表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/123

091:紗理奈の近況

◇2041年5月@東京 <東山紗理奈>


東山紗理奈(さりな)が母の若菜に頬を打たれた日の翌日の月曜、彼女は、首都圏のサポーターとの顔合わせを兼ねた昼食会の案内を、正式に早坂琴音(ことね)から入手した。日付は次の日曜日。場所は中華料理屋との事。学校で小川真花(まはな)と話して、一緒の車で行く事にした。

詳細は、その翌日、優流すぐるお兄ちゃんに聞いた。その日は、彼の部屋に初めて真花も連れて行った。どうやら、優流が真花を知っているというのは、本当の事だったようだ。


そうして、やって来た五月最後の日曜日、いつもよりも遅い時間に紗理奈は自室を出てダイニングへ向かった。すると、父の孝太郎がポツンと座っている。

一応、来る前に家政婦の松川愛子から「奥様は、いらっしゃいませんので」と言われていたので、母の若菜との鉢合わせが無い事は分かっていたのだが、父がいたのは少し意外だった。昨夜の夜更かしのせいで、ちょっと遅い時間だったからだ。

紗理奈が「おはよう」と言うと、父は「おはよう」と返してくれる。相変わらず無表情だが、だいぶ自然な感じだ。最近、良く話すようになったせいだろう。


その父の前には、ブラックコーヒーしかない。紗理奈は、『ひょっとして、私を待っていてくれたのかも』と思ったけど、聞かないでおいた。

家政婦の松川が、紗理奈の前にカフェオレの入ったマグカップを置いてくれた。


「今日は、いつもより遅いんだな」

「ごめんなさい」

「あ、いや、責めてる訳じゃないんだ」


やはり、紗理奈の推測が当たっていたようだ。


「それで、若菜の事なんだが、昨日、何とか病院に連れて行ったんだ。軽い精神疾患の恐れがあるそうだ」

「そうですか」

「ああ。紗理奈の方から桃香ももかさんに頼んでくれたそうだな。ありがとう」

「いや、私は自分の悩みを叔母様に聞いて頂いただけです。それから、姫香ひめか夢香ゆめかの二人と一日ずっと遊んで、気を紛らす事ができました」

「そうか。最近、あの二人とも仲が良いみたいだな」

「同じ髪色の仲間ですから」

「そうか」


そこで、家政婦の松川がパンケーキ、グリーンサラダ、スクランブルエッグ、ヨーグルトが載ったトレイを運んで来て、紗理奈の前に置いてくれた。マグカップにカフェオレのお替りも注いでくれる。


「そういや、有明システムズの小川さんの娘さんとも親しいそうだな」

「はい。次女の真花まはなとは、同じ学校の同級生なんです。それから、三女の唯花ゆいかちゃんと夢香ちゃんが、うちの初等部で一緒だそうですよ」

「なるほど、そういう関係なんだな」

「はい。あ、それとですね。実は、今日のお昼なんですが、小川千花(ちはな)さんと会う事になっていまして……。真花も一緒です」

「そうか。あそこも東山モビリティの顧客だから、今後とも良好な関係でいてくれると助かる」

「分かりました」


それから、話は進藤家の事になった。


「しかし、進藤の親父も困ったもんだな」

「あれから、何の音沙汰も無しでしょうか?」

「無いな」

「あの、私が「お祖父じい様から呼ばれるかも」って話を以前、された事があったかと思うんですが……」

「ああ、それな。あの時は、お前の優秀さを知って興味が沸いたみたいだが、思い直したようだ。やはり歳を取ると、なかなか意見を変えられんらしい」

「そうですか」

「不服化?」

「いや、逆に安心しました」

「そうか」

「お父さんこそ最近は仲が悪そうですが、大丈夫なんですか?」


確か祖父が勤めていた銀行は、東山モビリティのメインバンクだった筈だ。


「大丈夫だ。あの銀行内での親父の発言力なんて、もはや微々たるもんだ。それに、今は別の銀行との繋がりだってある」

「そうですか」

「そう言えば、立花物産のお嬢さんとも会ったそうだな?」

「はい。みおが立花家を訪問する際、同行する事がありまして……あ、澪というのは、榊原澪さかきばらみおの事です」

「なるほどな」

「はい。初音はつねさんは、榊原海渡(かいと)さんの婚約者ですから。初音さん、話し易い人ですよ。それと、初音さんの弟の奏音かなとさんとも時々お会いします。澪とは幼馴染のお兄さんだそうで……。あ、そうだ。確か小川千花さんとも幼馴染なんだそうです」

「あはは。随分と知り合いが増えたもんだな」

「はい。お陰様で」


その後も紗理奈は父の孝太郎と雑談を続け、家政婦の松川に「お出かけするなら、そろそろ準備をしませんと」と言われて、ダイニングを後にした。



★★★



この日の昼食会の事を父の孝太郎には、「小川千花(ちはな)に会いに行く」と言ったのだが、当然、他にも参加者はいっぱいいる。そもそも目的は、首都圏の「ムシ」に対するサポーターの顔合わせであって、千花はサポーターの一人でしかない。

その話し合いには、遠隔ウェブで矢吹天音(あまね)も参加しており、紗理奈が発言する機会はほとんど無かった。だけど、紗理奈としては、タダで美味しい中華料理が食べられて大満足だった。

タダと言うのは、どういう会計処理をしたのかは知らないが、千花が「中学生の紗理奈ちゃんから、お金を取る訳がないじゃない」と言うのだ。仕方が無いので、お兄さんやお姉さん達に、「ごちそうさまでした」と言って、ニコリと笑って頭を下げておいたのだった。



★★★



翌日の月曜日、紗理奈は真花まはなから、「今日の夜、パパとママの時間が取れたんだ」という話を聞かされた。ただし、何を間違えたのか、家族でレストランへ行く事になったと言う。


「絶対、おかしいよね。私、『パパとママに話があるの』ってメールを送っただけなのに、それが何で『家族で食事する事にしよう』ってなるわけ?」

「美味しい物が食べられるんなら、別に良いじゃない。で、何を食べに行くの?」

「焼き肉」

「ぷっ」

「笑わないでよ。確かに焼き肉は嫌いじゃないけど、何で家族で焼き肉なのよ」

「お父さんが、焼き肉、食べたかったんじゃない?」

「それに反対しないママもママよね。まあ、焼き肉と言っても、韓国料理の店みたいなんだけど、せめて、しゃぶしゃぶにして欲しかったわ」

「ふーん。韓国料理っていうなら、焼き肉以外にも色々と食べられそうじゃない」

「辛いのばっかりって気がするんだよねえ。特に、お姉ちゃんが辛いの大好きなんだもん。そんでもって、『真花は、お子ちゃまねえ』とか言ってバカにするに決まってるんだから」


とまあ、こんな風に紗理奈の前で散々に愚痴っていた真花だったが、更に翌日の火曜日になると、一変して真花はニコニコ顔だった。

どうやら、両親へのカミングアウトが成功したらしい。


昼休み、その真花は紗理奈を屋上へ連れて行くと、昨夜の事を勢い込んで話し出した。


「韓国料理屋では、パパもママも、それから、お姉ちゃんまでビールとか飲み出しちゃってさ。内心、『これは駄目かも』って諦めてたんだけど、ちゃんと帰って来てからは、話を聞いてくれて……」

「酔っ払ってたんじゃなかったの?」

「うん。うちの血筋って、結構、お酒には強いみたい。少なくとも、ちゃんと起きててくれたもん」

「うーん、それって強いって言えるのかなあ?」

「そんでさ、お姉ちゃんが何故かペラペラと説明してくれちゃって、私に『ほら、「ムシ」になってみなさい』とか言うから、その場で『ムシ』になったんだけど、ママが『部屋の中じゃ良くわかんない』とか言うんだよね。て、仕方が無いから天井から外に出て、窓ガラスに家族が張り付いたのを確認してから、宙返りとかして色々とサービスしてやったんだ」

「ふーん。で、どうだった?」

「もう、メッチャ観劇されちゃった。ママなんか、手を叩いて喜んでるの」

「それって、やっぱり酔っ払いなんじゃないの?」

「うーん、そうなのかなあ? 確かに、その後で抱き着いて来て、お酒臭くはあったんだけど……。そういや、パパまで抱き付いて来ようとしたから、お姉ちゃんにハリセンで叩かれてたっけ?」

「ハリセンなんてあったんだ」

「うん。お姉ちゃんが即席で作ったみたい」

「なんか、滅茶苦茶な家族だね。でも、賑やかで楽しそう」

「そうかなあ? うるさいだけだと思うけど……」


話を聞いた限りだと、真花の両親は相当に酔っていたようだ。


「それって、『今朝になったら、何も覚えてなかった』ってオチじゃないよね? それか、『なんか、変な夢、見ちゃった。真花がでっかいチョウになったっ夢』みたいな……」

「ううん。全然、普通だったよ。ママは、ちょっと頭が痛そうだったけど……」

「駄目じゃん」

「あ、でも、なんか凄く驚かれちゃった」

「えっ、何が?」

「私の目が普通に見えてるの、パパもママも知らなかったみたいなんだ」

「そっか」

「うん。それで、改めて、『「ムシ」になって良かったね』って言ってくれたんだ……。あ、それと、紗理奈にも会いたいんだってさ」

「えっ、何で?」

「私にとって、初めての友達だからじゃないかな? 私、ボッチだったからさ」「

「それ、自分で言う……って、私もだったんだけどさ」

「ふふっ……あ、それで私、言ってやったんだ。『もう、焼き肉は止めてよね』って。そしたら、『何が良いんだ?』ってパパが言うから、『うちで、しゃぶしゃぶかなあ?』って言っといた。もちろん、みおいちごも呼ぶつもりだよ。でも、すぐに中間テストだから、その後にしてもらうつもり。まあ、紗理奈に中間テストは関係ないのかもだけど……」


なんか、真花にしては、すっごく饒舌だった。

そして、授業開始五分前のチャイムが鳴った時、紗理奈は思ったのだ。


きっと真花って、お酒で酔っ払ったら、こんな感じに話し上戸じょうごになるんだろうな。




END091


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ