077:苺のカミングアウト(1)
◇2041年5月@東京 <小川真花>
ここで話は、紗理奈が鵜飼優流と再会した金曜日まで、時を一週間少々遡る。
この日、小川真花は、吉岡苺と会っていた。と言っても、場所は東京ネズミーランドのシンデレラ城にある塔の上。単に夕食後というアバウトな待ち合わせ時間だったけど、だいたい同じタイミングで出会う事ができた。
呼び出したのは、苺の方だった。
〈どうしたの? 突然、二人で会いたいだなんて珍しいじゃない〉
〈別に、そうでもないよ。だって、紗理奈と澪は、用事があるみたいだからさ〉
〈そういや、何か言ってたかも〉
〈あはは。相変わらず真花は、他人の事に関心が薄いよね〉
〈えっ、そうかな?〉
〈そうでしょうが。普通、友達だったら、それぐらいは覚えておくもんだと思うよ。まあ、どうでも良い相手だったら別だろうけどね〉
〈うーん、確かに紗理奈は、どうでも良い相手じゃないかも〉
〈でしょう? その辺の所から、真花にはリハビリが必要だよね〉
〈リハビリ?〉
〈紗理奈がさ、「真花の低すぎる自己評価を何とかしてやって」って言うんだよね〉
〈低すぎる自己評価って、それ、紗理奈の事なんじゃないの?〉
〈それにはアタシも同意するけどさ、真花の自意識が低いのだって、本当じゃん? だいたいさあ、今日、紗理奈が澪に呼ばれたのって、なんの為か知ってる?〉
〈知らないけど〉
〈「知らない」じゃなくて、「興味ない」の間違いじゃないの?〉
〈うーん……〉
〈まあいっか。アタシ、昼休みに澪とチャットして、その辺りの事を問い詰めてやったんだよね。真花は紗理奈と一緒にいる事が多いみたいだけど、いつも澪はボッチだからさ。最近、昼休みにチャットしてやる事が多いんだ〉
〈それって、苺もボッチって事なんじゃないの?〉
〈違うってば。教室にいると、直ぐに男子が寄って来てウザいっていうかさ。それで、人気の無い所にいる事が多いんだ。ほら、うちの中学って共学じゃん。でもって、アタシは、美少女アイドル……〉
〈ぷっ〉
〈ちょっ、ちょっと、あんた、何で笑うのよ〉
〈キャハハ……〉
〈こ、こら、笑うな!〉
〈あ、ごめん……。だって、おっかしくて……。そっか、苺はアイドルだもんねー〉
〈だから、美少女アイドルなんだってば……〉
〈はいはい〉
〈もう、なんかバカにされてる気がするんだけどー〉
〈してないしてない。それで?〉
〈でさ、まだ五月なのに、アタシ、校内の三大美少女にランクインしちゃってて、そのせいで、もう五人だよ〉
〈何、その五人って?〉
〈だから、アタシにコクってきた男子の数だってば。もちろん、全員、断ってやったけど〉
〈えっ、何で?〉
〈だって、めんどいじゃん。特に女子がさ。まあ、断ったら断ったで怒鳴り込んで来る女はいるんだけどさ〉
〈うわあ、確かにメッチャ面倒かも〉
〈そうなんだよねー〉
〈そういや、私が虐められてた理由も、最初はそんな感じだったかも〉
〈でしょう? とにかく恋愛ってのは、碌な事ないんだよね。ほんと、止めて欲しいんだけど-〉
〈でも、アイドルとかになったら、今以上に男が寄って来るんじゃないの?〉
〈その場合は護衛だって付くだろうし、そもそも、今みたいに普通の男にコクられたりしなくなるじゃん? そういう面倒な事は、全部、事務所の方でやってくれるようになるって話だよ〉
〈うーん、そういうのは、一部の有名な子だけなんじゃないかな?〉
〈だーかーらー、アタシは、その一部の有名な子になりたいんだってばあ……、あ、もちろん、歌や踊りが好きってのもあるんだけどさ〉
そう言いながら苺は、観覧車の方へと真花を誘導して行く。その苺は、誰も乗ってなかったゴンドラを素早く見付けて乗り込むと、真花にも乗るように促した。
〈ところでさ、さっきは何の話してたんだっけ?〉
〈今日、澪が紗理奈を呼んだ理由だけど……〉
〈あ、そうそう。それって、大学生の男と会う為なんだよねー〉
〈えっ?〉
〈アタシが「ムシ」になる前の事らしいんだけど、紗理奈が飛ぶのに疲れて、タワマンのベランダに立ち寄った事があったんだってさ。で、そこの部屋にいたのが、今日、紗理奈が会うっていう大学生の男。何でも、その男の方が紗理奈に会いたがってたそうだよ〉
〈何それ?〉
〈別に普通だと思うよー。だって、紗理奈、そこそこ可愛いでしょう? まあ、それは真花もだけどさ〉
〈えっ、私?〉
〈だから、それが紗理奈の言う「自己評価が低い」って事なんだってば。まあ、紗理奈もおんなじようなもんなんだけどさ〉
〈あのね、紗理奈が可愛いってのは認めるけど、私は……〉
〈はあ。たぶん、紗理奈だったら、逆のこと言いそう。ほんと、あんた達って、似た者どうしだよねー。そう思うと、なんか顔まで似てるように思えてきたかも……あ、パレードが始まったみたい〉
そのパレードの開始地点は、会場の反対側と言って良い程に離れていたにも関わらず、真花にも分かった。二人は即座にゴンドラから飛び出して、今度はパレードの方へと飛んで行った。
★★★
小川真花が最初に吉岡苺と出会ったのは、ゴールデンウィーク最終日の月曜の夜、真花が「ムシ」になった時だ。そして、今日は金曜日。つまり、まだ知り合って四日目という事になる。
その苺と真花とは、別々の学校だ。だから、一緒にいるのは夜の短い時間だけ。それなのに、いつの間にか付き合いの長い友達のような気分になっちゃってる。人見知りの真花としては、有り得ないくらいに不思議な事である。
そもそも、真花にとっての友達一号は、東山紗理奈なのだ。てことは、苺は友達二号という事になる。後は、まだ一度しか会ってないけど、榊原澪も友達なんだろうか?
その苺と真花は、ついさっき勝手にパレードに乱入して、散々に引っ掻き回して大いに楽しんだ後、今は船橋市の郊外にある苺の自宅に来ていた。
真花の所と同じで苺の両親も仕事が忙しく、だいたい帰宅は深夜になるらしい。
現在、家にいるのは苺の姉の杏のみ。その杏も部屋に籠っていて、当分、外へ出て来る事はないという。
〈お姉ちゃん、塾には行ってないんだけど、遠隔で授業を受けてるの。だから、この時間は勉強中ってわけ。うちの親、アタシにも同じこと勧めてきて、ウザいんだよね〉
その苺は、週に一度、歌とダンスのレッスンを受けていて、そっちは一度も休まず通っているそうだ。
〈一応、テストの目標偏差値があってさ、それを下回るとレッスンを辞めなきゃなんないから、勉強も手を抜けないんだ〉
ただし、「ムシ」になってから前よりも記憶力が良くなったそうで、短時間の勉強でも充分な成果が出せるようになったという。
真花の場合、「ムシ」になったばかりなのでハッキリとは分からないが、既に同じような手応えがあるので次のテストが楽しみだ。
〈ねえ、もう少しボリューム落とさない?〉
さっきから心話のままなのは、音が煩いのも理由のひとつだった。
〈うるさかった?〉
〈うん。私も音楽は聞くけど、隣のお姉ちゃんや妹の部屋に響かないようにしてるから、あんまりボリューム上げた事ないの〉
〈まあ、それが普通だよね。実は、パパが若い頃にバンドやっててさ。アタシが防音の部屋を貰ったんだ〉
〈ふーん、そうなんだ〉
今夜、真花が苺の部屋に来たのは、お互い「ムシ」である事を、どうやって家族にカミングアウトするか話し合う為だった。
〈やっぱ、一番の問題は、忙しい親をどう捕まえるかだよね〉
〈てか、休みの日しかないんじゃない?〉
〈休みったって、うちの親、土曜のほとんどは休出かゴルフなんだけど〉
〈うちもそう。あ、それとパーティーの事もあるよ〉
〈うちは、海外出張ってのもあるんだよねー〉
今、真花が考えているのは、まず姉の千花にカミングアウトして、その姉と一緒に両親へ打ち明ける事。ワンステップ置く事で、多少は精神的に楽な気がするのだ。
〈アタシも、その作戦で行くかなあ〉
〈苺のお姉さん、毎日、遠隔の授業があるの?〉
〈ううん。週に四日だけ〉
〈うわあ、大変だね〉
〈だからさ、アタシ、どっかの大学の付属高校に入ろうと思うんだよね。エスカレータで大学へ行けるとこ〉
〈うちの学園にも大学はあるけど、全員が行ける訳じゃないって聞くよ〉
〈そんでも、外部受験するよりは楽じゃん?〉
〈まあ、そうだけど〉
そんな雑談混じりの会話を長々と続け、気が付くと午後十一時を過ぎていた。
それで、取り敢えず明日の土曜、苺が姉の杏さんにカミングアウトする事になり、その時に真花も立ち会ってあげる事にした。
そうして、この日、真花は吉岡家を後にした。だけど、彼女がタワマン最上階の自室に窓から戻った際、その姿を姉の千花がしっかりと見ていた事に、まだ真花は気付いていないのだった。
END077
当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。
引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。
また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。
★★★
できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。
いずれも完結済です。
銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~
https://ncode.syosetu.com/n9786lf/
※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。
ハッピーアイランドへようこそ
https://ncode.syosetu.com/n0842lg/
※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。
【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~
https://ncode.syosetu.com/n6201ht/
※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。




