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096:中間テストと「ムシ」達の全体会議

◇2041年6月@東京 <東山紗理奈>


東山紗理奈(さりな)は、東京精霊女学園中等部に入学して最初の定期テストを、割とアッサリと終える事が出来た。榊原澪さかきばらみおと小川真花(まはな)の二人も同じで、「思ったよりも簡単だった」という感想だったのだが、唯一、吉岡(いちご)だけが違っていた。


〈ええーっ、あれが簡単って、マジ?〉

〈マジに決まってるでしょうが。どこに難しい要素があったのよ?〉

〈むぅ〉

〈まあ、苺には苺の良さがあるんだし……〉

〈もう、澪よりも紗理奈の方が酷い〉

〈えっ、何で? 苺は、テキトーに歌って踊ってりゃ良いって、言ってあげてるんじゃない〉

〈うーん、私も紗理奈の意見に同意かな?〉

〈うぇーん、真花先生にまで見捨てられたら、アタシ、生きて行けないよーっ〉

〈だったら、もっと勉強したら?〉

〈ねえ、紗理奈。私、思ったんだけど、ひょっとして『ムシ』の子の脳味噌の量って、翅のサイズに比例してるんじゃない?〉

〈み、澪ったら、何てこと言うのよっ! ぐすん〉

〈あーあ、苺が完全に落ち込んじゃった……〉


とまあ、「何で、こんな話をしているか?」と言うと、公立だろうと私立だろうと、定期テストの内容は大半の学校で統一されつつあるからだ。これも当初は教師の負荷軽減の一環だったのだが、今では授業そのものが、各生徒の進行度合いに応じたEラーニング主体となっている為に、統一テストの方が合理的だと判断されている。

それで、紗理奈、澪、真花の三人が「簡単」と感じたテストが、苺だけ「難しい」と感じたのだが、数日後、その苺でさえ、ギリギリだけど千葉県全体での上位一割に入っていると判明。彼女の小学校の時と比べると格段に良い成績との事で、両親共にビックリ。直前に家まで来て勉強を教えてくれた真花なんかは、その両親から手放しで感謝されたそうだ。

要するに、苺もまた「ムシ」になった事による恩恵を、しっかりと享受していたって訳だ。苺が落ち込んでいたのは、単に他の三人が優秀すぎたという事らしい。


とはいえ、澪と真花は、きちんと苺に釘を刺しておくのを忘れなかった。


〈県下で何位だろうと、苺が私達四人の中で最下位だってのは変わりないんだからね〉

〈うっ〉

〈そうそう。それに苺の事だから、当分は遊ぼうとか思ってんのかもしれないけど、毎日の勉強をサボってたら、今度こそ助けてやんないよ〉

〈ううっ〉

〈まあ、悔しかったら、次のテストで私を抜いてみなさいな〉


こんな風に他の「ムシ」達から煽りに煽られた苺は、元が素直というか単純な事もあって、後に澪の成績を追い抜く事になるのだが、それはまた別の話である。



★★★



日曜日に榊原海渡さかきばらかいとと話した内容を、その日のうちに紗理奈は、矢吹天音(あまね)と関口仁志(ひとし)に報告しておいた。と言っても、翌日に中間テストが控えていた為、ごく簡単なメッセージのみだ。


その中間テストが終わった火曜日の夕食後、本当は「ムシ」になって空に向かいたい気持ちをグッと堪えて、紗理奈は天音によって指定されたウェブ会議に出席した。

参加者は、全ての「ムシ」達に加えて、菅野彩佳(あやか)、関口仁志、早坂琴音(ことね)、小川千花(ちはな)だった。他に、鵜飼優流うかいすぐる立花奏音たちばなかなとにも案内を送っていたのだが、用事があって欠席との事。後で、録画データを見てもらう事になっている。

会議の内容は、実質的に榊原海渡と話した事の報告がメインなので、大半は紗理奈が話し、それに対する質疑応答という事になった。ところが、紗理奈が海渡にした提案内容を話し終えて、それらを基本的に彼が全て受け入れたと言った途端、彩佳から『凄いわ、紗理奈ちゃん』という感嘆の声が上がった。


『あのサカキバラ商事の時期社長の前で堂々とプレゼンテーションをして、それをほぼ丸呑みさせちゃうだなんて、とても中学生が出来る事じゃないわよ』

「でも、事前に関口さんと天音さんとで話した内容なので……」

『いやいや、ほとんどは紗理奈ちゃんが考えたって聞いてるわよ』


そこでみおが、『日曜日の紗理奈、すっごくカッコ良かったっていうか、うちの兄貴の方がタジタジだったんです』なんて言ったもんだから、余計に賞賛される事になってしまった。


『あ、そうだ。それでなんだけど、あの後、兄貴がパパと連絡を取ってくれてて、次の日曜日、海外出張から戻ったら会ってくれる事になったよ』

「えっ、でも、そうなるとメンバーは……」

『それなんだけど、まだ時間が分からないし、パパの体調次第ってのもあるから、私と紗理奈だけって事になるかな……。真花まはなだったら、居てくれても良いけど』


つまり、サカキバラ商事の社長、榊原陸翔(りくと)との面会時間は、彼の体調次第で流動的らしい。『紗理奈や真花なら直ぐに「ムシ」になって飛んで行けるから、それでも問題ないだろう』って、澪は言いたい訳だ。

すると、吉岡(いちご)が、『あの、苺だけど……、ねえ、澪、アタシも行くよ。少し時間が掛かっても、行くからね』と言い出した。

苺の船橋の自宅から新宿のタワマン最上階にある榊原家までは、直線距離で二十六キロ。彼女の翅だと四十分は掛かる。


『大丈夫。その日はアタシ、真花の所に居る事にするから。それだったら、二十分もあれば行けるよ』


本当は、『苺が居ない方が、話がスムーズに進むから』って思惑もあったんだけど、彼女に押し切られる形で首都圏の「ムシ」全員の参加が決まってしまった。

それからは今後の日程の話になり、陸翔との面会の結果次第だけど、今月中に菅野彩佳が弁護士を連れてサカキバラ商事を訪問したいとの事。

更に早坂琴音から、『それと、だいたい同じタイミングで、「茶髪の子の保護者会」東京支部の発足式兼懇親会をやりたいわね』という意見が出た。場所には、『先日、首都圏のサポーターメンバーとの昼食会をやった中華料理店を、第一候補に考えている』との事だ。


そうなると、紗理奈も覚悟を決めるしかない。

紗理奈は、「分かりました。私も早急に父へのカミングアウトをする事にします」と宣言したのだった。



★★



榊原海渡との面談結果の報告が終わった後、天音から提案があって、名古屋にいるかもしれない「ムシ」の子に関する件を話し合う事になった。

対象の子は志賀沙織という名前で、現在、中学二年生。福島県岩木市に住む「ムシ」予備軍の子、鯨岡絢乃くじらおかあやのの隣に住んでいて、三年前に名古屋に引っ越したとの事だ。

その子の髪は淡い茶髪らしい。七つ違いの妹もいて、その子の方は完全な金髪なのだそうだ。直接に会っていないので断言は出来ないが、話を聞いた限りでは、既に「ムシ」の能力を発現させている可能性が極めて高い。毎晩、名古屋の街の上空を、たった一人で飛び回っている光景を想像すると、紗理奈とて胸が痛む。

紗理奈には、六月に「ムシ」になってから十月に榊原(みお)が「ムシ」になるまでの間、首都圏で一人ぼっちだった経験がある。それでも紗理奈の場合、福島にいる大勢のお姉さん達と頻繁にやり取りをしていたから、耐えられたのだ。せめて、「未確認飛行少女(UFG)情報サイト」の存在に、その子が気付いてくれてれば良いんだけど……。


『既に先方には、絢乃ちゃんの方から、「近々会いに行きたい」という連絡を入れてもらっています。それで、少し急ではあるんだけど、できれば再来週の土日辺りで、その子に会いに行ってみたいんだけど……』

『琴音ですけど、私も天音ちゃんに賛成。そういうのは、早い方が良いと思うわよ』

『琴音さん、ありがとうございます……。それで、メンバーなんですけど、基本的には私と絢乃ちゃん、それと東京から数人を加える形で行きたいと思っています……。あの、その時までに絢乃ちゃんが「ムシ」になってくれていれば良いんだけど……。そしたら、東京までは『ムシ』の姿で飛んで行っちゃおうかなーって……。まあ、ダメなら東京まではバスで移動するつもりです。絢乃ちゃん、何かある?』


どうやら、「ムシ」予備軍の鯨岡絢乃も、この会議に参加しているようだ。


『あ、あの、鯨岡絢乃です……。えーと、実は、沙織お姉ちゃんにはUFG情報サイトの存在を教えてあげていて、そん時、割と派手なリアクションがあったんです。だから、たぶん「ムシ」になってるのは間違いないって思うんです』

『そっか。まあ、そうよね……。という訳で、絢乃ちゃんは沙織って子の所に泊まるとして、私はビジネスホテルでも取ろうかなーって思ってて、できれば、紗理奈ちゃん辺りが一緒に行ってくれるとう嬉しいんだけど……』


そこで紗理奈が『良いですよ』と言おうとしたのだが、その前に、琴音、千花ちはな真花まはなから相次いで声が上がった。


『あの、琴音です……。天音ちゃんは高校生だから大丈夫な気もするけど、ビジネスホテルに泊まるってなると、ちょっと心配かな……。やっぱり、私も行くわ』

『千花です……。琴音が行くんだったら、私も行こうかしら』

『えっ、お姉ちゃんも行くの? だったら、私も付いて行きたいんだけど……』


という事で、名古屋へ行くメンバーは、矢吹天音と鯨岡絢乃以外に、早坂琴音、小川千花と真花、そして、紗理奈の六人になったのだった。




END096


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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