058:ゴールデンウィークの紗理奈(1)
◇2041年4月@千葉県浦安市 <東山紗理奈>
「お嬢様、ゴールデンウィークは、どのようにお過ごしになりますか?」
「ああ、そういや、もうすぐね」
東山紗理奈は、家政婦の松川愛子に言われて、初めてゴールデンウィークという存在を意識した。今までの紗理奈にとって、それは無縁のものだったからだ。
そもそも、そんな質問を紗理奈にした家政婦は、松川が初めてだ。今までの紗理奈は、雇い主の娘どころか、人間とさえ認識されていたかどうか疑わしい。法整備がされているとはいえ、一般の人の障碍者に対する認識なんて、所詮そんなものだ。
てことは、私の場合、障碍者じゃなくなったから、普通に人間扱いされるようになったって事?
いやいや、そこは松川愛子の優しさだと信じたい。彼女は、紗理奈が障害を持っていた時から、うちで働いていたのだから
「今の所、うちに来たいって言ってくれてるのは真琴だけだけど、そうなると、めぐみも確実に来そうね。それに澪も泊まりに来るって言いそうだし、うーん、苺はどうかな?」
宇都宮の手塚真琴と水戸の石井めぐみは、両親に「ムシ」であるのをカミングアウトしている。澪と苺の場合、そんなに遠くじゃないから、「友達の家に泊まる」って言えば、母親が許してくれそうではある。
「後は、お母様には内緒だけど、佐伯姫香と夢香とも遊びたいかな……。あ、小川真花も呼ばないと。一度、真花を澪と苺に会わせたいと思ってたんだった」
「その真花様っていうのは、お嬢様の唯一のご学友でございますね?」
「もう、『無二』の学友ではあっても、『唯一』では無いわ。ちゃんと、他にも話す子はいるんだからね」
「はいはい。今のお嬢様は、そこまでボッチじゃないってのは、重々承知しておりますとも……。ですが、お嬢様が心を許しておられるのは、やはり、お嬢様と似たような髪色の子ばかりでございましょう?」
その通りだ。全員が「ムシ」か「ムシ」予備軍の子ばかり。例外は、こないだ「ムシ」であるのをカミングアウトした澪の家庭教師、坂下美倖と、ここにいる松川愛子だろうか……。
「まあ、お嬢様が人間不信気味なのは、私も理解しております。ですので、お嬢様の同じ髪色の子だけでも積極的に交流して行く所を、私は応援したいと思っております。ゴールデンウィークの間は私も家におりますので、お嬢様のお友達を精一杯、おもてなしさせて頂きますね」
そう言って笑顔を向けてくる松川を見た紗理奈は、『彼女がいてくれて本当に良かった』と、改めて思ったのだった。
★★★
今年のゴールデンウィークは、前半が三連休、後半が四連休という構成だった。大企業は、間の三日も休みにして十連休となる訳で、父の孝太郎なんかは例によって海外出張に行ってしまった。
どうやら孝太郎は、欧米でのノーハウ取得も含めて、海外事業を立ち上げたようだ。特に激戦区とされているニューヨーク近郊で事業を始めた辺り、彼の性格が表れている気がする。もっとも、ノーハウ取得を目的とするなら、東京エリアと似た環境の所が良いのは分かるんだけど……。
一方、母の若菜と弟の倫太郎はと言うと、相変わらず実家の進藤家に入り浸る予定のようだ。しかも、普通に学校がある間の三日間、倫太郎は進藤家から通学するらしい。
お陰で、ゴールデンウィークの間、紗理奈は快適な生活が送れそうである。
そうして迎えた前半の三日間、紗理奈は、自分を含めた「ムシ」達五人で、東京ネズミーランドに通い続け、様々なアトラクションを待ち時間ゼロで満喫する事となった。もはや、「できるだけ昼間は『ムシ』に変異しない」といった天音の忠告なんて、完全に忘却の彼方へ消え去ってしまっている。
まあ、天音とて、去年の年末には一緒になって騒いでいたのだから、文句は言えないだろうけど、関口仁志辺りは嫌味を言いそうだ。
「でも、苺ちゃんって、本当に可愛いわねえ」
松川愛子ですら吉岡苺の前では、敬語を忘れてメロメロのようだ。
でも、その「可愛い」には、「ちっちゃくて」という意味が込められている事に、本人だけが気付かない。
「ふふっ、そうですかー? アタシ、実はアイドル志望なんですー」
「まあ、苺ちゃんだったら、絶対になれるわよ」
それにも「子役ならね」という条件付きなのだが、苺は無邪気に喜んでいた。
ただし、石井めぐみだけは、そんな苺にも全く容赦が無い。
〈まあ、そのちっちゃい翅だって、飾りとしては良いかもね〉
〈えっ、飾り?〉
〈だって、あんまり役に立ちそうにないじゃん〉
どうやら、めぐみにとっては、「速さこそ全て」であるようなのだ。
〈ふーんだ。めぐみだって、紗理奈に勝てないくせにー〉
〈しょうがないじゃん。紗理奈は「アゲハ」なんだから、特別なんだよ〉
〈アタシの「シジミ」だって、特別じゃん〉
とはいえ、苺は三人目の「シジミ」。一方の「アゲハ」は今の所、紗理奈しかいない。
〈まあでも、苺ちゃんは凄いよね。なんたって、私達の中では圧倒的に小回りが利くんだから〉
〈真琴の言う通りだよ。めぐみも、もっと苺の良い所を認めてあげたら?〉
〈だよね。ネズミーランドのパレードで踊ってるとことか、プロ顔負けだし……〉
〈ふふっ。実はアタシ、歌も自信あるんだ。今度、カラオケ行こうよ〉
〈カラオケかあ、私、行ったこと無いかも〉
〈私もだよ。澪は?〉
〈私も無い。今度、立花のお兄ちゃんに連れてってもらおっかな?〉
〈な、何でアタシと行きたいって言わないのよ?〉
〈だって、苺と一緒だと、色々と大変そうだし〉
〈むぅ〉
〈それより、カラオケの話になった途端、めぐみが黙り込んでるのが気になるんだけど……〉
〈ひょっとして……〉
〈その先、言わないでよーっ!〉
どうやら、石井めぐみはオンチのようである。
★★★
三連休明けの火曜日、学校で紗理奈が小川真花に、「私、カラオケに行ったこと無いんだ」と打ち明けると、「だったら、一緒に行こうよ」と誘ってくれた。真花も陰キャな女子だが、姉の千花に連れて行ってもらった事があるらしい。
紗理奈は、考えた。二人よりは三人以上いた方が楽しそう。となると、まず思い付くのは苺だが、本人が「歌が上手い」と自称している事からして、初心者の相手をさせるには相応しくない。
それで思い付いたのは、榊原澪と佐伯姫香の二人。でも、姫香だけに声を掛けると、夢香が拗ねちゃいそう。
「そう言えば、真花の妹の唯花ちゃんって、小学三年生なんだよね?」
「そうだけど」
「あのね、私の従妹に金髪の姉妹がいるって話、前にしたと思うんだけど、その子達も呼んで良いかな? 上の子は小学六年生なんだけど、下の子が小学三年生なんだ……。あ、それと、二人とも精霊女学園の初等部だよ」
「ふーん、下の子、うちの唯花の事は知ってるの?」
「話したこと無いけど、たぶん、知らないんじゃないかな。知ってたら、話に出てると思うし……。ごめん、正直、私も同じ学校だって、今になって気付いたとこなんだ……。あ、それと、その子達、つい最近まで髪の毛を黒く染めてたんだよね」
「なるほど。一度、私達に会わせたいって事だね?」
「まあ、そうなんだけど、下の子は割と明るい子っていうか……、上の子は大人しいんだけどね」
「だったら、その下の子、却って唯花とはピッタリだと思う。うちの唯花も、そんな感じだからさ」
その後、更に榊原澪が加わる事になり、メンバーは六人になった。このメンバーは、全員が淡い茶髪というよりは、ほぼ金髪である。
集まったのは、金曜の憲法記念日の午後。場所は、真花が知っている所という事で、必然的に彼女の自宅があるタワマンの近くだ。
紗理奈は「ムシ」になって佐伯家の自宅マンションへ飛んで行き、佐伯姉妹と一緒に自動運転のシェアカーで目的のカラオケ店へ移動。澪は、新宿から「ムシ」になってやって来たみたい。
そうして、小学生と中学生の金髪少女六人が、カラオケ店の小部屋に勢揃いする事になったのだった。
END58
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★★★
できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。
いずれも完結済です。
銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~
https://ncode.syosetu.com/n9786lf/
※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。
ハッピーアイランドへようこそ
https://ncode.syosetu.com/n0842lg/
※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。
【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~
https://ncode.syosetu.com/n6201ht/
※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。




