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第六 三枚の約束


 湯の町トーヴェには湯宿が軒を並べ、湯宿には女がいて、女は客に約束の書き付けを渡す。来年の何の月の何日に湯の町の関まで迎えに来てくれれば、宿を出てあなたの町へ行く、という書き付けで、客は書き付けに銀貨を払い、湯けむりの向こうのことはその先にある。北方一の歓楽地と言われるのはこのためだと、語った若旦那は言った。若旦那はリンデンの商家の息子で、三人のうちの一人だった。


 若旦那が書き付けをもらったのは刈入れの月で、日取りは翌年の日盛りの月の三日だった。女は、湯の町の関で待っていてください、宿の者は関の外へは出られないので、と言って、若旦那の名を宛名に書き、自分の名を下に書いた。若旦那は書き付けを懐に入れてリンデンへ帰り、冬のあいだ帳場でそれを読み返した。読み返すたびに銀貨の額を思い出し、思い出すたびに宛名を見て安心した。春には父親に、日盛りの月に北へ仕入れに行く、と言い、父親は何を仕入れるかを聞かずに仕入れの銀貨を渡した。


 日盛りの月の三日、若旦那は朝のうちに湯の町の関に着いた。関には荷と人の列があって、列の前にトルムの大市の反物屋が立ち、反物屋の前にダレの宿場の馬喰が立っていた。三人とも荷を持たず、三人とも関のほうを見ていて、三人とも懐に手を入れていた。日が高くなり、関の役人が、迎えなら迎える相手の名を言え、と言った。若旦那が湯宿の女の名を言うと、反物屋が振り向き、馬喰も振り向いた。三人は列を出て、関の脇の木の下で書き付けを出して並べた。字は同じ字で、日取りは同じ日取りで、違うのは宛名だけだった。銀貨の額も同じだった。馬喰は書き付けを木の幹に打ちつけようとして、やめた。


 馬喰は、湯宿へ行って女に聞く、と言った。反物屋は、三人で行けば女は一人しかいないのだから、誰か二人は損をする、と言った。若旦那は何も言わずに書き付けを畳んだ。三人は関を入って湯宿へ行き、湯宿の者は三人の顔を順に見て、女を呼んだ。女は帳場にいて、三人を見ても逃げず、書き付けを三枚とも受け取って、確かに自分の字だと言った。馬喰が、三枚書いたのか、と聞くと、女は、三枚書いた、と言った。反物屋が、どれが本当だ、と聞くと、女は、三枚とも本当だ、と言った。日盛りの月の三日に関まで来てくれれば宿を出て行く、と書いた。三人とも関まで来てくれた。来なかった人の書き付けなら嘘になるが、三人とも来たのだから、三枚とも本当だ、と女は言った。若旦那は、その理屈は帳場で聞いたことがない、と思ったが、口には出さなかった。


 馬喰は、では今日、誰と出て行くのだ、と聞いた。女は、今日は湯宿の払いが残っている、と言った。払いは来年の日盛りの月までにはきっと片づくので、来年の三日に、また関で待っていてほしい、と女は言った。反物屋は、来年も三枚書くのか、と聞いた。女は、書き付けは一枚ずつ返すから、また持って来ればよい、新しく書けば銀貨が要る、と言って、三枚を三人に返した。若旦那は銀貨十枚の書き付けを懐に戻した。馬喰が、おれたちは三人とも損をしている、と言った。女は帳場から立って、三人に湯を勧め、湯のあとの膳を三つ言いつけてから言った。三人とも来年も来るのだから損はない。


 女将の字で、二年前の刈入れの月、トーヴェ帰りの若旦那、書き付けを見せてくれた、とある。

 私が足したのは、関で並んだくだりだけだ。書き取りでは、三人は湯宿で顔を合わせている。


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