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055:真凛の両親の結婚(2)

◇2041年4月@福島県二本松市~猪苗代町 <安斎真凛>


「そうなんですよ。今まで全然、そんな感じなんて全く無かったのに、いきなりですよ。もう、信じらんない」

「でも、真凛まりんちゃんは福島市にいるから、分からなくたって仕方がないんじゃないの?」

「そんでも、週に一回くらいは、こっちに帰って来てるんですよ。やっぱり、希美のぞみの事は心配だし……。あ、希美っていうのは、お母さんです」

「それは知ってるんだけど……、そんなに真凛ちゃんが帰って来てたなんて、全然、知らなかったわ」


今、安斎真凛が居るのは、だけ温泉にある小さな図書館。そこの奥にある資料室の隅のテーブルで、真凛は最大の恩師と言って良い相手、司書の笠間詠美かさまえいみと話していた。

恩人とはいえ、真凛も「ムシ」の事までは話していない。だから、毎週、岳温泉に戻っているというのは、少し不思議に思えるのだろう。

直線距離では二十キロ少々しか離れていないとはいえ、地面を移動すれば、それなりの金と時間が掛かってしまう。大人ならまだしも、中学生の身分では驚くのが当たり前なのかもしれない。


「しっかし、大人って不思議ですよねー」

「そうかしら。私には、真凛ちゃんみたいな女子中学生の方が不思議な生き物に思えるんだけど」

「だって、うちの両親、顔を合わせる度に喧嘩してばっかりなんですよ。それなのに親父ったら、『ちゃんと喧嘩できるのは希美だけだ』みたいなこと言うんです。他の女の人とは、喧嘩にならないんですって」

「なるほど。きっと、喧嘩する前に別れてしまうって事なんでしょうね」

「えっ?」

「分からない? 喧嘩するって、それなりに疲れる行為なのよ。それなのに喧嘩するって事は、そうするだけの価値が相手にあるってわけ。それを昔の人は、『喧嘩するほど仲が良い』って言ったのかもね」

「うーん。なんか、分かったような分からないような感じかも」



★★★



最初、芳賀力哉はがりきや安斎希美あんざいのぞみの二人は、結婚式すら「やるつもりはない」と言った。力哉に言わせると、「今更、結婚式でもないだろ」という事らしい。


「俺が高校の時から付き合ってて、娘までいるんだぞ。籍を入れるだけで充分だろ」

「お母さんの方も、それで良いの?」

「あたし? あたし、もう三十だよ。ウェディングドレスって歳でもないんじゃない?」

「そんなこと無いと思う。今どき、三十過ぎて結婚する女の人なんて、普通じゃん。それに、お母さんの場合は普通より若く見えるんだから、全然、大丈夫だって」

「いやいや、中学三年生の娘がいるんだよ。有り得ないでしょう?」


とまあ、こんな風に言っていた両親だったけど、この話を持ち帰って菅野彩佳(あやか)に話した所、「別に、二人だけでの結婚式でも良いのよ。人生の区切りなんだし、式だけでも挙げるべきよ」と言われてしまった。

その後、彩佳は、自ら二人の下を訪れて交渉。紺野グループが契約している教会が猪苗代いなわしろ湖畔にあるとかで、その教会を日曜の大安の日で押さえてしまった。


実は、紺野グループは結婚式場を所有しており、ネットを使っての男女のカップリングとかの事業も手掛けているらしい。

だけど、さすがに派手な披露宴は力哉と希美の二人が全力で阻止。それなのに、そこはコミュ力お化けの彩佳のこと、あの手この手で話をこねくり回し、披露宴開催へと持って行ってしまう。


「ねえ、いくら二人だけって言っても、日帰りじゃ味気ないじゃない。それに、真凛まりんちゃんは呼ぶんでしょう? まあ、真凛ちゃんだったら、お空をひとっ飛びなんでしょうけど、お食事くらいは一緒にしてあげたら?」


菅野彩佳は、力哉と希美よりも年上である。それに社会的地位だとかの諸々の点で、二人が敵う相手ではないようだ。


「でも、真凛ちゃんが参加するとなると、凜華りんかちゃんやら鈴音すずねちゃんやらが付いて来ちゃうと思わない? そうなると、私や紗彩さあやも参加したくなっちゃう訳で……、それに、あなた達の両親は招待して差し上げないの? 真凛ちゃんから、色々とあったのは聞いてはいるんだけど、一応、育ててくれた訳じゃない……」


こうなってくると、もはや普通の披露宴と変わらなくなってしまう訳で、岳温泉でお世話になっているホテルのオーナーだとか同僚だとか、はたまた希美が長く務めたキャバクラのマスターだとか、参加者は際限なく増えて行ってしまう。


「まあ、仕方が無いんじゃないの? お二人が、それだけ多くの人達に慕われているって事だもの、誇って良い事だと思うわ。人生で一度だけの結婚式な訳じゃない? だったら、皆さんへの感謝も込めて、多少の恥ずかしさとかは我慢しても良いと思うわよ」


結局、彩佳に話を持って行ったのが間違いだったんだろうけど、ある意味、それも運命だったと言えなくもない。

という訳で、力哉と希美の結婚式の参列者は、相当な大人数になってしまったのだが、やはり、その中でも目立つのは、「ムシ」の仲間達と「茶髪の子の保護者会」の面々である。場所が猪苗代湖畔という事もあって、実に多くの人達が週末の小旅行気分で押し掛けてしまったのだ。

そして、披露宴会場は紺野家の湖畔の別荘。「茶髪の子の保護者会」主宰によるクリスマスパーティーを行った所である。

そうなると心配になるのは開催費用だけど、そこは彩佳が仕切っているのだから、そんなに大きな負担が真凛の両親へ行く筈がない。それでも、おんぶにだっこでは申し訳ないとばかりに、食費ぐらいは力哉と希美が支払う事になったのだが、それとて大幅な持ち出しなのは間違いなさそうだった。


「あのー、でも、私の両親なんかに、そんなに良くしてもらっては申し訳ないと言いますか……」

「何を言ってんの? 真凛ちゃんは、もはや私の娘みたいなもんなんだから、精一杯、協力するに決まってるじゃない」


そんな風に言われてしまえば、それ以上、真凛には何も返せなくなってしまう。


「まあ、これも『茶髪の子の保護者会』のイベントみたいなものよ」


そんな訳で、四月の第三日曜日、真凛の両親の結婚式が盛大に行われる運びとなったのだった。



★★★



この日、結婚式場となった猪苗代湖畔の教会に集まった「ムシ」の数は、十人。大半は、福島県中通りの面々だが、岩木市からも矢吹天音やぶきあまね菅波杏樹すがなみあんじゅが参加。中通りからは真凛まりんの外に、玉根凜華たまねりんか紺野鈴音こんのすずね穂積郁代ほづみいくよ国分珠姫こくぶたまき八巻朔美やまきさくみ有我日和ありがひより大槻由佳おおつきゆかの八人だ。


結婚式は、ドラマや映画の一ワンシーンのようにロマンチックだった。途中、「ムシ」達が思い付く限りの演出を加えるものだから、神秘的な雰囲気がMAX(マックス)になった上に、ちょっと違う所に行ってしまったようにも見える。

新郎と新婦が指輪を交換した所で、郁代が持ち前の認識遮断を駆使して舞い上がり、派手な祝福の光の粒をバラ撒いた所までは良かった。

そこに小さな金髪の女の子が舞い上がって、主役二人と神父の上空を我が物顔で飛び回る。彼女の背中には、「ムシ」としてゃ小さい青紫のチョウの翅……。


〈こら、珠姫っ! あんた何やってんのっ!〉

〈『天使の代わりになるかな』って思ったんだけど……。ほら、あたしの翅だったら、屋内でも大丈夫じゃん〉


幸いな事に神父には見えておらず、騒いでいたのは決して信仰心の欠片も無さそうな新郎新婦の親と同僚くらい。この場の過半数を占める「ムシ」関係者は、ただただ呆れている様子だ。

新郎新婦の退場となり、レッドカーペットの上を歩いて行く中、再び光の粉が振り撒かれる。今度の犯人は、薄い黄緑の翅を持つ菅波杏樹。気配を消しているせいぜ、天井に張り付いている彼女に気付いた者は、やはり「ムシ」の関係者だけだった。


新郎新婦が教会の外へ出た途端、玉根凜華の〈さあ、行くよ!〉の合図で「ムシ」達全員が変異して舞い上がる。すると、教会内は瞬時に眩しい光で何も見えなくなった。

ようやく光が収まった頃、タキシード姿の力哉りきやと純白のウェディングドレスを纏った希美のぞみの二人が、明るい教会の扉から外に現れる。すると、予め外へ出て待機していた人達が、盛大に紙吹雪を舞い上げる。そして、その上空を巨大な「光のチョウ」達が乱舞する。

「ムシ」の関係者以外の参列者は目を白黒させているのだが、前もって「今日は、凝った演出をするつもりだから」と伝えてある為か、恐怖で取り乱す人とかはいなかった。


菅野彩佳が「まあ、ギリギリセーフって感じかしら」と呟くと、大谷真希が「でも、今日の神父さんは、充分にねぎらってあげた方が良いわね」とコメントを加える。

そこに口を挟んだのは、凜華の母親の玉根美華たまねみかだった。


「まあ、うちの娘が髪の毛を伸ばして、蛇のようにクネクネさせたりしないだけマシだわ」


すると彩佳が、「そういや、こないだ朔美ちゃんが、小さなつむじ風を起こすのを覚えたんですよ」と言う。


「でも、真凛ちゃんのスカートを巻き上げるのがやっとって感じなんです」

「ふふっ、それ、うちの知行ともゆきは、喜ぶかもしれませんね」


そんな和やかな会話が交わされている上空では、相変わらず多くの「ムシ」達が乱舞し、盛んに先ほどの結婚式の感想が心話でやり取りされていたのだが、それを知るのは本人達のみ。


彼女達の上には雲ひとつ無い青空が広がっており、ようやく温かくなりつつある山間やまあいの湖畔に、穏やかな春の陽射しが降り注いでいたのだった。




END055


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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