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4/12

世界が止まった朝

シャッ――


朝日が部屋へ差し込む

少し眩しくて目を細めた


いつもと同じ朝


の、はずだった。


「…………ん?」


窓の外 マンション前の歩道に、スーツ姿の男がいた。


四十代くらいだろうか。


右手には黒い鞄

左手にはスマホ

出勤途中のサラリーマン


どこにでもいる普通のおっさんだ


ただし、その革靴は――地面についていなかった。


「…………」


目を擦る

もう一度見る

浮いている


地上から、二メートルくらい。


「いやいやいや……」


窓を開ける

冷たい朝の空気が頬に触れた

身体を乗り出して確認する。


間違いない


浮いている


しかも本人は、そのことに気づいていない。

空中で普通に歩いている。


右足


左足


足元には何もないのに。


「なんだ、あれ……」


そのとき

ピピピピッ――

背後でスマホのアラームが鳴った。

反射的に振り返る

画面には、6:12の文字。


次の瞬間


――音が、消えた。


「……え?」


静か


違う


静かなんじゃない

何も聞こえない。


さっきまで聞こえていた車のエンジン音


鳥の鳴き声


風で揺れる木々の音


”全部” 消えた


俺は窓の外を見る


「…………は?」


車が止まっていた


道路の真ん中で。信号待ちじゃない

走っている途中のまま、完全に静止している。


空を見上げる


一羽の鳥が、翼を広げた姿勢のまま止まっている。


落ちない


羽ばたかない


部屋へ目線を戻す。


風で揺れていたカーテンも、不自然に膨らんだ形のまま固まっている。


そして

空中のおっさんも止まっていた。


「……なんだよ、これ」


俺は動ける


一歩下がる


動ける


右手を握る


動く


俺だけだ

世界で、俺だけが動いている


一秒


二秒


三秒


カチッ――


どこかで時計の針が進むような音がした。


途端 ブオォン――!


車の音


バサバサッ!


鳥が飛んでいく


カーテンが大きく揺れた


「うわあああああ!?」


外から男の悲鳴

空中にいたおっさんが落下した。


ドサッ!


「いってぇぇぇ!! なんだ!?」


「…………」


生きてる…

尻を押さえながら辺りを見回している。


なら大丈夫

――じゃない…


「今の……」


俺はスマホを見る


六時十二分


秒数だけが何事もなかったように進んでいる。


夢?まだ夢の中なのか?

頬をつねる。


「痛っ」


痛い、なら現実。


……たぶん。


「レイー!」


階下から母さんの声。


「起きてるー!? 学校遅れるよー!」


「……起きてる!」


いつもの母さん

いつもの朝


俺は恐る恐る窓の外を見た。


車が走っている


人が歩いている


鳥が飛んでいる


誰一人として、今起きたことを気にしていない

世界は何事もなかったように動いている。


「…………」


俺だけを除いて。


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