(当たり前だ)
でも——昼が近づいているのに、あの足音が聞こえない。
聞こえないのが、少し——
(寂しい)
考えてから、すぐに打ち消した。
そんなはずがない。ただ、習慣になっていたから。条件反射みたいなものだ。時間になれば足音が来ると体が覚えてしまっていただけで、感情とは関係ない。
でも——打ち消しても、消えなかった。
私は立ち上がった。
廊下を歩く。食材の確認だけ、と思った。今日届いたものがちゃんと保管されているか。それだけ確認したら戻る。
厨房の扉を開けると、秋刀魚の匂いがした。
今日の賄い係が、すでに昼の支度をしていた。
秋刀魚を塩焼きにしているところだった。
私は少し見た。火加減が少し強い。このまま焼くと、皮が破れる。
「少し、火を弱めた方がいいです。皮が綺麗に焼けます」
言ってから、気づいた。
今日は休みだ。
賄い係が「ありがとうございます」と言った。
(また来ている)
「……少し、手伝います」
声が出た。
「大根をおろしてもいいですか」
「もちろんです」
私は割烹着を手に取った。
前世でも今世でも、休もうとするたびに手が動く。これは職業病か、それとも——
(休みたかっただけなのに)
おろし金を動かす手が、少し速くなっていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
これからは、自分のペースで執筆をつづけていくつもりです。
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