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074: 首都圏の「ムシ」達との会合(2)

◇2041年5月@東京 <早坂琴音>


早坂琴音(ことね)は、東山紗理奈(さりな)の生い立ちや「ムシ」になった経緯などを、東京へ戻る時のJR特急「ひたち」の中で一通り聞かされていた。それは、俄かには信じがたい程に酷いものだった。

紗理奈は、生まれ付き金髪碧眼で色白。小柄で華奢な点を覗けば、白人のように見えた。その為、父は母の浮気を疑い、そんな父を母は嫌悪した。だけど、DNA検査まで行ったにも関わらず、娘は二人の子で間違いない。しかし、その後に判明した弱視と難聴の障碍が、母の娘に対する嫌悪を決定的なものにした。

母の若菜の実家である進藤家は、旧華族の流れを引く名家。父の進藤隆正(たかまさ)は大手銀行役員、後に頭取を務めており、非常にプライドが高い。しかも極端なガイジン嫌いで、一目ひとめ、紗理奈を見ただけで、初孫だったにも関わらず拒絶した。その為、未だに紗理奈は進藤家の敷居を跨がせてもらっていない。それと、若菜の極端な紗理奈への嫌悪には、祖父の隆正の影響があった事も考えられる。


その後、父の孝太郎が始めた東山モビリティの業績好調もあって、夫婦の仲は多少持ち直したが、二人の紗理奈に対する対応は変わらなかった。一応、家政婦が紗理奈の世話をしたものの最低限でしかなく、ほとんど放置されたような状態で小学校の入学手続きすら、役所から人が来てくれて、ようやく為されたといった有り様だった。

通常、紗理奈の家がある地域では、中流以上の家庭の子は私立の学校へ行く。だけど、紗理奈が入学したのは公立の小学校。しかも、弱視で難聴といった障害の事も、一切の考慮がされていない。金髪が生まれ付きである事すら教師の間では共有されず、『どうせ親の趣味で髪を染めたんだろう』というのが共通認識だったという。

そんな状況の為、紗理奈は入学当初から激しいイジメに遭った。そのイジメは教師にも及び、特に五年生と六年生の時の担任教師、坂本佳花(よしか)は紗理奈が裕福な家庭の子だと知ると、逆恨みから不良男子を使って彼女を襲わせた。そして、そいつらの壮絶なリンチによって瀕死の重傷を負った紗理奈は、偶然、修学旅行で東京に来ていた矢吹天音(あまね)に救われ、「ムシ」の能力を発現させたのだった。


琴音は、そうした紗理奈のプロフィールを思い出しながら、PCのディスプレイに映る紗理奈の顔をじっと見ていた。

話題は、首都圏での「ムシ」達のサポーター強化施策についてだった。

そこで、もっとも的確な意見を言ったのは、昨日、「ムシ」の能力が発現したばかりの小川真花(まはな)だった。


『あの、真花です。首都圏での「茶髪の子の保護者会」の拠点を作る第一歩は、私達が自分の親にカミングアウトする事ですよね?』

「そうよ」

『あのー、それって、たぶん、一番簡単そうなのは、私って気がするんですけど……。あ、でも、お姉ちゃんには先に話しといた方が良いかも。うーん、だけど、お姉ちゃんって割と現実主義者っていうか、自分が見た物しか信じない人だしなあ……』

「ふふっ、真花ちゃん、それ何となく分かる。千花って、そういう意味だと結構、頑固なんだよね」

『そうなんですよー。だから、妹は苦労が絶えないっていうか……。あ、そうだ。私、決めました。これから、紗理奈が言ってた夜空のお散歩へ行く時は、帰りだけでも窓から私の部屋へ戻るようにします。私の部屋、お姉ちゃんの隣りだから、そのうちに気付くと思うんです』

「なるほど、良い案かもしれないわね。ふふっ、千花が血相を変えて真花ちゃんの部屋に飛び込んでくるのが、目に浮かぶようだわ」

『うちの両親へのカミングアウトの時は、お姉ちゃんがいてくれた方が話し易いと思うんです』

『あの、澪です。そん時には、私と紗理奈が同席しても良いよ』

『そんなら、アタシも……』

『別に苺は、いなくても良いんじゃない?』

『な、何でよ?』

『そんなの、私と紗理奈が社長令嬢だからに決まってるじゃない』

『むぅ』

「澪ちゃんの言い方はストレート過ぎるって気もするけど、言ってる事は正しいわよ。まあ、苺ちゃんも場を和ませるって所では、役に立つと思うけどね」

『紗理奈です。苺の場合は粗相とかして、却って場をぶち壊すってリスクもあると思うんだけど……』

『紗理奈、酷い』

『まあ、苺が粗相しないっていうなら、いても良いとは思うよ』

『なんか、澪って偉そうなんだけど』

『お嬢様だもんね』

『だから、紗理奈だって社長令嬢なんだってば。そろそろ、ちゃんと自覚しなさいっ!』


相変わらず女子中学生(JC)達の会話は、空回りしたり横道に逸れてばかりで、どうにも時間が掛かってしまう。

そんな彼女達を忍耐強く眺めていられる関口は、案外、大人物なのかもしれないと琴音は思ってしまった。



★★★



「それじゃあ、真花まはなちゃんの場合は、それで良いわね。そうなると、次はいちごちゃんかな?」

『紗理奈です。苺の場合は別にどうでも良いっていうか、必要なら私が行ってあげるけど、何か問題とかある?』

『うーん、アタシ、正直言って親と話すの苦手っていうか……』

『すいません、凜華りんかです。あのさ、苺ちゃん。うちらの年頃って、親と話すのが苦手じゃない子の方が少ないと思うよ』

「琴音だけど、私も凜華ちゃんの言う通りだと思うわ。苺ちゃんの所って、普通のサラリーマンだったわよね? 確か、外資系だったかしら?」

『あ、はい……。あ、でも、やっぱ、紗理奈に来てもらった方が良いかも』


元気なイメージの苺にしては、珍しく自信なさげな口調だった。そして、それを感じ取ったのか、紗理奈が言った。


『分かったよ、苺。私が一緒にいてあげる。だから、大丈夫だよ』


吉岡苺については、紗理奈に任せておけば大丈夫だろう。


「じゃあ、次は紗理奈ちゃんだけど、どうかしら?」

『うーん、母の方は絶望的っていうか……、父の方だけはカミングアウトできなくもないって気がしますけど、うちの父も割とリアリストでして……』

「たぶん、そういう人の方が、現実を受け入れやすいと思うわよ」

『あ、それ、一理あるかも』


そこで声を上げたのは、天音だった。


『あの、天音だけど、うちの父親も頑固なんだけど、変異して見せたら、すんなりと受け入れてくれたよ』

『でも、心配なのは……』

『紗理奈ちゃん、お父さんの事、信じてみたら?』


紗理奈の声を遮るように、天音から励ましの声が飛んだ。


『あの、みおです。そんでも紗理奈の場合は、リスクがあると思うんです。なので、まず私が父にカミングアウトして、その後で紗理奈って事にしたいんですが、それじゃ駄目ですか?』

『関口です。ちょっと良いかな?』

「あ、関口さん、どうぞ」

『僕も、澪ちゃんの案で構わないと思うけど、そう言う澪ちゃんの方こそ、色々と大変なんじゃないのかい?』

『あ、はい。それでなんですけど……』


その後で澪が説明してくれたのは、外堀から埋めて行く作戦だった。

澪の家庭教師として住み込みの女子大生、坂下美倖(みゆき)と、琴音の大学での知り合いである立花奏音(かなと)には、既にカミングアウトしている。次のターゲットは奏音の姉の立花初音(はつね)で、今度の週末にでも「ムシ」である事を打ち明ける予定との事。

その初音は澪の兄の榊原海渡(かいと)の婚約者なので、その海渡に対しては、初音の協力を得てのカミングアウトが効果的。そして、最後は全員の協力を得て両親を説得……、といった計画でいるとの事だった。


『たぶん、両親へのカミングアウトは、来月になっちゃうと思うんですけど……、でも、うちの親さえ落としてしまえば、紗理奈のお父さんの攻略も簡単になるかと……』

『うーん、攻略ねえ……』

『あ、ごめんなさい』

『あはは。澪ちゃんがゲームオタクって情報は、僕も天音ちゃんから聞いてるから大丈夫だよ』

『うっ』



★★★



一通り、「ムシ」の子達のカミングアウトの話が終わった所で、いよいよ出番とばかりに琴音が口を開いた。


「あの、それで最後に私から提案なんだけど、一度、私の大学での友人達を入れての食事会をやりたいと思うの。と言っても主役は関口さんで、その友人達を関口さんに会わせるのが目的なんだけど……」

真花まはなです。あの、琴音さん。その大学の友人ってのは、私のお姉ちゃんの事ですか?』

「そうね。当然、千花ちはなも呼ぶつもりよ」

みおです。それだったら、立花のお兄ちゃんもですか?』

「そうね。彼も呼ぶつもり」


それから琴音は、具体的な話をする事にした。


「それで、まず場所なんだけど、私の親戚がやってる中華料理屋が良いと思うの。そこだと個室があるし、壁にディスプレイがあって、今日みたいなウェブ会議もできるから、天音ちゃんや凜華ちゃんも参加できるでしょう? まあ、お料理は食べられないんだけど……」

『天音です。それなら、お食事が終わってから参加する事にします』

「ふふっ、そうしてくれると良いかも」

『あの、紗理奈ですけど、ひとつ聞いても良いですか?』

「良いわよ、紗理奈ちゃん」

『私達「ムシ」は、四人とも参加でしょうか?』

「そのつもりだけど」

『あ、澪ですけど、紗理奈と真花だけの参加にして、私と苺がいない方が良いような……』

『澪ったら、ひっどーい。また私だけ除け者にしようとするぅ』

『だって、苺がいるとうるさくて、落ち着いて話が出来なくなっちゃうじゃない』

『むぅ。アタシだって、美味しい中華料理、食べたいのにー』

『だったら、私の部屋に来る? 好きな中華料理ぐらい、御馳走してあげるよ』

『あ、関口です。それなら、澪ちゃんと苺ちゃんも、天音ちゃんみたいにウェブで参加する?』

『うーん、モニタリングだけの方が良いかも』

『了解。でも、何か言いたい事があったら、発現しても良いからね』

『分かりました』


という事で、食事会への「ムシ」の子の参加は、紗理奈と真花だけになった。

その後、日程の話になり、五月最後の日曜日をベースに調整して行く事が決まったのだった。




END074


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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