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071: 琴音の告白(1)

◇2041年1月迄の回想@福島県郡山市 <早坂琴音>


早坂琴音は、地元の郡山では有名な資産家の元で生まれた長女である。二歳年下に弟がいるので、琴音自身は家を継ぐ事は無いとして、比較的自由に育てられてきた。その為、多少というか、かなり奔放すぎるきらいはあるものの、本人は至って普通の十八歳女子だと思っている。

そんな琴音のせいで翻弄され続ける毎日に辟易している周囲の者達も、彼女の優秀さは充分に認めている。彼女は、地域の一番校である県立朝香(あさか)高校へ難なく合格。そこで生徒会長を務めており、当然、大学は東京にある最高学府を目指すかと思いきや、アッサリと東都大学への推薦入学を決めてしまった。

彼女に言わせれば、東京大学卒業の肩書は却って重荷にもなりかねず、むしろ私立のトップ校である東都大学卒の方が自分には好ましいからだとか……。確かに、財界に多くの卒業生を持つ東都大学のネームバリューは、時に東大を上回ると言われてはいるものの、彼女を慕う多くの同級生や後輩達の思いは複雑らしい。まして彼女に期待していた教師達の失望たるや、「ご愁傷様です」と言うしかなさそうだ。


とはいえ、突然、琴音が昨年の秋口に受験勉強を止めてしまった事の発端が、彼女の弟の柊耶しゅうやが見たという「妖精ちゃん」であるのを知る者は少ない。

その弟は、商店街の福引でだけ温泉の宿泊券を手に入れ、夏休みになるや否や、友人の佐々木(じゅん)を伴って泊まりに行ってしまった。

通常、高校生男子二人がわざわざ温泉なんかに行くとしたら、目的はひとつしかないだろう。


並みの女子高生では、思い付かないかもしれない。だけど、あいにく琴音は、長年の偏執的とも言える弟の観察を通じて、思春期男子の習性には詳しいのだ。

柊耶と淳が温泉へ行った理由、それは、間違いなく「女湯を覗く事」だろう。


ところが、帰宅後に琴音が柊耶を問い詰めた所、「女湯は覗いてない」と言い張る。普通なら、ここで安心して尋問を終えてしまう所だろうけど、琴音は「女湯は」の微妙なニュアンスに秘められた意味を見逃さなかった。


「なるほど。だったら、混浴の露天風呂とかで女の子を見たって事なんじゃないの?」

「あ、あのさ、姉さん。普通、混浴の露天風呂に来るのって、ばあさんかオバサンしかいねえだろ」

「そんなの、分かんないじゃない。てか、たまたま女の子が入ってて、それをあんた達が覗いたんじゃないの?」


彼女には、確信があった。と言うのは、柊耶が温泉から帰って来た時、にやけた顔の彼が「妖精ちゃん」と呟いたのを彼女の耳はしっかりと捉えていたのだ。


「ほらほら、早くゲロっちゃいなさい。私、何年、あんたのお姉ちゃんをやってると思ってんの!」


そうして、追及を始めて三時間後、ようやく琴音は事の真相を暴く事に成功したのだが……。


その時、弟の柊耶から聞き出した「妖精ちゃん」の正体は、俄かには信じ難いものだった。てか、如何いかに琴音が自由な発想力を持ち、人並み外れた頭脳を持っていようとも、相手が良く知る弟でなければ、単なる戯言たわごととして切って捨てた事だろう。

弟の説明によると、それは「光のチョウ」とでも呼ぶべき存在だった。弟の目の前で彼女は、一瞬で全身に銀色の光を纏い、背中に巨大なチョウの翅を出現させたというのだ。その翅は鮮やかなミズイロだったという。

弟の説明だと、そうした「光のチョウ」の事は、いわゆるマニアの間で「ムシ」と呼ばれているらしい。「女の子を『ムシ』と呼ぶだなんて、酷い!」と憤っている琴音に対して、柊耶は、「最初は『ムシ』の正体が女の子だなんて分かんなかったし、チョウ以外の『ムシ』が現れる可能性も考慮して、『ムシ』って名付けたそうだよ」と教えてくれた。

更に、「詳しい事は、このサイトを見れば分かるよ」と言われて紹介されたのが、「未確認飛行少女(UFG)情報サイト」である。


とはいえ、この時点での琴音は、弟が「妖精ちゃん」の正体として語った「ムシ」という存在を、まだ完全に信じた訳ではなかった。


ところが、その柊耶は、その後に岩木市の海水浴場で泊まり込みのバイトを行い、その最中、深夜に大勢の「ムシ」達が海岸を乱舞する様子を見たと言うのだ。そして彼は、その証拠となる動画を保持してもいた。自分のスマホで撮影した物だが、近頃のスマホは高画質なので、証拠としての価値は充分である。

当然、見知らぬ他人であれば、大規模なトリックであるという可能性も捨てきれないだろうが、相手は同じ屋根の下に住む弟。そういった可能性は考え難い。


という訳で、「ムシ」という不可思議な存在を信じざるを得なくなった琴音だが、その直後、生徒会の後輩である大槻乙音おおつきおとねから、「UFO研究会」なる怪しげな部活について知らされる事になる。

そのUFO研は、弱小とはいえ正式な部活動として認められており、少ないながらも生徒会が予算を割り当てているという。そして、彼らは「UFO」を名乗りながらも実体は「UFG」、つまり「Unidentified Flying Girls」(未確認飛行少女)と友達になる事を目的としており、そこには弟の柊耶も所属しているとなれば、もはや呆れるしかない。


更に、琴音の「ムシ」への関与が決定的になったのが、十一月に行われたUFG情報サイトのオフ会に、UFO研メンバーの監視役として送り込んだ腹心の部下、大槻乙音の証言だった。


「琴音先輩。あれは、どうやら本物みたいですよ」

「てことは、『ムシ』は実在するって事?」

「まあ、そうなりますかね。今のアホなUFO研メンバーは全くアテになりませんけど、今年の卒業生の二瓶にへい先輩も絡んでおられるようなんです」

「二瓶さんって、東大へ現役合格された……」

「そうです。その二瓶先輩です。UFO研って、実は二瓶先輩が作られた部活みたいですよ」

「へえ、そうなのね……。でも、その『ムシ』ってのが二瓶さんのジョークだったなんてオチだったら、私、怒るわよ」

「いや、オフ会に来てたのって、うちのUFO研の関係者だけじゃないんです。他に岩木高校からも来てまして……、どうやら、『未確認飛行少女(UFG)情報サイト』を立ち上げたのって、岩木高校の人みたいですよ。その人、関口仁志(ひとし)さんっていう人なんですけど、来年、東大を受験されるみたいです」

「ふーん、乙音ちゃんは、東大ってネームバリューに弱いって訳ね」

「いやいや、そうじゃなくってですね、その関口さん、どうやら『ムシ』の子と知り合いみたいなんです……あ、それと、『ムシ』ってのが人間の女の子が変異した姿ってのも、本当みたいですよ」


ここまで来ると普通なら相手の正気を疑う所だが、実の弟の証言とも一致する。だけど、それだけじゃなかった。


「で、その『ムシ』の子の特徴なんですが、どうやら金髪かそれに近い髪色で、色白、華奢で小柄でお人形さんみたいな子なんだそうです」


これも、弟の柊耶が見たという「妖精ちゃん」の特徴と一致する。だけど、本当にそんな女の子が実在するんだろうか?


「それにです……」

「えっ、まだあるの?」

「はい。ここからは、絶対にオフレコでお願いしたいんですけど、実はですね、その特徴と一致する女の子が、私の従妹いとこにいまして……」


琴音が、本格的に「ムシ」という存在にのめり込んで行ったのは、それからだった。

その後、同様の女の子は、次期生徒会長の宗像千乃むなかたちの従妹いとこにもいる事が判明。しかも、乙音の従妹も姉妹、千乃の千乃も姉妹であり、対象の子は四人に増えてしまった。


冬休みの後半、琴音は乙音に無理を言って、彼女の従妹達に会わせてもらった。上の子は大槻由佳(ゆか)という名前で、小学六年生だという。下の子は、由希ゆきちゃんで、小学二年生だそうだ。


確かに、不思議な印象の少女達だった。それに、魅力的でもある。いや、正直に言うと、一目で琴音は彼女達の魅力のとりこになってしまったのだ。

見事な金髪に薄茶の瞳。そして、驚くほど整った顔と色白の肌。身長は年齢にしては小柄で、華奢な印象を受ける。乙音も小柄で綺麗な子だけど、その二人は別次元の存在に思えた。

もちろん、琴音が心を奪われた理由に性的な要素は全く無い。純粋に琴音は彼女達を綺麗だと思った。まさに「生きているビスクドール」といった印象の少女達だったのだ。


そして、それから二週間ほど過ぎた頃、琴音は遂に変異した「ムシ」の少女と遭遇する事になる。大槻乙音の従妹の由佳が、本当に「ムシ」へ変異できるようになったのだ。

琴音は、その事を祝う身内だけのパーティーに呼ばれ、そこに来ていた何人かの「ムシ」の少女達とも会った。ただし、実際に「ムシ」へ変異した姿を見せてもらったのは、同じ郡山に住む玉根凜華たまねりんかという少女と大槻由佳の二人である。


由佳の翅は、外縁が青で根本が白のグラデーション。その根元の部分から外縁部へ向けて、放射状に翅脈が走る。翅のサイズは、中ぐらいとの事。

一方の凜華の翅は、由佳と比べるとワンサイズ大きい。ベースは琥珀色で、二対あるそれぞれの翅の中央に、巨大な蛇の目の文様がある。それは衝撃的といいうか、非常に目を引くデザインだった。

そんな少女達の異形の姿を目にした琴音は、もはや「ムシ」の存在をうんぬんする段階から抜け出した事を悟った。そして彼女は、今後、どういった形で彼女達に寄り添って行くべきかを、真剣に考え出したのだった。




END071


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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