表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/122

094:榊原海渡(3)

◇2041年6月@東京 <東山紗理奈>


六月最初の日曜日も、いよいよ午後となり、東山紗理奈(さりな)は「ムシ」になって新宿のタワマン最上階にある榊原澪さかきばらみおの部屋へ飛び込んだ。


迎えてくれたのは、彼女の家庭教師、坂下美倖(みゆき)だった。


「紗理奈ちゃん。来てくれたのは有難いんだけど、明日からのテストは大丈夫なの? 中学に入って最初の定期テストなんでしょう?」

「たぶん、大丈夫だと思います」


紗理奈は、別に思った通りに言ったつもりなのだが、美倖は「無理しなくて良いのよ」との事。

そうこうするうちに澪が迎えに来て、家族用のリビングに通された。


そこに居たのは、一組の男女。男性の方は、ポロシャツにチノパンといったラフないで立ちで、まさにゴルフ帰りといった感じだ。

隣りの妙齢の女性の方は、和服姿。やや小柄だが品があり、若いのに落ち着いた人だ……なんて、紗理奈が思っていたら、別の入り口から見知った女性が入って来た。


小母おば様、遅くなってしまい申し訳ありません」

「良いのよ、初音はつねちゃん。大して遅れてはいないわ」


初音は、清楚な白いワンピ姿。てことは、和服姿の女性の方は……。

そこで、紗理奈の存在に気付いた初音と隣の澪とが、ほぼ同時に声を上げた。


「あら、紗理奈ちゃん……」「ママ、こっちが私の親友の紗理奈だよ」

「まあ、本当に綺麗な蜂蜜色の髪をしているのね。それに、碧い瞳だなんて、本当に素敵」

「もう、ママったら……」

「あ、ごめんなさい。私は、澪の母の榊原(あや)です。紗理奈ちゃんのお父さんの孝太郎さんには、大変お世話になっているわ……あら、どうしたの?」

「あ、すいません。澪のお母様にしては、あまりにお若いと思いまして……」

「あらまあ、嬉しいわ。さあさあ、座って頂戴」


紗理奈は、「コ」の字型のソファーの綾の正面に腰を下ろした。その隣には澪が腰掛ける。


小母おば様は、本当に若く見えますものね」

「ふふっ、そのせいで、初対面の相手に嘗められる事が多くて、苦労してるのよ」

「母さん、童顔だもんな」

「お黙りっ、海渡かいと!」


どうやら、綾の隣の男性が澪の兄、榊原海渡(かいと)のようだ。この部屋で唯一の男性である海渡は、紗理奈が思っていたよりもずっと若く見えた。澪より十二も年上だとは、とても思えない。

ラフな服装ってのもあるけど、初音と同じ大学生カップルと言われても頷けるレベル。小柄な澪と同じ遺伝子を持つとは信じられない程に長身で、精悍な顔付きの正統派イケメンって感じだ。

しばらくの間、紗理奈が海渡の方を見ていたからか、その彼が話し掛けて来た。


「もう分かってると思うけど、僕が澪の兄の海渡だよ。今日はテスト前だって言うのに、来てくれてありがとう。なるほど、初音から聞いてはいたけど、本当に綺麗な子だね。まるで西洋人形みたいだ」

「あ、あの、良く言われます」

「海渡さん。その言葉、紗理奈ちゃんは、好きじゃないみたいよ」

「そうなのかい?」

「当然でしょう。人形みたいっていうのは、人間味が無いと同義ですもの。私も時々言われるんですけど、嬉しくはありませんわ」

「そうか。ごめんごめん。でも、綺麗だって思ったのは、本当だよ。さっき、母さんだって言ってたじゃないか」

「でも、女性が言うのと男性が言うのとでは、意味が違うと思いますけど」

「もう、初音はうるさいなあ。綺麗な子を綺麗って言って、何で悪いんだよ。それに、すっごく可愛いじゃないか」

「あの……」

「あ、もちろん、澪も可愛いよ……。しかし、純粋な日本人で金髪って子が、澪以外に居たってのは驚きだな。その点でも紗理奈ちゃんに会えて良かったよ」

「あの、澪と私以外にも居ますけど」

「ああ、小川さんの所のお嬢さん達だね」

「私の従妹の佐伯さえき家にもいます」

「その話も聞いてるよ。ほんと、最近の日本は、どうなっちゃってるんだろうね」

「はい、その辺の事を、今日はお話させて頂く為に参りました」

「あはは。紗理奈ちゃん、固いよ。この部屋では、もっと軽い調子で良いからね」

「海渡さんは、軽すぎますっ!」


初音が窘めた通り、海渡は口が軽いというか、かなり饒舌な男だった。

将来、大企業を背負しょって立つ上では、こういうのも必要なスキルなんだろうか?

そういや、ガイジンっていうと、早口の英語でペラペラと捲し立てるイメージがある。そいう口達者な海外の顧客と対等に渡り合う為には、これくらい饒舌じゃないと……なんて思っていたら、隣の澪から、〈紗理奈、それ、絶対に違うからね〉という言葉が心話で飛んで来た。


〈兄貴のスキル、女の子を口説く為に磨いた奴だから。それでママが、「そろそろ落ち着きなさい」って意味も込めて、早急に初音さんとの結婚を前倒しさせたんだからね〉

〈なるほど〉


やっぱり、紗理奈の男の人の見方は、まだまだ甘いようだ。最近、優流すぐるお兄ちゃんと話すようになったとはいえ、知り合いの男の人が圧倒的に少ないせいだろう。もっと、色んな男の人と話してみる必要があるのかも……。

そんな風に脳内反省会をしていた紗理奈に、澪がタブレット端末を押し付けてくる。紗理奈の方が慣れているからと、澪に「ムシ」の説明を任されていたのだ。


紗理奈は、「未確認飛行少女(UFG)情報サイト」の画面を壁の巨大ディスプレイに表示し、いつもと同様に「ムシ」の説明を開始。その後、海渡からの質問を受ける。

それらが終わると、澪と紗理奈が順番に「ムシ」になって見せた。室内だと見える部分が限られるので、窓をすり抜けて、外側に浮かんで全身が分かるようにする。既に陽が沈んだ後だったのが幸いして、「カラクサ」も「アオスジ」も色鮮やかに視認する事が出来た筈……。


「いやあ、実物を見ると、思った以上に迫力があるね」

「でも、とっても素敵だわ。私、小さい頃は空を飛ぶのが夢だったのよ……あ、もちろん、飛行機でって意味じゃないわよ」


そんな感想が二人の口から出てくるって事は、予め初音が説明してくれていたんだろう。

そうかと思うと、海渡が急にビジネスライクな口調で言った。


「これは、僕が思った以上だよ。それで、紗理奈ちゃん。この『ムシ』に変異できる女の子は、本当に、これからどんどんと増えて行くんだね?」

「はい。増えて行くのは間違いありません」

「その根拠は?」

「私達は、『ムシ』予備軍って呼んでるんですけど、将来、『ムシ』になりそうな小学生の女の子がいっぱいいるからです」

「それは、単純に『金髪かそれに近い髪色の女の子が多くいる』って意味じゃないんだよね?」

「違います。そういう髪色の子イコール『ムシ』になるって訳じゃないですから」

「と言うと、君は、『ムシ』になるかどうかが分かるって事かい?」

「はい。ある程度は。たぶん、どの『ムシ』の子も多かれ少なかれ分かると思います」

「そういうものなのかな?」

「そういうものです」「紗理奈の言うとおりだよ」


紗理奈の声に重ねる形で、澪も断言してくれた。


それから、今度は『ムシ』の能力についての説明に移った。

説明の最後に、紗理奈が髪の毛を伸ばして操作して見せた時だった。さすがの陸翔も「うわあ」と怯えた声を上げた。その隣では、綾が声も出せずに震えている。

マズいと思った紗理奈は、直ぐに髪を元に戻して言った。


「すいません。見苦しい物をお見せしました。これは、最終手段っていうか、身の危険を感じた時の切り札でして……」

「あ、いや、見せて欲しいって言ったのは僕の方だから、紗理奈ちゃんは悪くないよ……。でも、驚いたよ」

「他にも、澪は、ちょっとした竜巻を起こす事ができます」

「あの、竜巻って言っても、小さなつむじ風だけどね」

「ふふっ、女の子のスカートを捲ったりするには、役立つみたいよ」


そんな事を初音さんが言い出したのは、きっと場を和ませる為だろう。だから、紗理奈も便乗する事にした。


「あ、それなら、もっと良い能力があります。私も出来るんですけど、壁の向こうが透けて見えたりするんです」

「それって、ひょっとして……」

「はい。初音さんの下着の色だって、バッチリ分かっちゃいます」

「なるほど、何で男の子は『ムシ』になれないかが分かった気がするわ。海渡さん、残念だったわね」


視線が唯一の男性の海渡に集まった事で、彼は小さく咳払いをしてから、おもむろに「だいたい、分かったよ」と言った。


「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか?」


ところが、その時、家政婦の片瀬尚美かたせなおみがやって来て、綾に向かって言った。


「奥様、お食事の準備が出来ましたけど、どうなさいますか?」




END094


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ