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051: 奏音へのカミングアウト

◇2041年4月@東京都新宿区 <榊原澪>


榊原澪さかきばらみおが、同居している家庭教師の坂下美倖(みゆき)にカミングアウトした後、その美倖のスマホに着信があって、しばらくの間、廊下に出て何かを話していた。

戻って来た時に澪が、「会社から?」と訊くと、「ううん。新しく出来た大学の友達」との事。どうやら、食事会のお誘いのようだ。


「美倖さん、綺麗だから、あちこちからお誘いが来るんじゃないですか?」

「まあ、そうなんだけど、そういうのに付き合ってたら自分の時間が無くなっちゃうでしょう? それで今は、できるだけ断ってるの」


「綺麗だから」という辺りは、否定しないようである。

澪は、思い切って言ってみた。


「あの、でも、美倖さんはまだ学生なんだし、友達とのお付き合いも大事だと思うんです。うちの会社でのお仕事がご負担だったら、私の方からパパに言いましょうか?」


だけど美倖は、「ううん、大丈夫」と言って取り合ってくれない。


「それより、さっきの話なんだけど、私の次は誰にカミングアウトするつもりなの?」


澪は少し考えて、「まずは、立花のお兄ちゃんにするつもりです」と返した。その上で、こないだの兄達の婚約披露パーティーで自分がやらかした事を美倖に打ち明けた。


「なるほど。それは、ちょっとマズかったかもね。まあ、いくら気を付けても間違える事はあるかもしれないけど」

「そうなんです。それで、その後は天井から出入りするようにしてるんです」

「えっ、天井?」

「あれ、『ムシ』になると壁とか天井とかもすり抜けられるって言いませんでしたっけ?」


そこで澪は、再度「ムシ」に変異して、実際に天井との行き来をして見せて納得してもらった。


「でも、今更ながらに夢を見てるようだわ。こんな事に慣れちゃうと、自分がおかしくなっちゃうんじゃないかって、不安なんだけど」

「ふふっ、早く慣れちゃってください」

「紗理奈ちゃんは、もう慣れちゃってるんでしょうね?」

「はい。まあ、私の場合は、『ムシ』になった経緯が特殊だったので……」


そこで紗理奈が自分の「ムシ」になった時にリンチを受けて死に掛けていたって話をして、美倖がドン引きしてしまった後、ようやく再び奏音へのカミングアウトの話になった。


「私、こないだのパーティーの時に奏音さんと連絡先を交換したから、明日の都合を訊いてみよっか?」

「うーん、美倖さんから連絡とかしたら、立花のお兄ちゃん、勘違いしちゃうんじゃないかな?」

「どういう事?」

「『僕に気があるんじゃないか?』って、悩んじゃうって事」

「いやいや、それは無いと思うわ。他の女の子に聞いたんだけど、奏音さんって相当にモテるみたいだもの」

「それはそうなんだけど、あのお兄ちゃん、女の子の扱いはダメダメだと思うんだよなあ……。やっぱり、私から連絡してみるよ」


という訳で、その場で澪から『お兄ちゃん、最近は会ってないから、明日、うちに来ない?』というメッセージを送ったら、直ぐに既読になって、更に一分後に変信が来た。


『実は、僕もそう思ってたんだ。明日の午後二時頃には行くから、待ってて』


「ふふっ、やっぱり奏音さん、澪ちゃんに会いたかったんじゃない」

「うーん、どうなんだろう。それより、私が『ムシ』だってバレてるって事かもしれないし……」

「まあ、明日になれば分かるんだから、今、悩んでも意味ないと思うわよ」


そう言い残して、美倖は部屋を出て行ってしまった。

彼女の最後の言葉に納得した澪は、取り敢えずカミングアウトの話は終わりにして、そもそもの目的のゲームソフトの話を紗理奈と始めたのだった。



★★★



翌日の日曜日、立花奏音は、午後二時になる少し前に一人でやって来た。予め家政婦の片瀬に彼の来訪を伝えてあったので、最上階までスムーズに上がって来られたようだ。

小さい方の応接室で出迎えたのは女子三名、坂下美倖と東山紗理奈、そして榊原(みお)だ。

切り出したのは、美倖だった。


「立花さん、ご無沙汰しています。私の事、覚えてます?」

「えーと、坂下さんだよね?」

「まあ、嬉しいわ」


そう言いながらも何処どこか嘘っぽいのは、美倖も緊張しているからだろうか?


「それより、この部屋に僕を通したって事は、澪ちゃんから何か話があるからじゃないのかな?」


奏音が澪へ視線を向けて来る。彼の顔も少し強張っているって気がする。

澪は、ストレートに訊いてみる事にした。


初音はつねさんの結婚披露パーティーのあった夜、お兄ちゃん、うちに泊まったよね。その時、何か特別な事があったんじゃない?」

「特別な事って、強い光の塊が部屋に飛び込んで来たとか?」

「うん、それの事」


澪は、更に突っ込んでみた。


「お兄ちゃん、『ムシ』って知ってる? もちろん、昆虫とかの事じゃないよ」


奏音は、直ぐには答えなかった。

澪は、「未確認飛行少女(UFG)情報サイト」の「カラクサ」の画像をディスプレイに表示した。


「その時の光の塊って、これなんじゃない?」


今度は、ちゃんと「ああ、これだよ」と言ってくれた。


「これ、私なの。お兄ちゃんも、薄々気付いてたんじゃない?」


さすがに今度は動揺した様子だったけど、元々気付いてたのは間違いなさそうだ。

それでも、「お兄ちゃん、私の事、化け物とか思わないの?」と訊くと、「思わないよ」とハッキリ言ってくれた。

澪は、できるだけ優しい笑顔で、「ありがとう」と言った。


「ちょっと、安心した」

「僕は、ホッとしたよ。どうやって確認しようか迷ってたんだ」

「そっか」


そこで、隣の紗理奈が口を開いた。


「あの、私、澪の友達で、東山紗理奈って言います。実は、私も『ムシ』なんです」

「えーと、『アオスジ』の子かな?」

「知ってらしたんですか?」

「もちろん、君とは初対面だよ。でも、優流から聞いたんだ。えーと、鵜飼優流うかいすぐるって名前、覚えてない?」

「優流さんと、お知り合いなんですか?」


紗理奈が、前のめり気味になって奏音に問い掛けた。


「優流は、僕の幼馴染で親友ってポジションの奴なんだ」

「そうだったんですか……」


そこで澪は堪え切れず、「ちょっ、ちょっと紗理奈、どういう事よ?」と訊いた。


「あのね、夜間飛行の最中に疲れちゃって、タワマンのベランダで休んでた事があったんだ。夜中だから大丈夫って思ってたんだけど、急に部屋の中から声を掛けられちゃって、それが鵜飼優流さんだったの。その時、ちょっとだけ話したんだ」

「何それ、私、初めて聞いたんだけどー」

「だよね。ごめん」

「ひょっとすると、恥ずかしくって言えなかったとか?」


俯いてしまった所からすると、どうやら図星だったようだ。


「まあ良いわ。事情は分かったから。で、お兄ちゃん、その優流さんって、どういう人なの?」

「今も東都大学の同級生でさ。良い奴だよ。彼なら大丈夫なんじゃないかな」

「そうなんだ」「良かった」


安堵の声は、紗理奈と同時だった。


「あの、ちょっと二人に確認しても良いかな?」

「良いけど、何?」

「『ムシ』の子って、みんな、君達のような髪の毛なのかな?」


澪は、彼なら言っても良いと思ったから、素直に答えた。


「うん。そうだよ。でも、こういう髪の毛だからって、必ず『ムシ』になるって訳でもないんだ。例えば、初音さんは『ムシ』じゃない訳だし」

「あはは。それは分かるよ」


そこで、隣の紗理奈が口を開いた。


「あの、どなたか私達のような髪の毛の子をご存じなんですか?」


奏音は少し考え込んでいたけど、答えてくれた。


「実は僕の幼馴染っていうか、小学校の時の同級生の女子がいてさ。そいつとは大学が一緒で、最近、ちょくちょく会うんだ。えーと、ここのパーティーにも来た事があるから、澪ちゃんも知らないかな? 小川千花(ちはな)って奴なんだけど」

「あ、知ってます。千花さんも、初音さんと似た感じの髪の毛ですよね。あれって、ひょっとして地毛なんですか?」

「実は、そうなんだ。それで、その千花に妹が二人いるのは知ってる?」

「いや、初耳です」

「そうだよね。パーティーに顔を出すのは、いつも千花だけだから……。実はさ、その子達が見事な金髪なんだ。真花まはなちゃんと唯花ゆいかちゃんって言うんだけど」


その時、隣りの紗理奈から、〈まさか!〉って声が飛んできた。思わず漏れたって感じだった。


「あの、その真花って、東京精霊女学園の中等部に通ってるとか……」

「そうだよ。実は、僕も初等部に通ってたんだ。あ、もちろん、初等部だけだよ。僕、男だし……」


奏音の冗談っぽい言葉は、完全にスベったって感じだった。紗理奈も澪も、その真花って子に関心が向いていたからだ。


「私、四月から真花と同じ中学に通ってまして、まだ出会ったばかりですけど、真花とは親しい友達なんです……。あの、本当は黙ってた方が良いかもしれませんけど、どうせ直ぐに分かってしまうので言っちゃいます。彼女、たぶん、もうすぐ『ムシ』になります」

「やっぱり、そうなんだ……」


奏音は、そんなに驚いていないようだった。


「あ、それとさ、紗理奈ちゃんだっけ。できたら、優流と会ってやってくれないかな? あいつ、もう一度、紗理奈ちゃんに会いたいみたいなんだ。もし良ければ、僕がセッティングするからさ」


紗理奈は、ちょっと渋ってるみたいだったけど、空気を読んでか「喜んで」と答えてしまっていた。

そこで、今まで黙っていた美倖が言った。


「紗理奈ちゃん。今度、その真花って子、ここに連れて来たら? ねえ、澪ちゃんも会ってみたいでしょう?」


紗理奈は、「分かりました」と頷いてくれた。

こないだ、吉岡苺が「ムシ」になったばかりだけど、『これから、どんどんと賑やかになりそうだな』と澪は思ったのだった。




END051


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

次話からは、また視点が変わって閑話的扱いの話が入ります。

その次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。リアクションだけでも残して頂ければ、嬉しいです。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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