072: 琴音の告白(2)
◇2041年3~5月@福島県郡山市~岩木市~東京 <早坂琴音>
早坂琴音が東都大学からの正式な合格通知を受け取った頃、「未確認飛行少女情報サイトの第三回オフ会開催の情報が、生徒会の後輩である大槻乙音からもたらされた。「もし、お時間があれば、出てみませんか?」とのお誘いである。
特に、今年になってから琴音が「ムシ」に関心を寄せている事を乙音は知っており、どうやら今回は、UFG情報サイトの管理人、関口仁志に琴音を合わせたいようだ。
「関口さん、やっぱり東大に現役で合格されまして、来月から東京で一人暮らしなんです。だったら、同じ一人暮らしの琴音先輩に会わせちゃおうって思ったんです」
「はいはい。余計なお世話って奴ね」
「いや、そうじゃないんです。琴音先輩が今後も『ムシ』の子達と関わって行くつもりがおありでしたら、彼は絶対にキーパーソンだと思うんです」
そんな風に言われて会ってみたのだが、やはりというか、男性としての彼には興味なし。だけど、彼が持っている情報と二次会で会った『クイーン』と呼ばれる少女、矢吹天音には興味を持った。
その関口から琴音は、東京での「ムシ」達のサポーターになる事と、同様のサポーターになりうる人材の発掘を頼まれた。
ところが、琴音が東都大学へ入学して早々に、何の巡りあわせか、サポーターに最適なメンバーが次々と彼女の前に現れたのである。
一人目は、語学で同じクラスになった小川千花。彼女の両親はIT系ベンチャー企業、有明システムズの役員の創業メンバーとの事で、そこそこの資産家だ。そんな両親の長女である千花には二人の妹がいて、なんと二人とも生まれ付きの金髪との事。
その後、実際に次女の真花は、それほど時間を置かずして首都圏で四人目の「ムシ」になる。
二人目の立花奏音は、千花の幼馴染。彼の父親は大手商社、立花物産の社長で、母の奏美は世界的に著名なピアニスト。文句なしに上流階級の人間だ。更に、彼の姉の初音は、セキュリティの総合商社として名高いグローバル企業、サカキバラ商事の次期社長と目される榊原海渡の婚約者だと言う。
その海渡には歳の離れた妹がおり、その榊原澪と奏音は親しいらしい。そして、その澪が生まれ付金髪の美少女で、実は首都圏で二人目の「ムシ」らしいのだ。
三人目は、鵜飼優流。彼は奏音の幼馴染にして親友だ。両親の事までは知らないが、タワマンの上層階に住んでいる事からして、彼の家も裕福な家庭であるのは間違いない。
その優流の「ムシ」との接点は少々特別で、首都圏で最初の「ムシ」、東山紗理奈がたまたま立ち寄った先が、彼の部屋のベランダだったという事だ。ただし、それ以降、五月に入っても彼女との接触は無し。彼が紗理奈と再会を果たすのは、ゴールデンウィークが終わって少ししてからとなる。
その後、彼は紗理奈を筆頭に多くの「ムシ」達と交流を持つ……というか、ぶっちゃけ彼の部屋が、榊原澪の部屋と共に東京の「ムシ」達のたまり場になって行く。澪の自室と比べたら狭い部屋だけど、やって来る「ムシ」達に美味しい紅茶とお菓子を提供してくれるので、とても居心地の良い休憩場所なのだ。
★★★
五月のゴールデンウィーク後半の四連休、琴音は一カ月ぶりに実家に来ていた。東京での女の一人暮らしは気疲れする事が多く、実家での滞在は意外と快適だった。
弟の柊耶から東京の「ムシ」の事を聞かれたけど、もちろん、何も喋ったりしない。と言っても、まだ誰とも会ってはいないのだけれど……。
最終日の午後、そろそろ帰ろうと思って琴音が荷造りしていると、突然、窓の外が眩しくなり、玉根凜華が「ムシ」の姿で飛び込んで来た。『できれば会いたい』と伝えてはいたけど、こんな最後のギリギリになって来られても困ってしまう。
その旨をきつい調子にならないように伝えると、凜華は「ごめんなさい」と謝った上で、「実は、今まで会津の方に行ってたんです」と言う。『家族旅行かな?』と思ったら、違っていた。
「隣の大谷真希さんや福島の菅野彩佳さんを連れて、吾妻美和ちゃんの家へ行ってまして……あ、美和ちゃんってのは、先々週『ムシ』になった会津若松の子なんですけど」
「えーと、『茶髪の子の保護者会』への勧誘って事?」
「はい。どうしても、昨日と今日じゃないと駄目で……、それと、その前は仙台の方へ行ってました。まあ、そっちは天音さんも一緒だったんで、どうしても行かなきゃって事じゃ無かったんですけど、一度、仙台に行ってみたかったんで付いてっちゃいました」
完全に、公務だった。現在、この玉根凜華は、矢吹天音に次ぐ「ムシ」達のナンバー2。二十名以上の「ムシ」達、いや、予備軍を合わせると軽く五十名を超える女の子達を束ねる立場なのだ。
「そっか。相変わらず忙しいんだ」
「まあ、そうですね。最近、『ムシ』になる子が相次いでまして……。嬉しい事なんですけどね」
そこで琴音は、ちょっと意地悪な質問をしてみた。
「ねえ、私に会えなかったら、どうするつもりだったの?」
琴音としては、『東京に来たら、泊めてあげる』って言うつもりだったんだけど……。
「うーん、そん時は、六月の修学旅行の時かなあ。私、修学旅行、東京なんです」
「知ってるわよ。私の時もそうだったもの。でも、修学旅行って、あんまり時間ないわよ。それに、どうせ東京の『ムシ』の子達と、ネズミーランドに行く事になるんじゃない?」
「確かに、そうかも……。で、琴音さんは、これから新幹線で帰るんですか?」
「うん、そのつもりだけど」
「どうせ帰るんだったら、岩木経由ってのはどうです? 私、岩木までなら付き合いますよ。一緒に、夜の海とか見て、明日の朝、帰ったって良いんじゃないですか?」
言われてみれば、それもアリな気がする。明日は大した講義が無いから、午前中は自主休講って手もある訳だし……。
「えーと、一応は聞いておくけど、海を見た後、凜華ちゃんはどうするの?」
「もちろん、郡山に帰りますよ。学校がありますから」
普通の中学生だと有り得ない発想だけど、最近の凜華は、割と頻繁に岩木へ日帰りで行っていると聞く。こんな時間に家を出ても、余裕で帰って来られるという事なんだろう。何でも、勝手にトラックの荷台に乗っていれば楽ちんなんだとか……。
「でも、私の泊まる所はどうすんの? 今からホテルを取るとなると……、まあ、連休最終日だから何とかなるのかもしれないけど……」
「たぶん、大丈夫ですよ。天音さんの所……は、まだ引っ越したばっかだから、杏樹ちゃんか美優ちゃんの所の方が良いのかなあ……。後はですね、いっそ、関口さんの家に泊まっちゃうとか?」
「いやいや、それは無いでしょう……」
そんな会話の後、結局、凜華の口車に乗る形で、琴音は菓子折りだけを買って車を手配すると、凜華と二人で郡山を出たのだが……。
★★★
「もう、天音さんも杏樹ちゃんも美優ちゃんも酷いんですよー。今夜は夜遅くまで帰れないから、うちに泊まりたいなら、親と直接に交渉して欲しいなんて言うんです」
「うーん、さすがにそれは、あつかましいわね。天音さんのご両親でさえ、まだお会いしてないもの……」
「ですよねー」
いったいどういう状況かと言うと、岩木市内の「ムシ」達三人に茨城県の三人と関口仁志を加えたメンバーで、今日は朝からずっと岩木市が誇る巨大屋内プールにいるのだという。それで、夜遅い帰宅になってしまう原因というのが、水戸の石井めぐみにあるというのだ。今の所、「ムシ」達の中で一番やんちゃな彼女の暴走は、天音でさえ止められないらしい。
「そんなの、その子を置いて帰っちゃえば良いんじゃないの?」
「うーん、それは、さすがに可愛そうといいう事じゃないですか?」
「まあ、うちらも急な訪問なんだから、文句は言えないわね。いっそ、このまま常磐自動車道経由で帰っちゃおうかしら」
既に岩木市の手前まで来ているので、途中の休憩とかを入れたって、たぶん、日付が変わらないうちに帰れる筈……と思ったのだが……。
「今日は、さすがに夜中まで渋滞すると思いますよ。連休の最終日ですもん」
確かに、そうかもしれない。今走っている磐越自動車道だって、普段と比べたら格段に交通量が多いからだ。
「そういや天音さんが、今日は関口さん、家に一人だって言ってました」
「どういう事?」
「何でも、ご両親が何処かへ行っちゃって、今夜は帰って来ないそうなんです。『せっかく息子が帰って来たのに、酷いよね?』って、関口さん、怒ってたそうです」
「ふふっ、つまり、関口さんも明日の午前中は自主休講にしたって訳ね」
「そうなりますね。でも、ゴールデンウィークは今日までなんだから、関口さんのご両親は悪くないのかも」
「そうね。ふふっ、本当に関口さんの家に押し掛けちゃいましょうか?」
「えっ? さっき私が言ったの、冗談だったんですけど……。さすがに、関口さんと同じ屋根の下ってのは、マズくありません?」
「普通はそうだけど、相手が私じゃ何も起きないわよ。私、護身術とかもやってて、それなりに強いし……」
「でも、天音さんが知ったら、怒っちゃいそう」
「それはあるかもね……。まあでも、関口さんは言わないだろうから、凜華ちゃんが黙っててくれれば、大丈夫なんじゃない?」
「それで、良いんですか?」
「だから、絶対に内緒にしてね」
「りょ、了解です」
という事で琴音達は、途中でコンビニに寄ってお茶とお弁当を購入。それを持って夜の海へ行き、波の音を聞きながら夕食を食べた。
そうして、関口達が戻って来る少し前に帰宅したのだが……。
★★★
結論からすると、まあ、何とかなってしまった。
関口仁志が帰宅したのは午後十一時になろうかといった時刻で、そこで少々揉めた物の、夜中に女子を放り出すほど彼は鬼畜ではなかった。
もっとも、凜華が「じゃあ、私は帰りますね」と言った時には、情けない顔で「本当に帰っちゃうの?」と言っていたけど、その後、リビングのソファーに座った途端に彼は寝てしまい、起こそうとしても全く起きない。
それで、仕方なく琴音は、適当に見付けた毛布を彼に掛けてやって、その前に彼が敷いてくれていた客室の布団に身を横たえたのだった。
翌朝、一応、早めに起きた琴音は、在り物で簡単な朝食を用意してから関口を起こした。
寝ぼけた彼は、なかなか状況が掴めなかったようで、ドギマキした様子が可愛かった。琴音は、そんな彼の顔が見られただけで、「岩木に来て良かった!」と思ってしまったぐらいだ。
その後は、二人で同じJR常磐線の特急「ひたち」に乗り、隣合わせの席で彼との会話を楽しみながら東京へと戻った。
琴音としては、じっくりと「ムシ」達について話し合う事が出来て、とても有意義な時間を過ごしたのだった。
END072
当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。
引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。
また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。
★★★
できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。
いずれも完結済です。
銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~
https://ncode.syosetu.com/n9786lf/
※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。
ハッピーアイランドへようこそ
https://ncode.syosetu.com/n0842lg/
※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。
【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~
https://ncode.syosetu.com/n6201ht/
※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。




