ふらふらしてるな
電話を切ったあとも、しばらく考え込んだ。
気づけば、もう夕方だ。
何か腹に入れるか。
つっかけを履き、外へ出た。
こまどりへ。
店は混んでいた。
「俊ちゃん、奥」
あーちゃんが、小上がりを指す。
宇佐美は四畳半ほどの畳へ上がった。
畳だ。
やはり落ち着く。
このまま横になりたい。
なった。
何かの気配に目を開けると、司がいた。
座卓に膳を置く。
鶏の照り焼き。サラダ。きんぴらごぼう。
「おまえのだ」
宇佐美は身体を起こした。
寝起きのせいか、まったく食欲がない。
「司、何か頼んだ?」
「まだだ」
「それ、食べて」
「食わないのか」
眠かった。
「何も食べたくない」
あくびをしながら伸びをした。
「じゃあ、なんで飯を食いに来たんだ」
「今日、何も食べてない。身体に悪いから来た」
司が箸を動かし始める。
「強盗、捕まったね」
「ん?」
「僕のマンションの裏の家」
「ああ」
「電気屋じゃなかった」
「奴が捕まるわけねえだろ」
司は鼻で笑った。
「身代わりを立てたの?」
「さあな。金で罪を被る奴なんて、いないわけじゃない。毎日飯は食えるし、寝床もある」
「電気屋とは、どういう知り合い?」
「——中学の二つ上」
「名前は?」
司は答えなかった。
これ以上は言わないらしい。
ビールの入ったグラスに口をつける。
宇佐美は司の箸を取り、鶏の照り焼きを一切れつまんだ。
口に運ぶと、司と目が合う。
「おまえ」
「ん?」
「危なっかしいな」
「何が?」
「さらわれるぞ」
「僕の家、金持ちじゃない」
「そういう意味じゃねえよ」
ぽつりと言って、またビールを飲んだ。
「帰るよ」
座卓に千円札を置いて、立ち上がった。
司がグラスを置く。
「持っていけ」
もう背を向けていたので、司の顔は見なかった。
だが、怒ったような声だった。
構わず、つっかけを履いて外へ出る。
こまどりを出て数歩歩いたところで、足を止めた。
白い月が昇り始めている。
『来いよ』
正語さんの声を思い出した。
今ごろ、何をしているのだろう。
「おい」
肩に手を置かれた。
振り向くと、司だった。
「ふらふらしてんな。飲みに行くぞ」
司は正語さんと、背格好が似ている。
骨格まで——。
一瞬、足が司のほうへ向きかけた。
踏みとどまる。
「また今度」
走り出した。
気がつけば、自宅のマンションを通り過ぎ、駅へ向かっていた。




