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097:小川家での食事会

◇2041年6月@東京 <東山紗理奈>


中間テストがあった週の木曜日、東山紗理奈(さりな)は、学校でも親友の小川真花(まはな)から、「今日の夕方、うちに来ない?」と誘われた。


「今日は、珍しくパパもママも早く帰って来るみたいなの。それで、私の中間テストの打ち上げって事で、うちで食事会をやるんだ。と言っても、お姉ちゃんの誕生日がもうすぐだから、そっちのお祝いも兼ねてるんだけどね」

「それ、千花ちはなさんの誕生日の方がメインなんじゃないの? それに、だったらプレゼント……」

「そういうの、要らないから。お姉ちゃんが、『お誕生日会みたいにはしたくない』って言うの」

「そうなの?」

「うん。『それより、中間テストの打ち上げって事で、真花の友達を呼んだら?』だってさ。そしたら、唯花ゆいかが姫香ちゃんと夢香ちゃんを呼んじゃってさ。みおいちごも呼ぶから、紗理奈も来てくれると嬉しい」

「てことは、大人数になるね。えーと、全部で十人かな?」

「うん。ちょうど、うちのダイニングテーブルに座れる人数」


という訳で、この日の放課後、紗理奈は近くの洋菓子店でシュークリームを買って、ちゃんと車に乗って小川家を訪れた。佐伯姫香と夢香には、まだ「ムシ」であるのを明かしていないからだ。

だけど、江東区のタワマン最上階の小川家を訪れると、既に来ていた夢香が飛び付いて来て、「あれ、お姉ちゃん、お空を飛んで来たんじゃないの?」と言われてしまった。どうやら、唯花ゆいかから聞いていたらしい。


「あの、私も知ってますよ。でも、パパとママは知らないみたいだから、少なくともママには話してあげた方が良いと思う」

「えっ? でも、姫香は、『ムシ』って怖くないの?」

「怖くないよ。だいたい私だって、あと半年くらいで『ムシ』になるんでしょう?」

「えっ、それ、誰に聞いたの?」

真凛まりんさん」

「真凛さんって、福島の?」

「うん。あの人、面白いよね」


呆れた。確かに、姫香と夢香は既に「ムシ」予備軍なので、スマホのアプリを使って、同じ予備軍の子とも頻繁に交流している。でも、「ムシ」の事は微妙なので、あまり情報交換とかしないのが、暗黙のルールなのだ。まして、「ムシ」である真凛さんが教えるなんて……。


「あ、訊いたのは私だから、真凛さんは悪くないの。だいたい、『ムシ』になった人達の年齢とか知っちゃうと、自然に分かっちゃうじゃない。ふふっ、私、実は楽しみにしてるんです。『ムシ』になると、私の右足も普通に動くようになるんでしょう?」

「確実に治るって訳じゃないんだよ。もし治らなかったら……」

「その時は、その時だと思います。でも、私、何となく治るって分かるんです。だって、自分の事ですから」


姫香がそう言うって事は、きっとそうなんだろう。姫香は大人しい子だけど、妙にカンが良い所があるし、頭だって凄く良い。

その時、玄関ホールで立ち話をしていた紗理奈達の所へ小川千花がやって来て、「さあさあ、ダイニングの方に来て頂戴。紗理奈ちゃん、久しぶりね。待ってたわよ」と言ってくれた。

紗理奈は、お土産に持って来たシュークリームを千花に渡すと、姫香、夢香の姉妹と共に千花に付いて行った。



★★★



小川真花(まはな)の両親、小川聡介(そうすけ)千秋ちあきは、とても暖かく紗理奈を迎えてくれた。

聡介はエンジニアらしく無口だけど、頑固ではなく基本的にフレンドリー。単に口数が少ないだけである。むしろ、大らかと言って良い性格。体格も男子の平均程度の身長で、少しだけ太めだ。


一方の千秋の方は、小柄で華奢。髪が濃い目の茶髪でなければ、「ムシ」体型と言って良いって感じの女性だ。顔は整っていて、驚くほどに若々しい。小川家三姉妹のベースは、この人にあると誰もが認める美女だ。

だけど、性格は割ときつくて、思った事をずばずば言うタイプ。その為、学生時代は敵も多かったそうだ。それと、この人は自他共に認める吝嗇家りんしょくか。聡介に言わせると、「唯一、僕が千秋の嫌いな所は、ケチって事なんだよなあ」となる。

だけど、彼らが働く有明システムズが数ある競合他社を退けて急成長したのは、管理担当役員としての千秋の功績なのは間違いない。社長と営業担当役員は、共にイケイケの猪突猛進タイプ。CTOで技術本部長の聡介は、天才肌のエンジニア。そこに千秋がいなければ、遅かれ早かれ破綻していたのは間違いない。


「まあ、聡介さんは、不幸な境遇ではあるのよね。会社でも家庭でも四六時中、こんな私にガミガミ言われっ放しなんだから。その上、三人の子供は女ばかり。長女の千花に至っては、私と瓜二つの性格だものね。大らかで好きな事以外は何でもスルーしてしまう聡介さんじゃなきゃ、発狂しちゃうと思うわ」

「あのね、私は、お母さんみたいにケチじゃないと思うんだけど」

「それは、千花が会社と家庭を持っていないからよ。まあ、会社は私だけの持ち物ではないのだけど……。いや、そういう意味じゃ、家庭だって私の持ち物じゃないわね……。だけど、もう少し、それぞれが自分の事をきちんとやってくれたら良いんだけどねえ……あ、これは家庭だけの事じゃないのよ。ねえ、聡介さん……」


とまあ、こんな感じで、千秋の愚痴は延々と続いていたのだが、それを断ち切ったのは、やはり、千花の「お母さん、いい加減にしたら?」という一言だった。


「紗理奈ちゃん、困ってるじゃないの。紗理奈ちゃんは、今日の主賓の一人なんでしょう? お母さん、大人げないよ」

「うっ」


千花のストレートな物言いに千秋は、ぐうのも出ない様子。五秒間固まった後で、ようやく小声で、「ごめんなさい」と言った。


今日の夕食会の料理は、しゃぶしゃぶだった。小川家には家政婦がいないので、当然、今日の料理も千秋と千花が中心となって用意した事になる。しゃぶしゃぶの材料以外にも、ポテトサラダだとか枝豆だとかキムチだとか……。

うーん、料理と言える物とい言えば、ポテトサラダだろうか? でも、それって実は姫香が作ったのだとか……。


「しゃぶしゃぶとか鍋だとか焼き肉だとか、全部、うちの定番料理なんだよね。あとは、お客さんが来る時は、仕出しのお寿司やお弁当を頼んだりとか……。そんでも、『お手伝いさんを雇うよりは、ずっと安く付くでしょう?』って、ママが言うの」

「ふーん」

「お姉ちゃんが小さい頃は、お祖母ばあちゃんの家にしょっちゅう預けられてたみたい。で、私が小さい頃は、お姉ちゃんが面倒を見てくれて……。まあ、その頃はママがケチだからって訳じゃなくて、実際、お金が無かったみたいだけどね」

「なるほど」


要するに、今みたいには会社に余裕が無くて、役員報酬が少なかったって事だろう。


現在、十人掛けテーブルの端に聡介と千秋の夫婦。そのっ向かいに千花と紗理奈が座っている。紗理奈の左隣は真花まはなで、その前はみお。つまり、子供達はいちごを中心に鍋を囲んでいて、紗理奈は大人の方のグループに属しているという訳だ。

この配置は、聡介、千秋、千花がビールを飲んでいるからでもある。本当を言うと千花は二十歳はたちになっていないんだけど、何故か黙認されていた。ただし、紗理奈はお酌をしないので、セルフでやるのが条件らしい。


しばらく紗理奈が黙っていたからか、千秋が話し掛けてきた。


「紗理奈ちゃん、相変わらず若菜ちゃんとは仲が悪いの?」

「はい。特に最近は、向こうが避けているせいか、ほとんど顔を合わせません」

「そうなのね」


紗理奈も初めて知ったのだが、千秋も東京精霊女学園出身で、しかも若菜とはボランティア関係のサークルで先輩後輩の関係だったという。しかも、千秋の方が若菜よりも先輩らしい。見た目は、断然、千秋の方が若く見えるのだが……。


「しかし、若菜ちゃんも困ったものよね。こんなに可愛い娘を放っておくなんて……。私、つい最近まで、時々若菜ちゃんと会っていたのよ。それなのに、娘がいるなんて全く知らなかったわ。たぶん、あの頃のサークル仲間の誰も知らない筈よ」


その若菜は、こないだからカウンセリングを受けるようになった訳だが、当然、そんな事は言わない。変な噂が広がったりしたら父に迷惑が掛かってしまうし、まして進藤の祖父に知られたりでもしたら、もっと大事になるのが目に見えているからだ。


「でも、若菜ちゃんの娘と私の娘が揃って金髪で、その『ムシ』ってのになったのって、本当に偶然だったのかしらね」

「えっ」

「私、千花と真花から今回の話を聞いて、実際に真花と、それに苺ちゃんも『ムシ』になるのを見て、色々と考えたのよ……。それでね。ひとつだけ思い当たる事があるの。三十年前の大震災の時、私、福島の飯坂温泉にいたのよねー。うちの学校、卒業式が割と早くて……。当時は、まだ福島の祖父母が生きててね、あの日、一緒に温泉に泊ってたんだけど、結局、直ぐには帰って来れなくなっちゃって、それが良くなかったと思うのよねー」

「うちの母も叔母も、当時は福島に住んでまして……」

「そうみたいね。私、若菜ちゃんから何度か聞かされたもの。てことは、姫香ちゃんと夢香ちゃんも、その影響って事ね」

「もちろん、こういう髪の毛になった子が全員、震災の時に母親が福島に居たって訳じゃないんですけど……」

「そりゃそうよ。でも、どうしても、あの時の震災の後に起こった事故に原因があるみたいに思っちゃうのよねー……あ、誤解しないでね。別に私、紗理奈ちゃんや真花みたいな髪の毛、嫌いじゃないのよ。すっごく綺麗だと思ってる。ねっ、あなただって、そう思うでしょう?」

「ママったら、ちょっと酔っ払ってない?」

「あら、そうかしらね。うーん、正直に言うと、私も娘達が人と違う髪色で悩んでた事が無い訳じゃないの。だから、こんなに大勢、同じような髪の毛の子がいて、本当に嬉しくて仕方がないって感じ。みんな、私や私の娘達の仲間だものね。だから、千花から『茶髪の子の保護者会』って集まりの事を聞いて、『これだっ!』って思っちゃった……」


やっぱり、千秋さんは、ちょっと酔っているみたいだった。


それから、紗理奈達四人の『ムシ』が順番にチョウの翅を披露したりもして、それなりに盛り上がり、夜の八時頃にはお開きになった。


その後、姫香と夢香の事が少し心配だった紗理奈は、一緒の車に乗って帰った。更に従妹達と別れた後も、光を纏ってそ佐伯家に先回りして、ちゃんと二人が玄関から中に入るのを見届けてから、「アオスジ」の翅を出して自分の家に飛んで帰ったのだった。




END097


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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