056:会津地方の「ムシ」
◇2041年4月@福島県猪苗代町~会津若松市 <安斎真凛>
安斎真凛の両親、芳賀力哉と安斎希美の二人は、それぞれが高校生と中学生の時から付き合い出して、割と直ぐに希美が真凛を身籠った。その為に彼女は、ほとんど高校に通わないまま中退して出産。その後も二人は延々と同棲を続けていたにも関わらず、正式に籍を入れる事が無かった。
それが、希美の妊娠発覚後十五年もの時間を経て、ようやく結婚式を挙げたのである。
その日、福島県の猪苗代湖畔にあらう教会で結婚式を挙げた二人は、そのまま参列者を伴って同じ猪苗代湖畔の紺野家の別荘へ移動。別荘とは言っても、そこは地元で有力な紺野家の来客用施設であり、大きなホールがある。そこで、盛大な披露宴を行った。
その披露宴は、午後一時から延々と続き、ようやく夕方になってお開きとなった。
そこで一般のメンバーは家路に着いたのだが、そうではない女子が十名。彼女達は、全員が言わずと知れた「ムシ」である。
〈ねえ、珠姫。本当に、あんたまで付いて来るの?〉
〈当然じゃん。あたしの勘だと、そう遠くないと思う。たぶん、会津若松だよ。だったら、二十キロも無いじゃん。トラックの荷台に乗ってけば、直ぐだよ〉
〈そこは普通、「自分の翅で飛んでく」って言う所でしょうが〉
〈しょうがないじゃん。あたしの翅、速くは飛べないんだからさ。じゃあ、あたしは先に行くね〉
〈あ、珠姫ちゃん、私も一緒に行くよ〉
珠姫を追って行ったのは、穂積郁代。たぶん、「シジミ」の国分珠姫が心配だったんだろう。
〈あれ、天音さんも行くんですか?〉
〈当然よ。新しい「ムシ」の子の顔だけでも見てから、帰ることにするわ〉
明日は月曜日。全員、学校がある。会津若松から岩木市までは、直線距離でも百キロはあるので、本来は早く帰った方が良いんだろうけど……。
〈杏樹は、先に帰っても良いわよ〉
〈いや、私もお付き合いします〉
そんな訳で、「ムシ」達全員で会津若松に向かう事になったのだが、そもそも、何でこんな事になっているかと言うと、西の方で新しい「ムシ」が生まれる予兆があったからだ。
真凛の場合、今朝から胸がざわつく感じはあった。それで「ひょっとすると」とは思っていたのだが、両親の結婚式というビックイベントのせいとも考えられるので、取り敢えず心の奥で保留扱いにしていた。
それが、式が終わった途端、「ムシ」が生まれる予感が鮮明になってきて、更に、他の「ムシ」達も同じ感覚を持っていた事で確信になるに至ったって訳である。
★★★
福島県は、大まかに三つの地方に分けられる。太平洋沿いの「浜通り」、中央の東北新幹線とかが走る「中通り」、そして西部山間部の「会津地方」である。人口的には中通りが一番多く、次が浜通りで、会津地方は人が少ない。
その会津地方の中心都市と言えば、江戸時代に会津藩の城下町として栄え、白虎隊や鶴ヶ城などの歴史的な観光スポットで知られる会津若松市である。
さて、四月ともなれば、それなりに日が長くなってはいる。だけど、ここは山間部。平地よりも夕暮れが早い。
猪苗代湖畔から飛び立った時は夕暮れだったのに、既に辺りは薄暗い。
その子の家は、町外れの古い一軒家だった。
真凛が調べた所、家の中に人の気配は二つある。それで、凜華に尋ねてみた。
〈女の子が二人いるよ。一緒の部屋みたいだけど、どうするー、凜華?〉
〈うーん、入って行くしかないと思うけど、全員だと怖がられちゃうし……〉
〈てことは、アタシと凜華かなあ?〉
そこで声を上げたのは、天音だった。
〈郁代と杏樹ちゃんが良いんじゃないかしら?〉
〈だったら、あたしも行きたいです〉
〈あの、天音さん。珠姫が行くなら、私も行く事になりますけど……〉
つまり、紺野鈴音は、「同期だから」と言いたいらしい。
結局、面倒になったのか、天音は中学二年の四人に任せる事になった。
仕方がないので真凛は、近くのスーパーの看板の上で待機。良くあるタイプの巨大な看板は、横に六人が余裕で座れる幅があったのだ。
それでも退屈になった真凛は、朔美を連れて鶴ケ城までひとっ飛び。そのまま城の周りをグルグルと回った後、閉館間近の天守閣内へ飛び込んで勝手に見て回っていたら、凜華から〈真凛、戻って来な!〉との心話が届いた。
慌てて外に出てみると、こっちに向かって飛んで来る「ムシ」が二人。ちっちゃいのは「シジミ」の珠姫だから、ピンクの翅の子が、新しい「ムシ」の子なんだろう。
天守閣の天井に降り立った真凛は、水色の翅をゆっくりと羽ばたかせて新しい子を出迎えた。こうしても、心で『飛ぶんだ』と念じない限り、身体が浮き上がる事はない。例外は、「ムシ」になって最初の時だけだ。
真凛の隣では八巻朔美が、ワインレッドの翅を同じように羽ばたかせている。
その新しい子の名前は、吾妻美和。今月、中学一年生になったばかりだという。
彼女の父親は会津大学の准教授、母親は職員との事。小学四年生の妹がおり、さっきまで一緒の部屋にいたそうだ。当然、その子のケアも必要になる為、そういう事に機転か利く鈴音と、小さい子の扱いに慣れている郁代と杏樹の三人が残る事にしたらしい。
美和の翅は、標準的な「ミッド」サイズ。形状も一般的なモンシロチョウと同じで、色は薄いピンク。そこに赤い翅脈が走っている。
〈何となくだけどー、山間に咲く八重桜って感じなんだよねー〉
真凛がそう言うと、凜華が〈それで良いんじゃない? 匂いもフローラルな感じだし〉と同意してくれる。
それで真凛が、〈じゃあ、美和は「八重桜」で決まりだねー〉と返すと、珠姫が、〈でも、そういうのって、関口さんのサイトの閲覧者さんが決めるんじゃないですかあ?〉と言い出した。
〈別に、うちらが決めたって良いじゃん。天音さんを通して、関口さんに伝えれば良いんでしょう?〉
〈ふーん。その天音さんを通してってのが、ポイントなのね〉
〈まあ、関口さん、東京に行っちゃったもんえー〉
真凛と凜華のやり取りに口を挟んだのは、天音だった。
〈もう、真凛ちゃんったら、いったい何が言いたいのかしら?〉
〈あ、天音さん、赤くなってるー〉
そんな風に揶揄ったからか、天音は杏樹が戻って来ると直ぐに帰って行ってしまった。
杏樹と同時に戻って来た郁代が言うには、美和の妹の愛佳と話している間に、母親が帰って来たそうだ。それで鈴音が、「自分達と同じ淡い茶髪の子を見付けたので、声を掛けて話をしていたら仲良くなった」というストーリーで説明し、納得してくれたらしい。当然、事前に愛佳とは話を合わせてあったという。
やはり、その彩佳も淡い茶髪で、将来は「ムシ」になりそうだとか。鈴音、郁代、杏樹の見立てなので、ほぼ確実と言って良いだろう。
〈しっかし、先週、千葉と宮城で「ムシ」が誕生したばっかだよねー。美和で三人目だよー。同じ月に三人ってのは、初めてなんじゃないかなー〉
〈春って、「ムシ」になる子が多いんだと思います〉
〈あ、それって言えてるかもー〉
そんな話を真凛がした所で、鈴音が真面目な調子で話を切り出した。
〈あの、凜華さん。美和ちゃんと愛佳ちゃんのお母さん、大学で働いているだけに割と話の分かる人なんです。だから、いっその事、カミングアウトしちゃいますか?〉
〈まあ、こんだけ「ムシ」の子が揃ってれば、説得力はあるかもね〉
という訳で、その後、残っている全員で吾妻家にお邪魔して、直ぐにカミングアウトを始めてしまったのだが、そこに美和のお父さんが加わった辺りから事態が混沌となって行った。彼はコンピュータが専門とはいえ理系の准教授なので、理詰めで色々と知りたがる。それで、質問攻めにされてしまったのだ。
途中で美和のお母さんが気を使ってくれて、デリバリーピザを御馳走してくれたりもしたのだが、ようやく解放された時には全員が疲れ果てていた。
その時点で、時刻は夜の九時半。
「泊って行ったら」と言ってくれたものの、全員、「明日は学校があるから」と断って、夜空へと飛び立った。
それでも真凛だけは比較的元気で、〈せっかくだから、温泉に入って行こうよ〉と誘ったのに、誰も乗って来ない。それどころか、福島に帰るんだったら山越えの方が近いっていうのに、それも鈴音に却下されてしまった。
それで仕方なく真凛は、高速道路を走るトラックの荷台に乗ってチンタラと帰って行ったのだった。
END056
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★★★
できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。
いずれも完結済です。
銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~
https://ncode.syosetu.com/n9786lf/
※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。
ハッピーアイランドへようこそ
https://ncode.syosetu.com/n0842lg/
※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。
【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~
https://ncode.syosetu.com/n6201ht/
※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。




