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半分残して帰っていった

「司は、その電気屋と知り合いなの?」


 司は少し間を置いた。


「昔な」


 ——司まで、つながっているのか。


 司は、この界隈で何店舗も飲食店を経営している。


 かつては宇佐美も、その店に足を運んだ。


 パリジャンというカクテルを作ってもらい、それ以来、カシス系の飲み物が宇佐美のお気に入りになった。


 だが、司に飲み物を作ってもらうことは、もうない。


 司の背中を、一度だけ見たことがある。


 タトゥーと呼ぶには、あまりにも派手な彫り物だった。


 上京したばかりの宇佐美は、東京の人とはこういうものなのか、と思った。


 フロント企業という言葉すら知らなかった。


「おまえ、雰囲気変わったな」


「そう?」


「色っぽくなった」


「笑えない」


 司はしばらく宇佐美の顔を見ていた。


「男、できた?」


 宇佐美は答えず、煮魚を突っついた。


「いいなあ。寝癖頭で、すっぴんで——」


 司の手が、宇佐美の髪へ伸びる。指に一房絡める。


「それでもこんな可愛い女、どっかにいないかな」


 宇佐美は、その手を払いのけた。


 だが、今度は手首をつかまれる。


 痛いほどに。


「食事中」


 司は一瞬、何か言いたそうな顔をした。


 それでも、手はすぐに離れた。


 肩をすくめ、残ったビールを見下ろす。


「帰る」


 司は半分ほどビールを残し、帰っていった。


 グラスに半分、ビールが残っている。


 何ひとつ残さない男のはずだった。


 ——まずいな。


 司は、何か知っている。


 しかも、昔の知り合いというだけではなさそうだった。


 薬が絡んでいるなら、所轄だけでは済まないかもしれない。


 そのうえ、聞き込み記録には、すでに自分の名前が残っている。

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