表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/122

064:真花の苦難(5)

◇2041年5月@東京都江東区 <小川真花>


ゴールデンウィークの最終日、小川真花(まはな)は、朝から最低の気分でいた。


昨日は、妹と共にショッピングモールで変な男達に絡まれて、何処どこかへ連れ去られそうになるといった醜態を晒してしまった。最後は姉の千花ちはなに助けられたものの、家に帰った後で何がどういけなかったかを事細かに説明され、今後の改善を促された……と言えば聞こえは良いが、要は長々とお説教されたって訳だ。

だけど、良く考えてみれば、姉の千花だって悪いのだ。自分から「一緒に買い物に行こう」と誘ったにも関わらず、相変わらず自分の買い物に夢中になった挙句、可愛い妹達を置き去りにしたんじゃないか!

そんな風にベッドの上で憤ってはみたものの、そんな鬱憤を姉にぶつけられる筈もなく、真花はグッと飲み込んで起き上がる。


最低限の身だしなみを整えてリビングへ出て行くと、既に千花はいなくなっていた。

真花は、自分の分の食パンをトースターに入れて、コーヒーメーカーのサーバーにあったコーヒーをマグカップに注ぐ。そして、テーブルにいた妹の唯花ゆいかに何気なく、「お姉ちゃんは?」と尋ねてみた。


「どっか行った」


唯花の返事は、そっけなかった。

その為、真花の対応も少々刺々しいものになる。


「どっかって何処どこよ?」

「彼氏とかはいないみたいだから、どうせ女友達だと思うよ。ほら、大学に入ってから新しい知り合いが増えたじゃない。ここらで、そういう人達との関係を強固にしておく必要があるって訳。真花ちゃんは何も考えてないみたいだけど、有益な人脈を構築して維持するには、それなりの戦略と労力が必要なの」


休日の朝のけだるい時に、何やら難しい事を言われてしまった。しかも相手は、小学三年生の妹だとか、冗談じゃない!


「あ、あの、真花ちゃん、顔が怖いよ」

「お姉ちゃんでしょう!」


真花は、唯花が未だに自分の事を「ちゃん」付けで呼ぶのが、前々から気になっていた。自分は四つも年上の姉なのだ。

だけど、当然、妹にも言い分がある訳で……。


「だって、いちいち『真花お姉ちゃん』とか呼ぶのって面倒じゃん。それに、真花ちゃんって、イマイチ『お姉ちゃん』って感じじゃないんだよね。あたしの方が精神年齢、高いって気がするしー」

「あのさあ、昨日、危ない所、助けてあげたじゃない」

「そっかなあ? 助けてくれたのは、千花お姉ちゃんだったと思うんだけどー。あれ? あたし、夢とか見てた?」

「もう、唯花のバカっ!」


口喧嘩すら面倒になった真花は、投げやりに言って会話を打ち切り、トーストに噛り付く。前はバターを塗っていたけど、太るから最近は塗らない。

そうして、姉の事は頭から無理やり追い出して、別の事を考えた。


そういや、榊原澪さかきばらみおの所は家政婦がいたっけ? それに、確か東山紗理奈(さりな)の所にもいるって聞いた気がする。


「何で、うちには家政婦がいないんだろう?」

「前にママが言ってたよ。『娘が三人もいるのに、家政婦なんて必要ありません!』だってさ」


有明システムズの管理担当役員である母の小川千秋(ちあき)は、とにかくケチだ。前に父の聡介そうすけが、「ITベンチャー企業には似合わない人なんだよなあ」とぼやいているのを聞いた事がある。研究開発費とかも、母の裁量でビシバシ削られてしまうのだとか……。


「それにしても、昨日は酷い目に遭ったよ。あたし、『もう、ぜーったいに千花お姉ちゃんとは、買い物に行かないからねっ!』って宣言しちゃった」


どうやら、さっきまでは姉の千花がここに居て、唯花の文句を聞かされていたようだ。案外、三姉妹の中で一番の強者は、末っ子の唯花なのかもしれない。

ちなみに、その唯花が大人っぽい口調で話すのは、真花と母の千秋の前だけである。姉の千花に対しては少し子供っぽくなるし、まして父の聡介の前だと、未だに幼稚園児のような甘ったるい口調で話すのだ。


「だから真花ちゃんも、そんなに落ち込む事は無いと思うんだけど、千花お姉ちゃんが言ってたのも事実なんだよねえ。まあ、紗理奈さんや澪さんが近くにいれば、だんだんと変わってくるとは思うけど……」


そこで、唯花はサッと立ち上がって、「じゃあ、あたし、そろそろ行くね」と言った。


「あれ、唯花もどっかへ行くの?」

「今日は、夢香ゆめかちゃんと一緒に、銀座のデパートでお買い物。本当は彼女のご両親がやってる画廊にも誘われたんだけど、目が良く見えないからって断っちゃった。デパートだと店員さんが色々とアシストしてくれるでしょう? と言っても、本当は何となく見えてるんだけどね。まあ、お姉ちゃんもそうだと思うけど……」


真花も弱視ではあるけど、普通の障碍者とは違うって気がする。と言うのは、何となく物の形だとか、それが何なのかが分かってしまうのだ。そして、その能力は同じ弱視の唯花にもあるらしい。

たぶん、それも東山紗理奈や榊原澪が言う「ムシ」の能力って奴なんだろう。


「お姉ちゃんもさあ、一度、姫香ひめかさんを誘ってあげたら? あ、でも、彼女って足が不自由みたいだから、紗理奈さんか澪さんもいた方が良いかもだね」

「えっ、足が不自由って?」

「そんなの、見てれば分かるじゃん。やっぱ、お姉ちゃんって、他人に関心が無いんだと思う。コミュ力の基本は、そこからだと思うよ」


そこで真花は、こないだカラオケに行った時、他の子達が立っても姫香だけが座ったままだったのを思い出した。


「まあ、千花お姉ちゃんは真花ちゃんをボロクソに言う事があるけど、真花ちゃんだって、割と自分の意見を言える方だと思うよ。昨日は、確かにちょっと情けなかったかもだけど、あたしだって同罪だったと思うし……、コミュ力以外は、あんまり悲観する事も無いんじゃないかな……あ、そうだ」


そこで唯花は、ふと思い付いたように言った。


「そういや、真花ちゃん。今回の実力テスト、過去最高だったんだって?」

「それって、先月の話だよ。今頃になって気付くなんて、遅くない?」

「いやいや、真花ちゃんが何も言ってくれないからでしょう。言わなきゃ分かんないんだよ」

「まあ、そうかもしんないけど……。で、お姉ちゃんは何て言ってたの?」

「なんか、すっごく褒めてた。千花お姉ちゃん、学年一桁とか取った事が無いって言ってたよ」

「えっ、そうなの? あ、でも、私より紗理奈の方が凄いよ。あの子って学年一番で、しかも全国一桁なんだけど」

「ええーっ! 紗理奈さんって、そんなに凄い人だったのーっ?」

「こ、こら、唯花ったら、驚き過ぎ」

「あ、ごめん……。でも、学年四位でも充分に凄いと思うよ。東大だって、行けちゃうんじゃない?」

「さあ、どうなんだろう? てか、まだ中等部に上がったばっかなんだから、いくらなんでも気が早すぎるよ」

「それもそっか……。じゃあ、あたしは行くね」


そう言い残して、唯花はダイニングから出て行ってしまった。きっと最後の方のは、唯花なりのフォローのつもりだったんだろう。

本当に、実力テストの成績なんて、全然、大した事なんて無いのだ……。あ、そういや、「ムシ」になると今より頭も良くなるんだったっけ?


唯花は、真花の実力テストの結果を褒めていたけど、たぶん、頭が良いのは唯花の方なんじゃないかと真花は睨んでいる。彼女は、相手によって話し方を変えられるのだ。しかも、それに伴って見た目の印象まで変えてしまうのだから、本当に凄い。

昨日の唯花は、まるで幼稚園児みたいだったけど、あれはあれで彼女の処世術だったのだ。真花と同じで実年齢より下に見られがちな彼女は、それを逆手に取って、無垢な幼女のフリをする事が多い。だから昨日の男達も、きっと彼女を幼稚園児だと思っていた事だろう。

つまりは、「人それぞれの戦い方がある」という事なんだと思う。


姉の千花の場合、女としての魅力もそうだし、人当たりの良さっていうかコミュ力だってそうだ。てか、あの人の場合は多才すぎて参考にならないって気がする。


真花は、『私にとっての武器って何だろう?』と改めて考えてみたのだが、少しだけ頭が良い事以外、何も思い付かない。

てか、考えれば考えるほど、三姉妹の中での自分がミソっかすに思えてくる。


ああもう、イライラする!


いつの間にかトーストを食べ終えていた真花は、残りの冷たくなったコーヒーを一気に飲み干して、溜め息交じりに立ち上がった。そして、妹の唯花の分も一緒に素早く洗い物を済ませると、もやもやした気分のまま自室へと戻って行った。




END064


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ