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073: 首都圏の「ムシ」達との会合(1)

◇2041年5月@東京 <早坂琴音>


ゴールデンウィーク最終日の翌朝、早坂琴音(ことね)は、福島県岩木市から東京へJRの特急「ひたち」で移動した。その際に彼女は、「未確認飛行少女(UFG)情報サイト」の管理人、関口仁志(ひとし)と、ずーっと一緒だった。

その関口と琴音が会ったのは、今回で二回目。昨夜、そんな同じ歳の男の自宅に躊躇ためらいなく泊めてもらった琴音は、やはり何処どこか普通の女じゃないんだろう。


琴音は、自分をリアリストだと思っている。その一方で、最近の自分は、結構、常識外れの行動を取っているという自覚がある。東大の受験を止めて東都大学への進学を決めた辺りも、かつての自分だったら取らなかっただろう選択だ。

リアリストとしては、たぶん「ムシ」なんて存在に関わるべきでないのは明白だ。恐らく、「ムシ」達は今の社会には受け入れられない。その為、彼女達は社会から弾き出され、ある意味、迫害される運命を辿る事だろう。

それなのに琴音は、既に「ムシ」という存在に強い思い入れをしていて、もはや放っておけなくなってしまっている。そんな自分を、今も意識の奥に残っている過去の自分の残滓が嘲笑っているのだが、もはや琴音は意志を変えるつもりはない。


東京へ戻って来る特急「ひたち」の車中で琴音は、関口仁志から小川真花(まはな)に「ムシ」の能力が発現した事を聞いた。発現したのは、昨日の夕方の遅い時間だったという。昨日、彼女の能力が開花するのを事前に察知した東山紗理奈(さりな)榊原澪さかきばらみお、吉岡(いちご)が、仲間になった真花を迎えに彼女の家を訪れたそうだ。

これで、首都圏の「ムシ」は四人になった。それはそれで喜ばしい事なんだけど、ひとつ、頭を悩ませる問題がある。真花の姉であり琴音の友人である小川千花に、この事を伝えるべきかどうかだ。

いや、間違いなく伝えるべきなのだが、それを言うのは「真花自身であるべき」という気がする。


琴音が東京の賃貸マンションに戻って一休みした頃、彼女のスマホにメッセージが入った。相手は、少し前まで一緒だった関口仁志。内容は、今日の夜、話したいというもの。別に今でも良いのにと思ったら、ウェブ会議のリンクが張られていた。

更に、その下には、『天音ちゃんと凜華ちゃんの他に、東京の四人の「ムシ」達にも参加してもらう』旨と、『今日のミーティングは、早坂さんの方で仕切ってもらえますか?』といった事が書かれてある。


どうやら、それは、首都圏の「ムシ」達を紹介してくれる為のものらしかった。



★★★



『天音です。琴音さん、お久しぶりです』


最初にウェブ会議の画面に現れたのは、矢吹天音(あまね)だった。琴音が彼女に会ったのは、三月に行われたUFG情報サイトのオフ会の二次会が初めて。今日は直接に会った訳じゃないけど、これで二回目だ。

金髪色白の彼女は、相変わらず可愛い。四月から高校生になった筈だが、小柄な彼女は、未だに中学生にしか見えなかった。


『昨日は、せっかく泊まりたいとの申し出を受けたのに、対応できずに申し訳ありませんでした』

「いやいや、それは急な事だったからで、謝るのは私の方よ」

『凜華でーす。琴音さん、昨日ぶりでーす』

「あ、凜華ちゃん。こんばんは」


そこで、一拍置いて四人の金髪少女達が現れた。もっとも、その内の一人はピンクブロンドという感じで、それはそれで綺麗。


『琴音さん、ご紹介します。東山紗理奈(さりな)ちゃん、榊原(みお)ちゃん、吉岡(いちご)ちゃん、小川真花(まはな)ちゃんです。えーと、こうして見ると、みんな、割と似てますね。短い髪で青い目の子が紗理奈ちゃん、セミロングのふわふわの髪で一番お嬢様っぽいのが澪ちゃん。少しピンクい髪で、えーと、一番小柄って言うと怒られちゃうかな……』

『天音さんになら、大丈夫ですよー。アタシが苺ちゃんでーす!』

『澪です。もう、苺ったら、自分で『イチゴちゃん』とか言っちゃうんだから』

『別に良いじゃん』

『あ、私は、小川真花って言います。姉の千花ちはなが大変お世話になっています』


どうやら、四人の中で一番に落ち着いた感じの子が、真花であるらしかった。だけど、明るくて天真爛漫な印象の千花とは違って、真花の方は何となく影がある感じがする。


「ふふっ、千花に世話になってるのは、私の方よ。彼女って、素直で良い子よね」

『えっ? 私の知ってる姉は、外面は良くても凄く腹黒な女ですけど』

「あら、千花は真花ちゃんの事、いつも『素直で可愛い妹』だって言うのに、真花ちゃんは辛辣なのね。お姉さんの事、嫌い?」

『べ、別に嫌いじゃないです。姉に愛されてるってのは分かってますし……、でも、少々ウザいっていうか……』

「あ、それは分かるかも。あの子、世話焼きタイプなのよねー。だけど、さっき真花ちゃんが言った腹黒ってのは、少し違うと思うわよ。確かに、色々と考えてる事はありそうだけど、私に言わせたら大したこと無いっていうか、どうでも良い事ばかりって感じなんだもの」

『そうなんですか?』

『ふふっ、琴音さんこそ、腹黒ですもんね』

「こら、凜華ちゃん。そうじゃないと、生徒会長なんてやってらんないでしょう?」

『あれ? うちのお姉ちゃんも生徒会長、やってましたけど』

「知ってるわ。でも、千花の方は、先生達の言いなり……っていうと語弊があるわね。えーと、体制に従順な生徒会長って感じかしら。でも、私の場合、体制に立て付く方の生徒会長なの。凜華ちゃんも、ちゃんと、そういう伝統を引き継いで頂戴」

『えっ、私ですか? 私、まだ朝香あさか高校に入ってませんけど……』


凜華が困惑した表情をして見せたけど、琴音としては、間違いなく『凜華ちゃんは、私の後継者』って思ってる。

けど、反体制派として、琴音も凜華も敵いそうにないオーラを放っている少女がいた。東山紗理奈だ。真花もそうだけど、紗理奈もまた笑わない少女だった。それに、口数も少ない。


『あの、天音ですけど、琴音さん、生徒会長が体制側だろうと反体制側だろうと、大勢の生徒を纏めて行かなきゃならないのは同じですよね?』

「そうね」

『私、今は「クイーン」とか呼ばれてますけど、実は元々引っ込み思案な方でして……、まあ、「ムシ」の子の大半はそうですけど……』

「えーと、それは天音ちゃんが、本当はクイーンのうつわじゃないって言いたいの?」

『はい』

「私は、そうは思わないわ。天音ちゃんには、ちゃんと人を引き付ける強烈なオーラがあるもの。ね、そうでしょう、関口さん?」

『あの、関口です。最初の方は口を挟まないつもりだったんだけど……、そうだね。僕も天音ちゃんには、人を惹き付ける魅力があると思うよ』

『凜華です。ふふっ、関口さんは、天音さんとラブラブ……あ、いや、天音さんは、偉大なる予言者ですもんね』

『もう、凜華ちゃんったら……。とにかく、私なんかよりも遥かに「クイーン」として相応ふさわしいのは、紗理奈ちゃんだと思うんです』

『天音さん……』

「私も、そう思うわ」


琴音は、紗理奈が何か言う前に声を上げていた。


「紗理奈ちゃんとは、今日、初めて会ったんだけど、大勢の人間を惹き付けて従わせられるオーラがあると思う。それに、紗理奈ちゃんって、凄く頭が良いってのも聞いてるわ」

『あの、真花です。紗理奈は、本当に凄いんです。中学に入った時の実力テストで、全国一桁だったんですよ』

「まあ、テストの結果だったら、真花ちゃんも天音ちゃんも澪ちゃんだって、凄く優秀だって聞いてるわよ……あ、凜華ちゃんもなのかしら?」

『琴音さん、何で私だけ疑問形なんですか?』

『あの、苺ですけどー、アタシなんて、名前すら出てきてないんですけどー』

「あ、吉岡苺ちゃんだっけ? ごめんごめん。でも、苺ちゃんには、別の才能があるんでしょう?」

『はいっ、そうなんです! アタシ、アイドルを目指してましてー……』


苺は、話に聞いていた通りに元気な子のようだった。



★★★



琴音と「ムシ」の子達の雑談が一通り済んだと思ったのか、ようやく関口仁志が口を開いた。


『えーと、少し良いかな? 今日の集まりの目的なんだけど、ひとつは琴音さんと君達との顔見せで、これは、だいたい終わったよね。それで、次なんだけど、これからの事についてみんなとのコンセンサスを得ておきたかったんだ』

『苺でーす。あのー、コンセンサスって何ですかあ?』

『こ、こら、苺……』

『あ、ごめん、みんなの合意を得ておきたいって事だよ。皆に琴音さんを引き合わせたのも、彼女には君達のサポーターになって欲しいと思ったからなんだ』

『紗理奈です。サポーターって、「茶髪の子の保護者会」の事ですね?』

『そうだよ。「茶髪の子の保護者会」は、サポーターを組織化した団体なんだ』

『てことは、「茶髪の子の保護者会」強化計画って訳ですね?』

『そういう事になるのかな。だけど、残念ながら、まだ首都圏に『茶髪の子の保護者会』は無いだろ? だから、こっちにも拠点を作る為の施策だとか、それに代わる体制を考える事になるのかな』

『なるほど、良く分かりました』


このミーティングは、まだまだ長くなりそうだった。




END073


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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