洗濯物は乾いたが、事件は終わらない
日曜日。
「来いよ」
と正語さんに言われたが、サッカー観戦はパスした。
「家事代行が来るので」
それは嘘ではない。
「この日のお昼しか、予約枠が空いていなかったんです」
これは方便だ。
まあ、許されるだろう。
家事代行には、月に二回来てもらっている。
上京したばかりのころは、母が毎週、掃除と称して押しかけてきた。
「いい加減、俊介を放っておけ」
父にたしなめられ、ようやく来なくなった。ちょうど、過保護に育てられた男が罪を犯す事件が相次いでいた時期で、さすがの母も思うところがあったらしい。
とはいえ、完全に手を放したわけではない。
月に二回来る家事代行会社は、母の従兄弟が経営している。
宇佐美がどんな暮らしをしているのかは、逐一、母へ報告されていた。
コインランドリー。
洗剤の清潔な匂いが好きだった。
家事代行の人たちが部屋を掃除しているあいだ、宇佐美はたいてい洗濯をしている。
人が働いてくれているあいだ、自分は何をしていればいいのか。
身の置きどころがない。
宇佐美の部屋は、四畳半のダイニングキッチンに八畳の洋室。
玄関先でスマホをいじっていても、何か見張っているようで落ち着かなかった。
だから、代行が来る日は洗濯日にしている。
コインランドリーの近くには、ゴルフ練習場があった。
宇佐美はスマホを片手に、通りをぶらぶら歩く。
狭い路地。
周囲は住宅街。
こんなところに、ゴルフ練習場。
初めて見たときは物珍しかったが、東京ではありえないことでもない。
高級住宅街と学校と風俗街が、さほど離れていない場所にある。
すべてがぐちゃぐちゃだ。
棲み分けられているようで、その境界は曖昧。
それが東京なのだと、今では思っている。
ゴルフ練習場から、一台の車が出てきた。
黒いBMWのコンバーチブル。
宇佐美は足を止めた。
あれから一度、強盗騒ぎのあった家を確かめに行っている。
その前に停まっていた車だ。ナンバーも、記憶したものと一致している。
運転席には、白いポロシャツの男。
すれ違う一瞬、その顔を頭に叩き込んだ。
コインランドリーへ戻る。
あの強盗騒ぎは、ひとまず片がついたことになっていた。
金に困った老人が出頭し、犯行を認めた。
だが、本当にその老人が、あの家を狙ったのだろうか。
司から聞いた話とは、あまりにも噛み合わない。
あの家には「電気屋」の関係者が出入りし、酒と薬の絡んだ揉め事があった。
それが突然、老人による強盗事件で幕を閉じた。
身代わりではないのか。
乾いた洗濯物を大袋に詰め込み、サンタクロースよろしく肩に担ぐ。
さて、どうするか。




