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005:二人の女友達(3)

◇2041年4月@東京 <鵜飼優流&立花奏音>


「それで、これは私からのお願いなんですけど……」


早坂琴音(ことね)の打ち明け話は、まだまだ続くようだ。


「『ムシ』の子の話は、できるだけ広めて欲しくないんです」

「えっ、何で?」


優流より先に、友人の立花奏音(かなと)が不満の声を上げた。それでなのか、琴音の口調がタメ口になる。どうやら琴音にとっての奏音は、弟分のようだ。


朝香あさか高校UFO研究会の目標は、『「ムシ」の子と友達になる』って事なの。元々は『宇宙人と友達になる』だったそうだから、まあ、可笑しくはないよね。私自身はUFO研の部員じゃなかったんだけど、その主旨には賛同してるんだ。ハッキリ言って、私は『ムシ』の子達を全力で守ってあげたいと思ってる」


鵜飼優流うかいすぐるは、この時点で色々と質問したい事がてんこ盛りだったけど、琴音とは初対面なのもあってグッと我慢した。


「だからね。さっき立花くんが、『もっとマスコミとかに出て来てても良いと思う』って言った時、正直カチンときちゃった。だって、考えてもみてよ。『ムシ』の子がマスコミなんかに出たら、とんでもない騒動になっちゃうと思わない?」

「僕はさ、彼女達だったら、有名なアイドルにだってなれると思うんだ」

「あのね、立花くん。アイドルになったからって、それが何なの? 女の子なら誰もがアイドルになりたいと思う訳じゃないのよ。それに、アイドルになる前に、招かれざる連中が大挙して押し掛ける事態になっちゃわない?」

「えーと……、それって、研究者とか?」

「そうよ。最悪、人体実験とかされかねないと思わない?」


優流は、琴音が懸念している事が分かってきた。


「実はね、最初のオフ会に来た奴らが、とんでもない暴言を吐いてたんだって。『「ムシ」は化け物であって、人間じゃない。人権が無いから、何をやったって良い筈だ』って主張だったそうよ。そいつらは研究者じゃなかったみたいだけど、今後、『「ムシ」には人権がない』って言い出す連中が必ず出てくると思うわ」


琴音が言ったのはもっともな事に思えたのだが、まだ奏音は納得していないようだった。


「君は、彼女達が隠れて生きて行くべきだって思ってるのかい?」

「少なくとも、今はそうよ。だけど、これから『ムシ』の子の数が増えて行けば、いつかはマスコミの目に留まるようになるでしょうね」

「だろうね。だったら、それって単なる先延ばしなんじゃないかな?」

「そうじゃないの。少しでも猶予期間を確保して、その間に彼女達の味方になってくれる組織っていうか、サポートする体制ってのを構築したいと思ってる」

「なるほど。でも、それを高校生とかでやるってのは、絶対に無理だよね」

「当然よ。だから、大人達を巻き込んだ組織が、ちゃんと今でもあるの。と言っても、まだまだ脆弱で不十分。これから、頑張って強化してかなきゃなんない。もう、あまり時間が無いのよ。私達が大学を卒業するまでには、ある程度の社会的影響を与えられる形まで持って行きたいと思ってる」


優流は、内心で驚いていた。それだけ琴音の考えが理路整然としていて、その上、具体的なものだったからだ。

でも、それって、既に「ムシ」の子達と交流を持ってる人達が大勢いるって事じゃないのか?


「まあ、今、私が話した事は、ある人の受け売りなんだけどね」


そこで、ようやく優流が口を開いた。


「その『ある人』っていうのが、さっきのサイトの管理人さんってこと?」

「そうよ。実は三月に三回目のオフ会があって、その時に私も弟と一緒に出席したの。そこで、その彼と会って色々と話したんだけど……、その人、一見するとオタクっぽいんだけど、凄く理知的っていうか、頭の良い人だったわ。まあ、現役で東大に入っちゃうんだから、当たり前ではあるんだけどね」

「ふーん、そうなんだ……」


琴音が言うには、その彼は関口仁志せきぐちひとしという人で、福島県岩木市出身との事。彼女によると、最初の「ムシ」の子が岩木市で生まれて、今では「ムシ」達を束ねる「クイーン」と呼ばれる存在らしい。関口は、その子の近所に住んでいて、今まで彼女を支えてきたという。


「あ、僕、その子の事、知ってるよ。『ムラサキ』だよね?」

「そうよ。関口さんのサイトでは、そのように呼ばれてるわね」

「東京でも、確か目撃された事があるよね?」

「ええ。彼女、中学の修学旅行で東京に来た時に、偶然、『アオスジ』を見付けたの……って、あんまり言っちゃいけなかったわね」


琴音にとって「ムシ」というのは、本当に身近な存在であるようだ。


「あの、君達は何となく大丈夫だって思うから、ぶっちゃける事にするわ。実は、私の後輩の従妹いとこの子が、最近、『ムシ』になっちゃったそうなんだ。と言っても私は、まだ会わせてもらってないんだけど……。それに、この事は大半のUFO研メンバーにも内緒にしてる事だから、絶対に口外しないでね」


琴音の言葉には、有無を言わせぬ迫力があった。

ところが、そこで千花が急に声を上げた。


「あのー、さっきから私だけ、全然、話が見えないんだけどー」



★★★



優流すぐるは、千花ちはなが話に付いて来ていないのを薄々感じていた。彼女は小さい頃から現実主義者で、お化けや怪奇現象のたぐいを鼻から信じない傾向にあったのだ。

それでも優流は、一応、確認してみる事にした。


「話が見えないって、何処どこからだよ?」

「うーん、そのサイトにある事の全部かな?」

「でも、ここにある情報って、本物だぞ」

「そんなの分かんないじゃない!」


優流は、溜め息を吐いた。


「まあ、お前なら、そう言うよな」


ところが、早坂琴音が唐突に不思議な事を言ったのだ。


「大丈夫。近いうちに小川さんは、たぶん信じざるを得なくなるわ。だからね、今は知識として持ってくれてるだけで良いの」

「えっ? 私、なんか益々分からなくなっちゃったんだけど……」


千花は、まだ何かブツブツと言っていたけど、もはや琴音は彼女に関心を示さず、「次は、立花くんの方ね」と呟いた。



★★★



立花奏音(かなと)は、早坂琴音(ことね)から聞かされた情報を、なかなか自分の中で消化できないでいた。普通、そういう時ってのは、本題とは別の事を考えてしまいがちだ。要は、心のキャパオーバーによる現実逃避である。

奏音は琴音を一目ひとめ見て、自分と似た上流階級の子だと思った。そうした人種を小さい頃から見てきた彼にとって、同類の見極めなど朝飯前。彼女の仕草の節々に、そうした気品が感じられるのだ。

そんな彼女が「ムシ」なんていう得体の知れない存在に関心を寄せている事自体、どうにも違和感がある。だけど、それが世間一般の見方であるが故に、尚更、「『ムシ』の子を守らなきゃ!」という使命感を持つに至ったのかもしれない。

つまり彼女は、とても正義感に溢れた子なんだろう。まあ、生徒会長なんてやってたぐらいだから、それも当然って事か……。


「おい、奏音。急に黙り込んだりして、どうしたんだ?」


優流に声を掛けられて、奏音はハッとなった。咄嗟に、「ごめん。ちょっと考え事してた」と返す。すると今度は小川千花(ちはな)が、「もう、あんた達二人とも、さっきからボーっとしてばかりじゃない」と睨まれてしまった。


幼馴染の千花は、奏音と同じ歳とはいえ、二人目の姉のような存在だ。その彼女とは中学からは別の学校へ通う事になったけど、ちょくちょく顔を合わせているから、あまり離れていたという感覚はない。てか、家族みたいであるが故に、離れていたって普通に話せる相手なのだ。

千花が姉のような存在だったのは、彼女が五月生まれで奏音が早生まれだったからでもある。つまり、小学校卒業時点でも二人の身長は、千花の方がずっと高かったって訳だ。その上、女子の方が精神面での成長が早い事もあり、未だに言い合いになると全く勝てる気がしない。

だけど、その千花の背丈も今や奏音の方が十センチ近く高い。そろそろマウントを取ってやりたい気分ではある。それで、ついつい彼は、普段なら有り得ない軽率な発言をしてしまったのだ。


「あの、早坂さん。君が『ムシ』の子に並々ならぬ愛情があるのは良く分かったよ。そんでさ。せっかくだから打ち明けるけど、最近、僕も身近な所で『ムシ』を目撃した事があるんだ」

「お、おい、奏音。お前、そんな事、全然、オレに言ってなかったじゃないか!」

「ちょっ、ちょっと鵜飼うかいくん。まずは、聞きましょうよ」


いち早く優流が嚙み付いてきて、すかさず琴音の冷静な声が響いた。

内心、奏音は『先走ったかも』と思いながらも、最近、自分が体験した事を語り出したのだった。




END005


当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。

また次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。

いずれも完結済です。


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/

※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/

※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/

※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。


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