059:ゴールデンウィークの紗理奈(2)
◇2041年5月@東京 <東山紗理奈>
ゴールデンウィーク後半の初日の午後、東山紗理奈は、カラオケ店にいた。
メンバーは紗理奈の外に、小川真花と唯花の姉妹、佐伯姫香と夢香の姉妹、そして榊原澪の六名。この内、紗理奈、真花、澪が中学一年生、姫香が小学六年生、そして唯花と夢香が小学三年生だ。
この六人の特徴は、全員が金髪に近い髪の毛だという事。その為、受付手続きの時、アルバイトの店員にギョッとされてしまった。いきなり、「は、はろー、うえるかむ、えーと……」とか言い出した所からすると、ガイジンだと思われたみたいだ。
だけど、そういう事に真花は慣れているのか、ピシャリと「あの、ふざけないで下さい。私建、日本人です」と一喝した上で、淡々と手続きを進めてしまう。
そうして鍵を受け取ってエレベータで三階へ上がり、やって来たのは手頃な広さの窓が無い小部屋。そして、全員がドリンクバーから好きな物を持って来て、今はストローでちびちびと飲んでいる所だ。
全員を知っているのは紗理奈だけなので、最初にざっと全員を紹介。それから、それぞれに初めての人との挨拶を終えて、「さあ、誰が最初に歌うの?」となった時、手を上げたのは唯花と夢香の二人だった。
同じ小学三年生の二人は、出会って直ぐに意気投合したようで、好きなアニソンを入れて二人で仲良く歌っていた。
弱視の夢香は歌詞が見えない筈だけど、それを完全に覚えているのか、何らかの代替手段で見えているのかは分からない。でも、最高に楽しんでいるのは確かだった。
この二人は、そもそも同じ東京精霊女学園初等部に通っていて、一緒のクラスになった事は無いものの顔見知りではあったらしい。だけど、去年までは夢香が髪の毛を黒く染めていたから、今年になるまで唯花は、夢香が自分と同じ金髪だとは気付かなかったそうだ。
「ごめんね、唯花ちゃん。あたしが最初から髪の毛なんて染めてなかったら、あたし達、もっと早くお友達になれたんだよね」
「ううん。あたしも夢香ちゃん達が髪の毛を染めてた理由は良く分かるから、仕方がないと思うよ」
「そんでも、あたしの方は唯花ちゃんが同じ髪色だって、一年の時から分かってたんだもん。それなのに、全然、話し掛ける勇気が出なくて……。ごめんなさい」
「夢香ちゃんは、髪の毛の事、隠してたんだから仕方ないよ。それより、夢香ちゃんが今年の一月に金髪で学校に来たの、あたしも気付いてたのに、なかなか声を掛けられなくて……。だから、あたしも同罪だよ」
「ふふっ、あん時は、割と騒動になっちゃったもんね」
「本当はさ、先生が一年の時、あたし達を一緒のクラスにしてくれたら良かったんだよね」
「だよねー」
「あ、それより、夢香ちゃん達って、一月から何で髪の毛を黒く染めるの止めちゃったの?」
その理由を説明したのは、紗理奈だった。
「ふーん。要するに、その頑固なお祖父様の為といいう訳ね?」
「そうなんです、澪さん。それで私達、紗理奈のお姉様ともなかなか会えなくて……」
澪の発言に答えたのは、それまで黙っていた姫香だった。
「なるほど。だいたい分かったわ」
「私も、紗理奈の事情が前より良く分かったかも」
「そうだね、お姉ちゃん。残念だけど、仕方が無いのかも」
澪が何を分かったのか紗理奈には分からなかったけど、母の若菜の実家である進藤家の事情について、真花と唯花の二人は理解してくれたようだ。
それから六人は、誰もが知っているアニメソングや流行りの曲とかを、次々と歌って行った。最初は全員が座っていたけど、足に障害を持つ姫香以外は、そのうち席を立って振付けを加えてみたり軽く踊ってみたり……。
いつもは無口な真花でさえ、長いポニテをぴょこぴょこと揺らしていて、思わず紗理奈は『可愛い!』って叫びそうになってしまった。一方、この中で一番のお嬢様な澪の場合、そんな事はしないけど表情は緩んでる。座っている姫香はと言うと、いつの間にか部屋の隅にあったマラカスを両手に持っていて、それらを嬉しそうに揺らしていた。
歌い易い曲を選んだからか、紗理奈も思った以上に声が出せたし、自己評価だけど、特に音程を外したりせずに済んだのでホッとした。それに、他のメンバーも特にオンチな子はいなさそうだ。
小学三年生の元気な二人は別として、他の三人は元々陰キャだし、カラオケは初心者。それでも、練習を続けて行けば、吉岡苺とも一緒にカラオケに行けそうだ。
そんな自信を持てたのが、この日の紗理奈の最大の成果だった。
★★★
翌日のみどりの日、紗理奈は、小川真花を伴って榊原澪の部屋にいた。そして、ここにはもう一人、坂下美倖も同席している。彼女は、四月から城北大学に入学したばかりの澪の家庭教師だ。
「あ、あの、昨日は、澪さんがサカキバラ商事の社長令嬢だなんて知らなくて、ごめんなさい」
「別に良いよ。それに、『澪』って呼んでよ。同じ学年なんだからさ」
「わ、分かった」
「ふふっ、真花ちゃん、そんなに畏まらなくても良いのよ。私、サカキバラのパーティーで千花さんとは何度かお会いしたんだけど、妹さんがこんなに綺麗で可愛い子だなんて知らなかったわ」
「そうね。次回は、絶対に真花や唯花ちゃんも連れて来るようにって、ママに行っておくわね」
「澪ちゃん、それを言うなら、紗理奈ちゃんの事も何とかしてあげないと駄目なんじゃない?」
そこで、紗理奈が口を挟む事にした。
「あの、それはまだ難しいかと……。母が激怒するかと思いますので。私が澪と親しい事は、まだ母には内緒なんです。父は知ってますけど」
「なるほど、そこは難しそうね」
「それって、昨日、話してくれた進藤家のイザコザの……あ、ごめんなさい」
「イザコザで良いよ、真花。私のお祖父様、私の事が大っ嫌いみたいだから」
「それは、金髪のガイジンさんを嫌悪してるんじゃなくて? 前の戦争の影響で昔は、そういう人が多かったみたいよ」
「いや、お祖父様の場合は、戦争とは違うと思います。詳しい事は知りませんけど」
「ふふっ、美倖さん、直接に戦争の影響を受けた人なんて、もうほとんど残ってませんよ」
美倖は「それもそうね」と呟いてから、紗理奈に向かって、「それじゃ、そろそろ本題に入りましょうか?」と言った。
★★★
美倖が言う本題とは、当然、「ムシ」の事だ。例に依って紗理奈と澪は、壁の巨大3Dディスプレイに「未確認飛行少女情報サイト」の画像を映して、「ムシ」についての諸々の事を真花に説明した。
だけど真花は、『何で、私、こんな与太話を聞かされてるの?』とでも言いたげな様子。当然、「ムシ」の事なんて、まるっ切信じちゃいないのは明らかだ。
どうやら彼女は、思った以上に現実主義者だったようだ。
「私、お化けはもちろん、ラノベとかに良くある異世界だとか魔法だとか超能力だとか、全く信じてないの。まあ、お話としては面白いと思うんだけどね」
「てことは、生まれ変わりも信じないとか?」
「ううん、それは別よ。私は、科学が万能だなんて思ってないから。生命とか心とかが何かってのは、科学じゃ説明できてないもの。むしろ、直感的には、生まれ変わりは『アリ』だと思ってる」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、分からない事は分からないままに受け入れるってタイプなのかな?」
「まあ、そうね」
「それじゃ、私と澪が『ムシ』になれば信じてくれるって事だよね?」
内心で『しめた』と思いながら、紗理奈はサッと「ムシ」に変異して見せる。だけど室内なので、真花が見たのは翅の一部のみの筈。それでも彼女は目の前の存在が、さっきディスプレイ上で見せられた「アオスジ」であるのが分かったようだ。
それが証拠に、その真花は、口をポカンと開けて固まっている。さっきまでのクールな印象は完全に影を潜め、逆に残念な部分が前面に出たって感じだ。
なのに空気を読まない澪は、紗理奈の後に「カラクサ」の翅を披露。それが真花のフリーズを、更に長引かせる結果となった。
「さてと、真花ちゃん、紗理奈ちゃんと澪ちゃんが、あなたに何で「ムシ」になった姿を見せたのか分かるかしら?」
美倖の質問に、真花は首を横に振って答えた。
次に口を開いたのは、紗理奈だった。
「それはね、もうすぐ真花も『ムシ』になるからだよ」
紗理奈に真花が、今までで一番の驚愕の表情を見せてくる。だけど、紗理奈は、全く容赦しない。彼女の為にならないからだ。
「私の見立てだと、三日以内って感じかな。澪は、どう思う?」
「私も、同じ意見。明日でも有り得るって感じ」
「だよね」
「あ、あの……、まさか……」
ようやく真花が口を開いた……と思ったら、まだまだ混乱した様子だ。
紗理奈は、次に「ムシ」になった場合のメリットについて説明した。
まずは、真花の弱視が治る事。これは紗理奈もそうだったのだから、間違いない。それだけじゃなくて、普通の人以上にクッキリ見えるようになるし、願えば壁の向こうまで見えるかもしれない。更に耳だって良く聞こえるようになる筈。
「ムシ」の能力としては、大きな翅を使って空が飛べる事。「ムシ」になると実体が無くなる為に、壁とかをすり抜けられるようになる事。暑さ寒さを感じなくなる事、そして「ムシ」同士であれば、声を出さなくても会話が出来る事……。
「当然、何でも出来るって訳じゃないよ。特に、相手を攻撃するような力は、ほとんど無いかも。私の場合、髪の毛を伸ばしたり動かしたり出来るんだけど、澪は出来ないし……。でもね、逃げるのには便利だよ。目眩しに少し強く光を放出して、サッと変異して空へ舞い上がるの。そうすれば、誰も追って来れないでしょう? それに、壁の向こうに逃げるって手もあるし、地下や水の中にだって潜る事が出来る。私の場合、『ムシ』になってからは、ほとんどの人が怖くなくなったんだ」
「……」
「まあでも、デメリットもあるんだよね。一番デカいのは、他の人達に『化け物』だって思われちゃうって事。だから、むやみやたらに人前で変異しちゃダメ。今の所は大丈夫だけど、研究者とかに見付かったら人体実験とかされそうだし、軍事目的で働かされたりとかする可能性だってある。将来の事を考えると、凄く不安なんだよね。だから、マスコミとかに知られるのを、出来るだけ引き伸ばしたいとも思ってる」
「……」
「だからさ。『ムシ』の子は結束を強める必要があるんだ。それと、私達の仲間の人達が、私達を守る為の組織を立ち上げようとしてくれてる。まあ、まだこれからではあるんだけど……」
その後も紗理奈は真花に色々と話して、彼女を自宅のあるタワマンまで送って行った。
その間、ずっと真花は、何かを考え込んでる様子だった。
紗理奈は、淡々と情報を彼女に与える事に専念した。真花が「ムシ」になるのは、ほぼ確定なのだ。それに抵抗しようったって、意味が無い。そして、その事は真花も分かっている筈。
紗理奈は、「真花が『ムシ』になる時は、私が必ず駆け付けるからね」と言い残して、タワマンのエントランスホールへ入って行く真花の小さな背中を見送ったのだった。
END059
当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。
次話からは、真花の話になります。
引き続き次話も読んで頂けましたら幸いです。
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★★★
できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。
いずれも完結済です。
銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~
https://ncode.syosetu.com/n9786lf/
※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。
ハッピーアイランドへようこそ
https://ncode.syosetu.com/n0842lg/
※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。
【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~
https://ncode.syosetu.com/n6201ht/
※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。




