第7話 なぜ料理を
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「お前は、なぜ料理を」
唐突な質問だった。
今日のライアス様は、来るなりそれを言った。いつもの「今日は何を使う」ではなく。
私は少し考えた。
「前世の仕事が、食に関わるものだったので」
「それは理由ではない」
「……はい?」
「好きだから、という理由があるはずだ」
私は手を止めた。
好きだから。
そう言われると、考え込んでしまう。前世では「好きだから」料理の仕事を選んだのか。最初は好きだったのかもしれない。でも気がついたら、好きかどうか考える余裕もなかった。
「……患者の顔色が、よくなるのが」
言葉を選んだ。
「食事指導がうまくいって、顔色がよくなっていくのを見るのが、嫌いではありませんでした」
「嫌いではなかった」
「はい。好きかどうかはわかりません。でも——続けていた理由は、それだったと思います」
ライアス様は少し黙った。
窓の光が、床に長く伸びている。今日は雲が多い。昨日より、少し寒い。
「今もそうか」
「……はい」
正直に答えていた。
「ライアス様の顔色がよくなっているのを、ペリーから聞いたとき。少し、よかったと思いました」
「料理人として、か」
「……それだけではないかもしれません」
しまった、と思った。
ライアス様の目が、こちらを向いた。いつもの、感情の読めない金色の瞳。でも今日は、その奥が少し違う。
「それだけではない」
「……人として。誰かが、眠れるようになったのが。よかったと思っただけです」
ライアス様は、しばらく何も言わなかった。
書類も閉じたままだった。ただ静かに、何かを考えているような間があった。
「ではお前に聞くが」
「はい」
「お前は今、何が食べたい」
意外な質問だった。
「……私、ですか」
「料理人に聞くのがおかしいか」
「いいえ。ただ、自分のことを聞かれるのが珍しくて」
「答えられないか」
「……温かいものが食べたいです。今日は寒いので」
「今作っているのは」
「煮込みです。根菜と鶏肉の」
「では、お前も食べろ」
「え?」
「料理人が自分の料理を食べないのは、おかしい」
「……それは、いつも食べています。賄いで」
「賄いではなく。今日は、ここで食べろ」
私は返す言葉を探した。料理人が雇い主と同じ食卓で——
「身分がありますので」
「私が言っている」
「……はい」
椅子をもう一脚引いた。
窓際の、いつもライアス様が座る場所の、少し離れた位置に。
ライアス様は何も言わなかった。ただ、少しだけ椅子をずらした。
(近づいた)
前世でも、誰かと同じ食卓を囲んだことは——ほとんどなかった。いつも一人で、残業しながら、冷えたものを食べていた。
「できあがりました」
「そうか」
二人分の皿に盛り付けた。
厨房で、雇い主と料理人が並んで昼食を食べる。
温かいスープを、二人で静かに食べた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
これからは、自分のペースで執筆をつづけていくつもりです。
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